嵐の前の静けさ
「乃木さん、作戦名を発表したいと思います」
「へ?作戦名ですか?」
「はい。その名も『不審者装ったら入れんじゃね』作戦です!」
「……………………」
「その名も『不審者装ったら』」
「いや、聞こえてるよ。聞こえてないと思いました?」
「え、違うんですか?」
「天然なのか……」
「作戦名はいいんです。重要なのは内容です。まず、乃木さんにやって欲しいことはこの家の周囲を歩き回ることです」
「歩き回るだけですか?」
「はい。ですが、出来るだけ怪しい行動をしてください。例えば、覗いてる感じを出すとか」
「見つかったら警察に通報されますよ」
「見つかるのが目的です。それに警察に通報されることはほぼありませんよ」
「何故ですか?」
「昨日から気づきませんか?脅迫状が送られてきているというのに警察の姿が有りません。つまり、この家の主、お父さんでしょうけど警察に連絡できない、又はしたくない理由があるのでしょう。それに、この家の周辺に他の家はありません。他の誰かがこの家の近くを通る可能性も低いでしょう」
「なるほど。それなら安心ですね」
「はい。早速お願いします。何かあれば連絡を」
「わかりました」
「では、作戦に移りましょう」
乃木はそそくさと歩き始めた。それとは対照的に鏡花はその場に留まり、作業を始める。
時刻は17時を回ろうとしていた。日が少し傾き始めたが気温は日中と差ほど変化ない。
だが、それは急に来た。
「な、なんだ!離してください!」門の前で乃木の叫び声が聞こえた。
「乃木さん、どうされたんですか?」鏡花が様子を見に行くと、そこには使用人と思われる男性と女性がいて、乃木が捕らえられていた。
「橋爪さん、来ちゃダメだ」
使用人の女が鏡花に近づく。鏡花は抵抗することなく使用人に捕まった。
二人は捕らえられ、豪邸の広間に連れていかれた。二人はここで待つように言われ、使用人の女性が誰かを呼びに行く。監視役として使用人の男性がいるようだ。バレないように小声ではなす。
「橋爪さん、すみません。俺のせいで作戦が台無しに……」
「乃木さん、あなたは失敗なんてしてません。作戦は成功です」
「へ!?」驚き、思わず大きい声を出してしまった。
「どうかされましたか?」使用人の男性が二人が何かを話していることに気づき、話しかけてきた。
「いえ、なんでもありません」鏡花はなんとかその場を凌ぐ。
「お話は後ででよろしいですか?」
「はい。すみません」
すると、扉が開き人が4人入ってきた。そこには橘朝日の姿もあった。
「この者たちは?」この豪邸の主人と思われる男性が装飾された椅子に腰をかけ、問いかける。
「はい。この周辺をうろついていた者たちです。脅迫状を送りつけてきた犯人かもしれません」使用人の男性が答える。
その時、
「乃木じゃないか!」朝日が驚いたように言った。
「朝日!」乃木はそれに答える。
「なんだ朝日知り合いなのか?」
「オヤジ、俺の友達だよ」
「何故お前の友達がこんな所に?」
「オヤジごめん。俺、実は脅迫状のことこいつに相談しちゃったんだ。外部に漏らすなって言われたけど、やっぱ俺じゃ見当もつかないしオヤジや他のみんなの身に何かあったらって思うと、居ても立っても居られなくて相談しちまったんだよ」
「なんてことを…うちのことに他人を巻き込むなんて」
「ごめんオヤジ…」
「まぁ、こうなっては致し方ない。公子余ってる部屋はあったか?」
「ええ、あります」公子と呼ばれる人は答えた。
「息子の友人ならば信じよう。しかし、この事を知ったからには何日かは外に出てもらっては困るんだが」
「こんな時に面倒ごとを…」使用人の男性が小言を言う。
「まぁ、そう言うな。息子の友人なら瑣末な扱いにはできんだろう。だが、その前に君達が何故この周辺をうろついていたのかは教えてもらおうか」
鏡花と乃木は、白紙の謎についてや、ここに来た理由などを説明した。
しかし、その裏で事件は進んでいた。