恋の行方
私の名前は俵田一成だ。覚えているだろうか?少し前に『ヘルプ』の部長である橋爪鏡花にコテンパンにされた男だ。不覚にも私は橋爪鏡花に恋をしてしまった。私はこの気持ちをクイズにして、挑戦しようと思う。
「会長何しているんです?」
「中村君、君は私の恋を応援してくれるか?」
「まさか、『ヘルプ』の部長さんですか?」
「当たらずしも遠からず」俵田は中指で眼鏡を少し上げる。
「いや、当たってるんでしょ?」
「まぁ、そうとも言うな」
「そうしか言わないよ。面倒くさいな」中村が呆れていると、俵田は神妙な面持ちで話し始めた。
「こんな不思議な気持ちは初めてだ。見ず知らずの相手にこのような感情を抱くことが、かつてあっただろうか?いや、ない!」
「それで?」
「私が感じたことのない感情、即ち恋心に違いない」
「え!?恋したことないんですか?」
「わ、悪いか!」
「いや、良い悪いの問題ではないですけど、ちょっと驚きです」
「故に、私はこの感情が何かを解決しなければならない。手伝ってくれないか?」
「まぁ、特にすることもない訳ですし、いいですよ」
「流石だ、中村君。では、さっそくだが…」
「何をするんですか?」
「…何をすればいいんだ?」
「…………」沈黙の時が流れる。
「何をすればいいのか君にも考えてもらいたいんだ」
「そういうことですか。仕方ないですね」
「恩に着るよ」
「まずは『ヘルプ』の部長さんに会いに行くところからですね」
「いきなり行くのか!?」
「ええ、だって頭で考えったって何も解決しませんよ。やっぱり、実際に会ってみるのが一番いいですよ」
「そうなのか…」
「どうしますか?やめますか?」
「………いや、やろう!男として、やるべき時はやるさ!」
「じゃあ、さっそく行きましょうか」
「ま、待ってくれ。何を話せばいいんだ?」
「話すことを事前に考えたって意味ないですよ。会話の内容なんてその時々で変わるんですから」
「それもそうだな…」
「大丈夫ですよ、あの部長さんはいい人そうでしたから」
「そ、そうだよな!では、行くぞ!」
俵田と中村は『ヘルプ』が使用している教室の前に来た。
「電気が点いているということは誰かはいるってことですよね?」
「そのようだな」
「じゃあ、入りましょう!」
「ああ」
「……………」俵田は扉の前で佇んでいる。
「どうしたんですか?早く入りましょうよ」
「わ、わかっている。そう、急かすな」
「まさか、ここまで来てビビってるんですか?」
「そ、そんなことあるまい。開けるぞ」俵田は扉を開ける。
「失礼するぞ」
部屋の中には乃木の姿だけがあった。
「あれ?あんたこの前の…誰だっけ?」
「俵田だ!」
「ああ、そうそう。で、またなんか用?」
「乃木さん、部長さんはどこにいますか?」
「中村さんだっけ?鏡花なら、小春ちゃんと校内のどこかにいるはずだけど」
「ちょっと、待て。なぜ、中村君の名前は憶えていて、私の名前は覚えていないのだ!?」
「細かいことはいいじゃん。鏡花を探してんなら、連絡取るけど」
「お願いします」
乃木は携帯電話で鏡花に連絡を取る。
「今、学食にいるらしいよ。行ってみたら?」
「わかりました。ありがとうございます。会長行きましょう」中村は俵田を引っ張って出て行った。
俵田と中村は第一食堂に行ったが、鏡花と小春の姿はない。
「第二食堂の方だったのかもしれませんね。そっちへ行ってみましょう」
「そうだな」
「そういえば、夏休みは食堂やってないはずなのになんの用があって行っているんでしょうかね?」
「何か依頼というやつではないのか?あのサークルはそのような目的のサークルであろう」
「もし、そうだとしたらチャンスじゃないですか!?」
「なぜだ?」
「だって、一緒に解決したらそれだけ距離も縮まりますよ!」
「なるほど、その手があったか。吊り橋効果に近いものがあるな」
「ええ。早く第二食堂に行きましょう!」




