金糸雀古城殺人事件4
隣町まではそう時間は掛からなかった。久方邸は駅からでも見える大きさだ。小高い丘に聳え立つ城の辺りには、他に建物はなく、何者をも寄せつけないオーラを放っている。
「小春ちゃん、覚悟はいいか?」
「は、はい。なんか、とんでもないオーラですね。あそこだけ別世界っていうか……」
「そうだね。大丈夫か?」
「だ、大丈夫です!鏡花さんが心配ですから!何もなかったらすぐ帰りましょうね」
「ああ、わかったよ」
二人は小高い丘を登り切り、久方邸の前まで来た。近くまで来ると、スケールの大きさに圧倒された。
「行くよ」乃木は覚悟を決めてベルを鳴らす。
チリンチリン
………………………
数十秒経ったであろうか反応はない。乃木がもう一度ベルを鳴らそうとした時、
キィー
「どちら様でしょう?」一般の家の2倍はあろう扉から、見た目は若い、優しそうな女性が出てきた。
「あ、あの!私たち人を探してここに来たのですが…」小春は緊張気味に言う。
「人を?」
「あの、誰かお宅を訪ねられて来ませんでしたか?」乃木は意外にも冷静だ。
「ええ、来ましたよ。隣町にある大学の学生さんが」
「あっ!」二人は顔を向け合う。
「もしかして、橋爪鏡花という人ではないですか?」
「あら、よく分かったわね。あなた達知り合いなの?」
「はい!探している人っていうのはその人のことなんです」
「そうだったのね。彼女ならここにいるわよ。入ってちょうだい」
乃木と小春は久方邸へ招かれた。久方邸の中想像通りの豪華絢爛な装飾が目立ち、部屋の数が沢山ある。二人が呆気に取られていると、聞き覚えのある声が響いた。
「乃木さん!小春さん!」見上げると鏡花が二階から覗き込んでいる。
「鏡花!」
「鏡花さん!」
鏡花は、二階から駆け下りてきた。
「どうしたんですか?お二人とも」
「鏡花さん、連絡したんですけど返信がなくて…」
「あっ!そういえば携帯の充電が切れてしまいました」
「申し訳ありませんでした」鏡花は深々と頭を下げる。
「でも、無事で良かったです。ね?乃木さん」
「…………」
「乃木さん?どうされましたか?」鏡花は乃木の顔を見る。
「どうしましたか?じゃない!心配したんだぞ!どうして何も言ってくれなかったんだ!?ずっと嫌な予感がしてたんだ……」乃木は柄にもなく声を荒くする。
「……ごめんなさい」鏡花は俯いて、落ち込んでいる。
「……よかった。悪い予感が外れて本当に良かった。でも、ここまで来たんだ、教えてくれよ。お前はどうしてここにいるんだ?」
「はい。実はメールの返信が来たんです」
「メールって、ヘルプのホームページに来たっていう、あれか?」
「そうです。それで、最後に乃木さんにメールした後その方にお話をお伺いするために隣町まで来たのですが、流れで久方邸にお邪魔することになったんです。連絡できなかったことは本当にすみませんでした」
「そうだったのか。安心したよ。それで、何かわかったのか?」
「はい。状況は把握できました。もう、警察の方は撤収したので自由に動けます」
「そういえば何事もなかったかのようになってますね」小春は辺りを見回す。
「まだ、ニュースにはなっていませんでしたか…恐らく警察は自殺として処理し、発表するでしょうね。状況が状況でしたから」
「そうなのか」
「あとで詳しく話しますね」




