骨董屋の嘘2
「では、先ず先ほどの女性を犯人だと言い張るあなたから聞かせて頂こうか。どのような経緯で?」
「私は小林美代。歩いていた時に悲鳴が聞こえたから見に来たのよ。そうしたら人が倒れているのが見えて、さっきの女の子の手元に血の付いたナイフが落ちていたのよ」
「そのナイフのことだな」
「ええ、そうよ」
「あなたはどうしてここら辺に居たんですか?」
「どこに居ようと私の自由でしょ!」小林は苛立ちを見せる。
「ま、まぁ、そうだが…じゃあ、偶然居合わせたということか?」
「そうよ。もう、いいかしら?お手洗いに行きたいんだけど」
「ああ、構わない」
小林は店の奥の扉を開けた。
「じゃあ、その間に君に聞かせてもらおうか。君たちはここへ何をしに来たんだ?」
「私たちは観光です。東京タワーを見に来る途中で小春さんが…っ!?」鏡花は何かに気が付いた。
「どうした?」
「小春さんは何でこの店を見ていたんだろう…」鏡花は独り言を言っている。
「おい、まだ話は終わっていないぞ」
「あ、すみません。しかし、私たちがこの店を訪れたのは本当に偶然なんです。それに、被害者の方と私たちは面識がありません」
「それは君だけであって、君の友人は面識があったのかもしれないぞ」
「いえ、あり得ません。断言できます、小春さんにこの方を殺害する動機はありません。それに、怪しい人物は他にいるんですから」
「何?犯人でも見たのか?」
「見てません。それでも、あの人は明らかにおかしい言動と行動をしていますから」
「誰だ?君には捜査に協力する義務があるんだ」
「そうやって権力をかざすんですね。少しはご自分で考えて頂きたいです」
「なんだと?」
「そのような威圧的な態度は聡明ではないと申し上げているのです。ですが、義務があるのは事実ですから言います。私が怪しいと思っているのは、小林さんです」
「あの女が?」
「ええ」
その時、トイレから水を流す音が聞こえた。
「小林さんに用心されて言葉を引き出せないと困るので、この話は後にしましょう。私たちが疑っていることは前面に出さないようにお願いします」
「あ、ああ」
小林はトイレから帰ってくるなり悪態を吐く。
「刑事さん、まだ何かある?帰っていいかしら」
「ええ。ですが、事件の目撃者として連絡先を教えて頂きたい」刑事は手帳とペンを差し出す。
小林は自分の連絡先を書くと、颯爽と出て行った。
小春は取調室にいた。
「残念なんだけど、ナイフの柄から君の指紋が検出されたよ。どういうことかな?」
「それは、ナイフを拾った時に付いたものです!」小春は必死に抗議する。
「それはどうかな。君が嘘をついているとも考えられる」
「どうしてそうなるんですか!?」
「我々はあらゆる可能性を捨てないと言ってるだけだ」
「……」小春は下を向き、考える。
『いくら言っても聞く耳を持ってくれない。何か鏡花さんの助けになることを…そうだ!もしかしたら、私が見たあれが役に立つかも。でも、どうやって伝えれば…』
「どうした?何か言うことはないのか?指紋は決定的な物的証拠になるんだぞ」
「あの、トイレ行きたいんですけど…ずっと我慢してて」
「少し待ってなさい。女性警察官を同行させる」
「ありがとうございます」
すぐに女性警察官が取調室に入って来た。
「案内するわ」
「はい」 外に出ると、乃木が心配そうに待っていた。
「小春ちゃん!」
「大丈夫です。少しお手洗いに行くだけですから」
トイレに着くと短い時間で済ませるように言われた。ドアの前には女性警察官が立っていて、逃げられないようにしている。
「逃げる気なんてありませんよ」小春は独り言を言いながら、ポケットに入れてあった手帳を取り出す。
「私は私ができることをしなくちゃ」
小春は水を流し、トイレを出る。取調室の前では乃木があたふたしていた。
「乃木さん!もしかしたら、サークルには戻れなくなるかもしれないてますけど、後のことはよろしくお願いしますね」小春は乃木の手を握る。
「高島小春さん、部屋に入ってください」
「小春ちゃん!」
「乃木さん!頼みましたよ!」
「ああ!」乃木の手には小春からのメッセージが握られていた。
小春はまた取調室へ戻る。
「鏡花さん、信じてます」




