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金糸雀古城殺人事件6

「お二人ともくれぐれも何かに触ることのないようにお願いしますね」そう言うと、鏡花はハンカチを取り出して半開きのドアを押し開ける。部屋の中は鏡花の言う通りの状態であった。ソファの近くのカーペットにはコーヒーのシミが僅かに残っており、所々に捜査の跡だろうか、白い線が残されていた。

「本当に現場はそのまま残されてるんだな。あれ、この部屋鏡花のとこの『文鳥の間』と違ってカナリアの写真とかが飾られてるわけじゃないのな」

「確かにそうですね。乃木さん素晴らしいです!着眼点が良くなっています」

「えっ、そ、そう?」鏡花に褒められ、乃木は照れ臭そうにしている。

「でも、確かに変ですねカナリアに関するものが見当たりません…」

「鏡花さん、これなんでしょうか?」小春は何かを指して言う。

「どれでしょうか?」鏡花は小春の方へ歩み寄り、指差す方を見る。

「フックですかね?何かが掛かっていたのでしょうか?そういえば、私の使っていた『文鳥の間』にもあったような…」

「フックにしては少し長いですね」

「…………この部屋は密室、使用人の方々は……」鏡花はブツブツと呟いている。

「何言ってんだ?」

「なるほど、確かにこの部屋には写真や絵は必要ありませんね」

「ん?どういうことだ?」

「このフックにはゲージが掛けられていたんですね。使用人の方々はカナリアの声を聞いてドアを壊したわけですから、この部屋には本物のカナリアがいたというわけです」

「そうか。本物のカナリアがいたから写真は必要ないんだ」

「ええ、そういうことです。と、なると他の部屋も気になります」

「どうしてだ?」

「亡くなられた久方万斉氏は鳥類をこよなく愛していました。それに資産家ですからお金に不自由ない生活をしていたでしょう。その彼がカナリアしか飼っていなかったとは思えません。もしかしたら、他の部屋も同じように部屋の名前と同じ鳥を飼っているのかもしれません」

「お世話が大変そうだな」

「使用人の方々がされているのでしょうね。今日はこれくらいで失礼しましょうか」

三人が『金糸雀の間』を後にすると、若い男に遭遇した。

「あなたたちは?」

「あ、洋平さん、この方達は私の友人です。同じサークルで活動しています」

「そうですか。ごゆっくりどうぞ」どこか素っ気ないその男はそう言い、階段を上がっていった。

「あの人が藤子さんの息子の洋平さんか?なんか素っ気ないな」

「彼は大学の首席らしいですよ。父親の影響でしょうか?」

「へーすごいな。勉強できそうな顔してるもんな」

そんな話をしていると藤子が部屋から出てきた。

「あら、みなさんどうかされましたか?」

「あ、藤子さん、今洋平さんに会いましたよ」

「帰ってきてたのね」

「はい。それと、私達はこれで失礼します。その、明日もお伺いしてもよろしいですか?」

「明日は……」

「あっ、何かご予定があるなら大丈夫です」

「いえ、大丈夫よ。紅子さんが信頼を置いたあなたたちなら」

「何かあるのですか?」

「実は明日は夫の相続会議があるの」

「相続会議?藤子さんと洋平さんが相続するのではないんですか?」

「ええ。私はそうだと思っていたのだけど、夫は生前信頼を置いていた方が何人かいるということでその方達にも権利を与えると、かねてから言っていたのよ。さっきまでその準備をしていたの」

「でも、そんな大事な日に私たちがいたら…」

「いいの。あっ、そうだ、あなた達にには証人になってもらおうかしら」

「証人ですか?」

「ええ、こういうことは外部の人がいた方がいい気がするの」

「藤子さんがそう言うのなら、お伺いさせていただきたいと思います」

「待ってるわね」

鏡花たちは久方邸を後にする。

小高い丘を下る途中、乃木は不意に久方邸の方を振り返ると窓からこちらを見る女性がいた。

「誰だろう?あの人」

「何ですか?乃木さん」小春が聞く。

「いや、窓から誰か見てるんだよ、ほら」乃木は小春の方を見た後、再び振り返り指を指す。しかし、乃木が指した方向に人の姿はなかった。

「誰もいないじゃないですか」

「いや、確かに誰かがこっちを見てたんだけど…気のせいだったか?」

「気のせいですよ。行きましょう」

「ああ…」

三人は駅に到着した。駅まで来ると久方邸は少し小さく見えた。

「なぁ、鏡花、久方邸ってなんか合ってなくないか?」

「何がですか?」

「いや、その周りの雰囲気にって言うか、日本らしくないと言うか」

「あー、私もそれ思ってました。なんか、和な感じがしませんよね」

「それは、久方邸が中国の紫禁城をモチーフに作られたからですよ。それでも少し和風な感じもしますが」

「じゃあ、二階に上がる階段に飾ってあったあの絵って、紫禁城だったのか」

「はい」

「なんで、紫禁城なんだろうな」

「わかりません。しかし、久方邸は代々受け継がれてきたものですから何か中華風にする理由があったのかもしれませんね」

話をしていると、遠くに電車の姿が見えた。

「あっ、電車来ましたよ」

「では、お二人とも明日のことについては家に着き次第連絡を入れますね」

「おう」

「はい」

三人は家路につく。

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