恋の行方3
「まさか、もうわかったというのか?」俵田は驚きを隠せない。
「鏡花さん、何て読むんですか?」
「小春さん、これは打ち間違いですね。アルファベットの文字盤で打っていることにも気付かない程に体調を崩しているようですね」
「アルファベット?」
「そうです」そう言うと鏡花は携帯を取り出した。
「このメールの文字を日本語の文字盤で打つと、『冷蔵庫に材料あります』になりましたよ」
「あ、本当だ」
「何のことかわかりますか?」
「あの子、昨日遅くまで何してるのかと思ったら今日の分の仕込みをしてくれていたのね…」食堂のおばさんは冷蔵庫を確認する。
「あら、しっかりと仕込みしてあるわ」
「よかったですね」中村がそう言うと、
「まだですよ。この方の依頼はまだ終わっていません!お昼まで時間がありませんからね」鏡花は腕まくりをする。
「そうでした。謎が解けたらちょっと安心してしまいました」小春は笑いながら言う。
「私と小春さんは料理の手伝いをします。お二人は他にできることはないか聞いて、サポートの方お願いします!」
「お、おう!」
「わかりました!」
鏡花たちは二手に別れ食事の用意を始める。
「今日のメニューは、オムライスとカレーと牛丼よ。作り方はこの紙に書いてあるから、分からないことがあれば聞いてね。作れるかしら?」
「頑張ります!」
「そちらのお二人はテーブルを拭いてもらえないかしら?」
「わかりました。行きますよ、部長」
「むむむ」俵田は難しい顔をしている。
「どうしたんです?」
「謎解きではないとなると今回は私の出番は……」
「なーに言ってるんですか、アピールしなくていいんですか?」
「仕方ないな」俵田は布巾を持ってテーブルを拭きに行く。
各々が自分の仕事に専念していると、外から声が聞こえてきた。
「あら、もうこんな時間。みんな、もう学生が来てるわよ」
「えっ、もうそんな時間ですか!?」小春は驚いて時計を見る。
「小春さん落ち着いてください。みなさんの頑張りのおかげで大体終わってますよ。後はご飯を提供するだけです」
すぐに学生の集団が入ってきた。
鏡花と小春は用意した食事を次々と提供する。
「鏡花さん!用意していた分が無くなりそうです」
「はい。調理に回りたいですけど、この人の数を小春さん一人では捌ききれません」流石の鏡花も動揺している。
「鏡花、手伝うよ」
声のした方を見ると乃木がいた。
「乃木さんどうして?」
「まぁ、様子を見にきただけだよ。それよりも忙しいんだろ?代わるから鏡花は料理を作ってくれ」
「はい!」鏡花は急いで調理場に入る。
「乃木さん、グッジョブです!」小春は嬉しそうだ。
全員の食事を配り終えると鏡花は深呼吸をした。
「みんな、ありがとね。片付けは私がやっておくからあなたたちもご飯食べてちょうだい。お金はいらないからね」
こうして、いつもと違うヘルプの活動は終わった。
「俵田さんに中村さん、今日は本当にありがとうございました。とても助かりました!」鏡花は頭を下げる。
「お役に立ててよかったです。ね?部長」
「そうだな。いい仕事をした気分だ」
「また、何かあれば私たちに言ってください」
「はい。ありがとうございます」鏡花はもう一度頭を下げる。
「では失礼しようか、中村君」
「そうですね。では」俵田と中村は去っていった。
「あれ?そう言えばあの人ら何で鏡花を探してたんだ?」
「乃木さん、何故それを?」
「いや、部室に来て鏡花の所在を聞いてきたんだ。だから、お前に連絡して教えたんだよ」
「そうだったんですね」
「まぁ、いいや。戻ろうぜ」鏡花たちは部室へと戻る。
「部長、疲れましたね」
「そうだな。いいことをしたな」
「そうですね………あれ、部長、何で私たちこんなことを?」
「……そう言えば、何をしに行ってたんだ私たちは」
「あっ!」二人は目的を思い出した。
「今日も進展がなかったな…」
「でも、少し仲良くなれたのならそれは大きな一歩じゃないでしょうか」
「それもそうかもしれんな。また、次があるさ」
「他人事ですね。自分のことなのに」
「いいのさ、これで」




