〈三話〉古賀徹内閣総理大臣
ブックマーク・評価・感想は執筆の励みになります。
古賀の家系はよくある政治家一家で、政界にもそこそこの影響力を持っている。古賀徹本人は子供の頃から政界に興味がなかったが周りが「はい、そうですか」と許してくれるはずがなく、渋々この世界に入った。伯父が元総理大臣ということもあり、与党の総裁に担ぎ上げられてしまった。
政治家としては突出した能力はなく平凡だが、国民が望んだのはそんな平凡な政治家だった。強くも弱くもない政治家、その条件に一致したのが古賀徹だったという訳だ。
記者会見後、各報道機関が映像などを本物か偽物かを調べる番組がいくつも放送された。映像の専門家や政府がこの嘘の報道をして何の得があるかまで。もちろん政府もたった映像で国民やマスコミが理解しないことは予想済みだった、そのため次の日には昨日よりも鮮明かつ分かりやすい映像と衛星写真を公表した。それらは十分に理解できるものだった。
以外にも混乱したのは十~三〇代といった若い世代ばかりで、それ以上の世代はあまり混乱しなかった。近年ネットを中心にファンタジー系の小説やアニメが売れ出し映画化までされる作品もある。当然見るのは若い世代だ。故に理解や考えが柔らかいためすぐに受け入れられる、とは限らない。
七年前も同様に比較的に若い世代で混乱が多かった。中年層はどうかというと最初こそ戸惑ったが最後は理解した。いい言い方をすれば「年の功」悪い言い方をすれば「何も考えずに受け入れた」だろう。そしてそんな混乱は意外な方へ向かう。
開国するか否かという議論へ。
日本は否応なしに一七〇年以上も前、つまり鎖国していた時代へ引き戻されたのだ。一七〇年前は一部の人間によって、開国すべきか鎖国するべきかが決められた。しかしその議論が政府の中で具体化するはるか前に国民の間で議論が巻き起こったのである。
ネット上だけではなく至る場所で。未だかつて国民がこれほど国政を熱心に他人と議論したことがあるだろうか?一部野党や市民団体は今すぐ新大陸と接触するべきだと主張した。国民の大多数もそれに続き、年内には大陸と接触するとさえ言われていた。だが年内どころか一生接触しないという選択肢が出てきた。
政府は追加発表では新大陸でもっとも日本に近い沿岸部では、断続的に戦争が発生していることがわかったのだ。そんな中に出ていくのか? というのが議論の分かれ目だった。中には戦争で生じた難民を助けようなどという自分たちの置かれている立場を理解していない人間もいた、当然のことながらすぐに封殺されたが。
政府は「政府の考えでは当面の間、新たに確認できた大陸に存在する知的生命体とその国家との接触は考えていない。その理由としては新大陸の日本海に面している沿岸部では大規模な戦争状態にあることに加え、国内開発を最優先するためです」と発表した。
さらに「大陸に存在する国家の年代を例えるなら産業革命以前のレベルで、例え国交をしたとしても我が国には一切の利益がないという結論に至りました」と事実上の鎖国継続宣言をしたのである。だが・・・古賀が就任してそう宣言して一年も経たないうちに今回の不審船がやって来たのだ。
小修正 10/2 11/28 2/24 5/3
中修正 12/8 1/8 5/1 6/2