骨董屋の嘘
「乃木さん、小春さん、平島警部からメールが来ました」
事件から一夜明け、鏡花たちは東京観光に来ていた。今は電車の中だ。
「何て?」
「えっと、『被疑者の二人は素直に犯行を認めている。動機についても隠すつもりはないようだ。どうやら、河本たちは大学時代のサークル仲間だったらしい。メンバーは今回の五人ともう一人いたんだが、その六人目は寺門藍華たちが死に追い込んだ。今回の事件はその復讐だと言っている。そのサークルもトレジャーサークルとか言って、被害者たちは金に相当固執するような連中だったそうだ。それで、まんまと話に乗っかったんだろう。ともかくだ、今回も君たちの力に助けられてしまったな。組織としては一般人に力を借りるなんて恥だとくらい思っているだろうが、私個人としては感謝したい。また、向こうで会ったらよろしく頼むよ。二人にもよろしく伝えておいてくれ』だそうです」
「他人の過去ってわからないもんだよな。藍華さんも気さくな人に見えて、そんな人だったとは…」
「それぞれ、他人には言えない過去を持っているものですよ。私にだって…」
「小春ちゃん?」
「あっ!いえ、なんでもないですよ。乃木さん!東京タワーですよ!」
「なんかあっ…」
「わぁ、本当ですね!早く行きたいです!ね?乃木さん」乃木の言葉を遮るように鏡花が言う。
「ああ、そうだな」
電車を降り、駅を出て、東京タワーを目指す。
「折角東京に来たのでいろんなお店見てもいいですか?」小春は楽しそうだ。
「いいですよ」
小春は左右にある店を片っ端から覗いていく。
「楽しそうですね」
「ああ。悲しいことに、俺も小春ちゃんも事件に慣れてきた感じがあるな」
「そうなんですか?」
「まぁ、お前は最初の事件からこんな感じだったけどな」
「そうですね。思い返すと、この短時間でたくさんのことがありました。あっ!もしかして、乃木さんは死神なんですか!?」
「やかましいわ。どっちかって言うと、引き寄せてるのはおまえだろう」
「私じゃないですよ」
他愛もない話をしながら歩いていると、前を歩いていた小春がある店をじっと見つめている。
「おーい、小春ちゃん、なんかあったのか?」
「………」小春から返事はない。
「どうしたんだ?」
すると、小春がその店の中へ入って行ってしまった。
「なんか、いい店でもあったのかな?」
「わかりません。追いましょう」
鏡花と乃木が小走りで小春の入って行った店へ向かうと、その途中で小春の悲鳴が聞こえた。
「きゃあああ」
「なんだ!?」
「小春さん!」
鏡花と乃木が急いでその店を覗くと、薄暗い店内で小春が尻餅をついていた。周りには壺や掛け軸などが置いてある。そして、もう一人、顔はよく見えないが、誰かが倒れているのが見えた。
「どうしたんだ、小春ちゃん!?」
「の、乃木さん…」よく見ると、小春の手元には血の付いたナイフがあった。
その時、後ろから叫び声が聞こえる。
「人殺し!」
鏡花たちが後ろを見ると、ひとりの女性が口を押えながら怯えていた。
「えっ?わ、私何も…」
「あんた、人殺しってどういうことだよ!」乃木が女性に問いかける。
「だって、そこに血の付いたナイフが落ちてるじゃない!警察に連絡しなくちゃ!」その女性は急いで携帯で連絡する。
「わ、私やってない…何も…ヒック」小春の目からは堪えながらも涙が溢れていた。
「わかってますよ。小春さんは何もしていません。私に任せてください」鏡花は小春を優しく抱きしめる。
小春は不安と焦りから解放され、声を出して泣いた。
「……」
数分して、パトカーのサイレンが聞こえてきた。
「君たち、現場のものは触ってないだろうね?」
「それより、この子を逮捕して!」
「あんた、いい加減にしろ!俺らはたまたまここに来たんだ!小春ちゃんにこの人を殺す動機なんてあるわけないだろう。それとも、あんたには小春ちゃんが殺したといえる証拠でもあるのか?」
「さぁね。そのナイフに指紋でもついてたら一発なんじゃないかしら?」
「まさかっ!小春ちゃん、そのナイフに触ったりしてないよな…?」
「触っちゃいました…」
「嘘だろ…」
「あら、残念ね。十分な証拠じゃない?」
「話は後で聞く、今は現場から出てくれ」無愛想な刑事が言う。
「はい…」
「それと、そこの君は署まで来てくれ。詳しい話を聞きたいからな」刑事は小春に任意同行するよう言う。
「えっ!?私本当に何もしていません!」
「それも含めて署で話を聞くんだ!」刑事は強く言い放つ。
「そんな言い方やめてくれ。小春ちゃんは何もしていない。俺も一緒に行きます」
「乃木さん、私も」
「鏡花!お前はやることがあるだろ。お前しかできないことが。小春ちゃんが傷付けられているんだ、許せないだろ!」
「…………わかりました!」鏡花は顔を上げ、気合を入れる。
「その顔だよ」
「小春さんを頼みます!」
「任せろ!」
小春と乃木は所轄の警察官に連れられて、近くの警察署に向かった。
「これで、事件は解決ね!」後から来た女性は言う。
「私はあなたを許しません。無意味に小春さんを傷付けたあなたを!」
「私は見たままを言っただけよ」
「喧嘩は後にしてもらってもいいかな?」刑事は咳払いをしてから言う。
「喧嘩じゃありません。宣戦布告です!ですが、すみません」
「宣戦布告?私に?」
「ええ、あなたの嘘を見抜いて見せます!」
「こらこら、事情聴取したいから後にしてくれ。ともかく、一人づつ聞いていくから」刑事は手帳を取り出す。




