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骨董屋の嘘4

 一時間ほどが経ち、小林が苛立ちを見せながら戻ってくる。

「本当に何?こっちだって暇じゃないのよ」

「私が刑事さんにお願いしてあなたを呼んでもらったんです」

「また、あんたなの?くだらないことだったら許さないわよ!」小林は鏡花を睨む。

「事件の全貌ですよ。あなたを決して逃がしません」

「ふっ、何を言っているのかわからないけど勝手にしたら?」小林は余裕の表情を見せる。

「では、始めます。最初に言っておきたいのはここで殺害された男性は、この店の店主ではありません。この店の所有者はあなたですね?」

「何を言っているの?たまたま通りかかったって言ったはずよ」

「いえ、それにしては不自然なことがいくつかあるんです」

「へぇ、一応聞こうかしら?」

「はい。私がそう思った理由の一つとして、被害者の男性の背はこちらにいる鑑識の男性の背とほぼ同じくらいです」

「だから?」

「すみません。手を伸ばしていただけますか?」鏡花は鑑識の男性に頼む。

「ああ」鑑識の男性は手を上に挙げる。

「それがどうしたの?天井に余裕に届くくらいの背の高さってだけじゃない」

「その通りです。では、質問します。手を伸ばせば天井に届く人が脚立など必要とするでしょうか?」

「わざわざ使わないでしょ。逆にやりづらくな…あっ」小林は気付く。

「そうですよね。では、そこにある脚立はなんでしょうか?」

「べ、別の部屋で使うんじゃないのかしら?」

「そうかもしれませんね。ですが、私が疑った理由はもう一つあります。それは、あなたが一時間ほど前にこの店のトイレを使った時のことです」

「使っちゃだめだった?」

「いえ、そんなことはありません。ですが、初めて来るお店のトイレの場所がよくわかりましたね。あなたは迷わずにそちらの扉を開けました。とても不自然です」

「それは、そこがトイレなのかと思って開けたらトイレだっただけの話よ。事件とは関係ないわ」

「では、こちらの骨董品のいずれかにあなたの指紋が付いている可能性はありませんか?」

「ふっ、調べてみれば?」

「自信があるようですね。このために指紋を拭き取ったからですか?それに、先ほど触ってしまったと言えば言い逃れもできますしね」

「ずいぶんな言いようね。それに、あんたは自分で逃げ道を作っているのよ?」

「いいえ、そんなもの逃げ道にはなりません。こちらには決定的な証拠があるのですから。あなたの盲点であり、先ほど触ったなどという言い訳が通じない証拠が」

「なんだ、それは?早く教えてくれ」刑事が鏡花を急かす。

「鑑識さんと先ほど確認したのですが、なぜだかこの店の電気は点きませんでした。ライトのカバーを取ってみると、電球が抜き取られているんですよ。それで、鑑識さんもとても大変そうでした。どうして、電球を取ったりしたんでしょうかね?」

「知らないわ」

「小春さんはどうしてこのお店に入ったのでしょうか?」

「さぁ?何か気になるものでもあったんじゃない?」

「そうでしょうね。しかし、私は駆け付けた時そんなものは見ませんでした。そこで、あなたが何らかのトリックを使ったのだと思いました」

「トリック?」

「はい。あなたの目的はそのトリックに引っかかっただれかに凶器を触らせ、濡れ衣を着せることです。そして、暗くてはいけないもの、逆に言えば明るいと見えないもの、それは光です」

「光?それがどう関係あるんだ?」

「暗がりの中に光が見えたら、何か気になりませんか?」

「ああ、確かに気になるな」

「トリックは簡単です。光の出るもの、多分携帯でしょうが携帯を糸か何かに括り付けます。仮に糸とすると、その糸を滑車のような形で骨董品の壺のどれかの上にセットします。落ちた時に丁度、壺に入るようにして。その状態で携帯が括り付けられている方とは反対側の端を、天井を通しながら店の扉に貼り付けます。この時、滑車にあたる突起や棒などには刃物が付けられています。そして、その光を見た誰かが店の扉を開くと、糸が引っ張られ、刃物で糸が切れ、その何かは壺の中に落ちるということです。あとは、偶然声を聞きつけてやってきた通行人を演じて、さりげなく糸を回収するだけです」

「じゃあ、その証拠はこの骨董品のどれかに入っているのか?」

「ええ、おそらくは。私は携帯電話だと思っています。それを調べれば被害者との関係もわかるかもしれません」

「おし、探すぞ!」刑事はいきり立っている。

「そんなもの探したところで、何がわかるのかしらね」小林はなお余裕の表情だ。

「……なるほど、あなたの余裕な表情を見てわかりました。それも見つかる可能性があることを含めての計画ということですね」

「そ、そうなのか?」刑事は落胆する。

「もう打つ手はないのかしら?」

「…………」鏡花は黙っている。

「刑事さん、決定的な証拠がないみたいですよ。無駄足でした。ここまで私を犯人扱いしたわけですから、責任取ってもらえますよね?」

「そ、それは…」

「取れないんですか?一般人にまで頼ったのに?」

「ぐぬぬ…」ぐうの音も出ない。

「では、この件はあとで本庁の方にでも言いに行きましょうか。では」小林は勝ち誇った顔で去ろうとする。

「まだ、終わってませんよ」

「いい加減にして!まだ、何か言いたいの?」

「ええ!小春さんの受けた痛み、あなたにも理解してもらわなければいけません。あなたを逃がしたら私は小春さんに会わす顔がありません。あなたが気付いていないことはもう一つあるんです」

「あら、なにかしら?」

「先ほど説明したトリックなどは状況証拠に過ぎません。これらをいくら積み上げても、あなたを検挙することは困難でしょう。しかし、決定的な証拠はあるんです」

「な、なんだ、それは?」

「指紋です」

「はぁ?あんた馬鹿なの?骨董品の指紋はさっき触ったかもしれないから、付いていてもおかしくないって話したじゃない」

「ええ。ですが、指紋が付着しているのはそこだけではないはずです。客としても、先ほどの時間にも、あなたが触ることのできない場所から指紋が検出されたら、それは十分な証拠になりませんか?」

「そんなのあるわけが」

「では、教えましょう。小林さん、取り外した電球をどうしましたか?」

「っ!?」

「取り外すときについた指紋が見つかれば、言い逃れはできません。電球なんてお店の所有者くらいしか触らないですから。これが私の最後の切り札です。この店のどこかにあるはずですよね?」

「……………」小林は黙っている。

「どうした?認めるのか?」

「そうね…ここまで来て抗うのも格好悪いし、認めるわ」

「認めるんだな。とりあえず、署まで来てもらおう。証拠品は後で所轄に探させる」

「………」

「待ってください。私も行きます。小春さんを迎えに行きたいですから。だめですか?」

「わかった。助手席で頼む」

「ありがとうございます!」

 小林はパトカーに、鏡花は刑事の車に乗って小春のいる警察署へ向かった。


「鏡花、まだかよ…」

 乃木が祈っていると、警察官が取調室に入り、小春に何かを告げている。話が終わると小春は取調室から出てきた。

「小春ちゃん!どういうことだ!?」慌てて近寄る。

「乃木さん!私、釈放されるそうです」

「じゃあ、鏡花のやつ!」

「はい。事件を解決してくれたんだと思います!」

「よかった…」

「乃木さん、本当にありがとうございました!」

「別に俺はなにも…」

「いえ、乃木さんが一緒に居てくれなかったら気持ちで負けそうでした。外で鏡花さんを待ちましょう。鏡花さんもこっちに向かってるそうですから」

「そうだな」

 乃木と小春が警察署の前で待っていると、パトカーが入って来た。中からは見覚えのある女性が、警察官に連行されて出てきた。

「あの人…」

 続いて入って来た車からは、鏡花が飛び出てきた。

「小春さん!」

「鏡花さん!」

「よかったです。本当によかったです」

「私、信じてました。だからこそ、私も何か役に立てないかと思って…」

「はい。その気持ち伝わりましたよ」

「鏡花、お疲れ。ありがとな」

「乃木さんの方こそ、小春さんのことありがとうございました」

 鏡花と乃木は笑みを浮かべる。

「行くぞ」刑事が小林を署内に連れて行こうとする。

「ちょっと待ってください」乃木が刑事を止める。

「ん?なんだ?」

「その人に謝ってほしいんです。小春ちゃんに」

「乃木さん、いいですよ。こうして釈放されたんですし」

「よくない。小春ちゃんがよくても、俺は納得いかない。あんたは罪をなすりつけるのに必死だったんだろうが、小春ちゃんは無関係だ。何もしてないのにいきなり警察に連れて行かれるなんて、小春ちゃんがどんな思いをしたと思ってるんだ!一言でいい。悪いと思っているなら、謝ってくれ」

「………ごめんなさい。本当にごめんなさい」小林は手錠の付いた手を地面について、土下座をする。

「いいですから、止めてください」小春は必至に止めさせようとする。

「でも、私は無関係のあなたを巻き込んだのよ」

「はい。とても、悲しかったです。何もしていないのに信じてもらえませんでした。でも、あなたは反省しているようですし、これから自分の犯した罪の重さを知ることになると思います。ですから、もういいですよ」

「……ありがとう」そう言い残し、署内へ連行された。

「事件続きとは、休む暇もないな…」

「事件を解決しているのは鏡花さんですよ」

「まぁ、そうだけど」

「いえ、私一人ではありませんよ。これからも、もっともっとお二人のお力を借りたいと思っていますよ」

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