〈一話〉始まり
この作品は独自調査・独自解釈で執筆しており、登場する人物・組織・団体および実際に起きた出来事と類似する点があっても全てフィクションである事をあらかじめ断らせていただきます。
平成三十年九月十五日 ビギナーキャンパー。
二〇一八年一二月三一日 平成三〇年。 日本標準時二三五〇時。
年明け十分前、人々は年を明けるのを疑うこともなく過ごしていた。
休暇を取り妻や子供と実家へ帰省する家族。
友人らと年明けパーティーをするため集まった若者たち。
無性に人恋しくなり街を歩く人。
初日の出を山の頂上、海の上で船へ、空中から見ようと移動する旅行者。
快楽や金欲しさに体を売るために待ち合わせをする女性。
人と関わることを拒み部屋に籠る人。
相も変わらずに仕事をする会社員。
炊き出しへ向かうホームレス。
外国で休暇を過ごそうと出国する人々。
そしてまた、宇宙で年を迎えようとする人間もいた。
『ヒューストンから国際宇宙ステーションへ、パーティーの準備は進んでいるかい?』
「こちらISS、ノン・アルコールのビールパック片手にカウントダウンまで待機中・・・・・」
『ははは、こっちのスタッフ一同、君たちと同じくノン・アルコールビールで一緒に乾杯するよ。まあ、私は家に帰宅したら三〇年物の良いワインで妻と乾杯する予定だがね』
「・・・・チッ」
『ハハハハ』
ISSクルーである日本人宇宙飛行士は、ヒューストンことミッションコントロールセンターにいる管制官の嫌みに思わず舌打ちをした。
冷戦時、米国が旧ソ連との宇宙開発競争の産物で生まれたのがISSだ。ソ連崩壊に伴い不要の産物となる。完成どころか計画は二転三転した結果、ロシアや日本を含む一五国での国際共同での建設になった。
ISSのクルーたちは新年を祝うためちょっとしたパーティーを開いていた。もし地上ならビールかワイン、日本酒で乾杯するとこだが宇宙飛行士のアルコール飲料の摂取を固く禁止されている。そのため祝い事の際の飲み物はジュースか、良くてノン・アルコールビールだけだ。悪いことに、この日本人クルーは酒好きだ。その彼からすればノン・アルコールビールはジュースとさして変わらない。だが、アルコールの当てが一つあった。ちょうど後ろを通り過ぎようとしたロシア人クルーを呼び止めた。
「ヘイ、ロシア。少しお話しようか」
「何ですか?」
「その手に持っている飲料パックは何かな」
「・・・・ただのオレンジジュースですけど」
そういいながら目が一瞬泳ぐのを見逃さなかった。笑みを消して真顔になってジッと見つめていると、観念したのかため息をしてパックを差し出す。手に取り封を切って臭いを確かめると飲料パックから香る臭いは柑橘系のオレンジではなく無臭だ。
原則としてアルコールは禁止しているが、ロシアの宇宙局ロスコスモスではアルコール摂取を許可こそしていなが、黙認している節がある。それに現在ISSまでの人員輸送の手段はロシアのソユーズ宇宙船しかないため、アルコールを持ち込むことは簡単だ。オレンジジュースのパッケージに擬装しているという徹底ぶり。
「俺は少しやることがあるから先に行ってくれ。これは貰うからな」
飲料パックを持ち上げていい、ロシア人クルーは苦笑いしながら頷いた。クルーのバイタルは常に全て地上でモニターされている、そのため例え少量でもアルコールを飲んだら脈拍ですぐに分かるだろう・・・そして誰が持ち込んだかも。
地上が見える窓をのぞき込むとちょうど、光に包まれた日本列島が見えた。「10・9・8」食堂の方からカウトダウンする声が聞こえてくる、心なしか普段より声のトーンが大きく早速酔っているようだ。そう思いながらパックを日本に向かって軽く掲げ少しだけ飲む。久々のアルコールが喉に沁み胃が驚いてむせ返る。
「3・2・1――――――」
二〇一九年一月一日 平成三一年。 JST〇〇〇〇時。
ゼロという言葉が聞こえた次の瞬間、暗闇に包まれる。ギョッとして思わず振り向くと先程まで点いていた照明が消えている。隣のモジュールも点いていない。唯一の明かりは小さな窓から入ってくる地球という星明かりだけ。状況を把握するため壁を蹴り他のクルーの元へ向かう。休みなく動き続けているはずの様々な機械が例外なく動作を停止し、一切物音がしない空間に変貌している。そしてクルーがいる食堂へ着いたが一人も存在せず食べかけの缶詰や飲料パックが浮いているだけだ。
どうして誰もいない? もう対処するために動いているのか?
宙を漂っているその様子に軽い恐怖を覚え、電力のコントロールモジュールへ向かう。自分がいるところは空気がある地上ではない、空気が存在しない宇宙だ。電力がないということは人間が生きるのに必要な生命維持装置も動いていない可能性もある。目的のモジュールに到着し、急いで電力のコントロールパネルに陣取る。
例に漏れず明かりは点いていない。本来なら非常時用のバックアップも起動していない。起動しない・・・・とかよしてくれよ、そう祈りながらラックトップの電源ボタンを押す。そんな心配を他所に何事もなく起動。うんざり暗記しておいた非常時のマニュアル通り、本来動いているはずのシステムを再起動させる。一分とかからずにシステムたちは息をふきかえし、電力がISS中に供給され求めていた明かりが点く。
「ISSからヒューストンへ、応答お願いします」
そして十数分前まで話していたMCC-Hへ呼びかけるが応答は無し。アンテナが壊れたのか? そう思ったがISSのアンテナどころか通信機材はオールグリーン、問題なし。再びも呼びかけても反応はない。「クッソ! あいつらこんな時に何やってるんだ!?」非常時にも関わらず姿がを見せない他のクルーに悪態をつき探しに向かった。
「本当に冗談、きついぞ・・・・」
渇き切った声でつぶやき震える指先を動かして通信機器に異常がないかを必死に探す。全てのモジュール、SS中を探した。しかしいるはずのクルーは見つからなかった・・・・一人も。念のため帰還に使うソユーズや宇宙服の数も確かめたが何一つ減っていなかった。まるでクルーだけが影も形もなく”消えてしまった”かのように。地上と交信を試みようとしたが全く繋がらない、交信不可能なのだこのISSだけではなくこの宇宙で自分一人だけなのでは? そんな考えがよぎる。
その時、ふと近くの窓を見た頭が真っ白になった。ISSは地上から四〇〇キロ上空を秒速八キロ、速度にして二七万六〇〇キロで地球を回っている。九十分で地球を一周しており一日で一六週している。つまり太平洋上空でも少し待っていれば陸地が見えるはず、だが眼下に見えている地球は違う。
窓にしがみつくように地上を呆然と見つめた。数秒? 数分? 経った時、目に暗闇地上にぽつぽつと星のような明かりが見えた。窓に顔を付けんばかりに近づきよく見ると、薄っすらと暗闇の中に生まれ故郷である日本列島が見えた。少し前に見た日本列島ほど光に包まれておらずポツポツとしか光がない。
『―――こちらJAXA、聞こえますかISS? こちらJAXA・・・・』
本来なら歓喜するべき声に日本人クルーは窓の向こうに見える異常な光景から目を離さないで自分でも分かるらい震えた声で通信に答える。
「こちらISS、そちらからの通信を受信、声もはっきりと聞こえている」
『ああ良かった! 原因不明の停電によりや他局と通信がつなりません。いくつかの通信衛星とも繋がらない状態です。ですのでそちらが日本上空を通過している直接回線しか通信はできません。そちらから他の宇宙局との通信は可能ですか?』
「聞こえるかJAXA、日本の周りが・・・・いや大陸が」
相手の質問には答えず独り言のようにつぶやく。いま自分が見ている地球の状況を報告して果たして信じてもらえるだろうか?
「消えた・・・・」
あらすじでは便宜上「移転」という言葉を使用していますが、作中においては他作者様のように移転や異世界といった言葉は一切使用しません。あくまでもシリアス+リアリティー系の架空戦記小説です。
それとファンタジー要素は第二章からでダラダラと前置きが長いです。
処女作であり自己満足執筆のため毎日のように加筆・修正を行いますが、ストーリーが大きく変わることはありませ。また「後書き」の一番下にある小修正・中修正・大修正、というのは小修正から誤字脱字の修正、多少の表現の変更、大幅な内容・表現の変更、となっています。
小修正 9/29 11/14 1/25 9/10
中修正 2/27 3/8 5/10 6/1 10/23
大修正 10/16 5/24