金糸雀古城殺人事件5
「皆さん折角来られたのですから、ゆっくりしていってくださいね」先ほど招いてくれた女性が言う。
「ありがとうございます。しかし、鏡花が無事とわかったからには……」乃木は口ごもる。
「あ、鏡花さん、事件について何かわかりましたか?あっ!」小春はそう言った後に気付いた。
「気にしないでください。主人は私の知らないところで何か悩みを抱えていたのかもしれません…」
「すみません…」小春は申し訳なさそうな表情をしている。
「ん?主人は?って言うことは、あなたは亡くなられた久方万斉氏の奥さんなんですか?」乃木は女性に尋ねる。
「紹介がまだでしたね。この女性は久方万斉氏の奥様で、久方藤子さんです」鏡花が割って入る。
「よろしくお願いします」藤子は柔らかい笑顔を見せる。
「この邸宅には他にも人がいるんです。使用人の方が3人と藤子さんの息子さんが一人」
「今は見当たらないようだけど?」
「本当ですね。藤子さんの息子さんの洋平さんは学生なので大学に行っていますが、使用人のお三方はどこでしょうか?」
「紅子さん達なら掃除をしてくれているのかも。後で紹介しますね。私はやらなければならないことがあるので失礼するわ。何かあればいつでも声かけてね」そう言って藤子は去っていった。
「えっと、鏡花には聞きたいことが色々あるんだけど…」
「では、私の使わせて頂いているお部屋へ行きましょうか」鏡花は二人を連れて行く。中央の階段を上ると乃木の目には、大きな城が描かれた絵が入ってきた。吹き抜けの二階へ上がり、左右に分かれている廊下を右に行く。
「こちらです」扉には『文鳥の間』と書かれている。
「『文鳥の間』?」乃木が首を傾げていると、鏡花は扉を開けた。鏡花が扉を開けると十何畳はあろうか、一人の部屋とは思えないほど広い空間が広がっていた。テーブルが一つに、端の方にベッドが置いてあり、テレビとソファまである。
「すげぇ。ただの部屋だよな」
「こんな広い部屋があったらいいのになー」小春は願望を漏らす。
「なんか俺はちょっと苦手かもしれない。なんか閉塞感があるって言うか…」
「確かにそうですね、この部屋には窓がありませんから。おそらく他の部屋もだと思いますよ」鏡花が説明する。
「そう言えば、『文鳥の間』って……」乃木の疑問の答えはすぐ見つかった。部屋には文鳥の写真や絵が飾ってある。
「文鳥の間ってこう言うことだったんですね」
「はい。亡くなられた万斉氏は鳥類をこよなく愛していたようですね。その中でも金糸雀、つまりカナリアが一番好きだったようです」
「そうだったのか。だから、久方邸は金糸雀城って呼ばれてるのか」
「乃木さん知らなかったんですか?」
「小春ちゃんは知ってたのか?」
「ええ、以前何かの番組で見た覚えがあります」
「そっか。ところで、鏡花」
「何でしょうか?」
「事件について何か分かったのか?後で教えてくれるって言ってたけど」
「あ、その話ですね。私が昨日一日で集めた情報では、久方万斉氏の部屋は一階に左右に三つずつある部屋の、玄関から見て右側奥の部屋です。名前は勿論『金糸雀の間』です。まだ、部屋は発見当時のままで、警察の捜査がされた状態のままでした。ですので、久方氏がどこに倒れていたかなども分かりました。久方氏が発見された『金糸雀の間』もこの部屋と同じ大きさの部屋です。恐らく、ほぼ全ての部屋の大きさは同じだと思います。久方氏は部屋の真ん中にあるソファに座っていたようです。ソファの近くにはコーヒーの跡もありました」
「そのコーヒーから毒が検出されたんだよな?」
「ええ、そして警察が自殺だと判断した理由として、密室の謎です。使用人の方々の話では食事の時間になっても久方氏が現れないので部屋に行ったところ、カナリアの騒がしく鳴く声がしたそうです。それで、何かあったのではないかと思い隣の部屋にあった金棒でドアノブを破壊して入ったところ、ソファにもたれかかっている久方氏を発見した、ということです」
「カナリアが騒がしく鳴いていたからって、不審に思うものなのか?」
「カナリアは美しい鳴き声で有名ですから。私たちにはあまりわからないかもしれませんが、ここに長年勤めている使用人の方々ならその違いを不自然だと感じたのかもしれませんね」
「なるほどです」小春は難しい顔をしている。
「先程はすぐに二階に上がって来てしまいましたので、後で現場を見に行きましょうか?」
「そうだな。だけど、そんな長居していいのか?家にも帰らないと」
「あ、そうでした。現場を見たら今日は一旦帰りましょうか。また、明日伺いましょう」
三人は現場となった『金糸雀の間』を見に行く。鏡花の言っていた通り、『金糸雀の間』のドアノブは破壊されており、ドアが半開きになっていた。




