日本神話殺人事件17
「鏡ヶ池そのもの?」
「はい。清志さんを殺害した河本さんは鏡ヶ池の水が定期的に抜かれることを知っていました。清志さんは水の張っていない池の中で殺害されたんです。そして、血痕を残さないために池に水を張りました」
「そうか。だから、お前は証拠が残らないって言っていたのか」
「そう言うことです。やはり、私には他の場所で殺害した被害者をわざわざ神社に運ぶ理由が理解できませんでした。だとするならば、現場は神社のどこかだと思っていました。抜いたはずの池の水が張られていたこと、そして、乃木さんがバケツでお花に水をあげた時に私は気が付いたんです」
「だが、証拠が残らないのであればただの推測に過ぎないんじゃないのか?」
「そうですね。ですが、河本さんと信濃さんの矛盾を突き詰めていけば自ずと答えは出ます」
「矛盾?」
「ええ。河本さんと信濃さんのアリバイについてです。藍華さんが殺害された時のアリバイです」
「そうだよ。藍華の死亡推定時刻は警察の人に事情聴取を受けた時に聞いたけど、私はその時木更津駅に隆彦と居たわ」
「平島警部!例の映像お願いします」
「ああ」平島は自分のスマートフォンを取り出し、ある映像を流す。
映像は木更津駅周辺の防犯カメラの映像だ。
「平島警部、十八時十七分で止めてください」
「お、おう」平島は鏡花に言われた通り、映像を止める。
「失礼しますね」鏡花は平島の携帯を拝借し、自分の携帯を通して乃木たちに見せる。
「河本さん、見えますか?これはあなたの車ですよね?」鏡花は映像の一部分を拡大する。
「鏡花、これがどうしたんだ?寧ろ、河本さんがここに居たという証拠じゃんかよ」
「はい。正に河本さんが居た証拠ですね。しかし、私は昨日の電話で信濃さんの声も聞きました」
「え、ええ、私も居たんだから…」
「確かに、運転席に河本さんと思われる男性の姿があります。ですが、いるはずのあなたの姿が見当たりません?」
「あ、そうだった、駅のトイレを使ったわ。その時の映像じゃない?」
「そのような嘘は通用しませんよ。映像を進めてみればわかりますから」
鏡花は映像を再生する。数分間進んだところで映像を止めた。
「わかりましたか?この数分間で河本さんの車に乗り込む人物は居ませんでした。
「そうだ…友美は後ろの席に座ってたんだ。だから、映ってないんだよ!」沈黙を貫いていた河本が話す。
「なるほど。確かに、そうであるなら映りませんね」
「ざ、残念ね。私には無理よ…」
「まさか私がこれだけであなたを追い詰めようとしていた、とお思いですか?」
「私は犯人じゃないんだから、そんなこと思わないわ。でも、これといった証拠もないのに私を犯人扱いするのなら許さないわよ」信濃の声が低くなる。
「私も覚悟を持ってここに来ました。絶対にあなた達を許しません!」鏡花からはただならぬオーラが出ている。
平島はそのオーラを感じ取り、息を飲む。
「し、しかし、橋爪くん、君にはこの人たちを追い詰める切り札があるのか?」
「ええ。現場の証拠は消せても、人間の体に刻まれた証拠は短時間で消すことはできませんからね。鏡ヶ池に水が張られていたのにはもう一つの理由があります。それは清志さんの顔を水に浸からせるためです」
「確かに被害者は頭を池に突っ込んでいた。しかし、それに何の意味があるんだ」
「意味もなくあんな不自然な形で放置しませんよ。清志さんの顔をそのままにしておくことで、証拠が残ってしまうからに違いありません。そう、例えば、血を洗い流すとか」
「被害者の血を洗い流す必要があるのか?」
「いえ、血を流したのは被害者の清志さんだけではないはずです」
「なんだと!?」平島は新事実に驚きを隠せない。
「乃木さん、河本さんの腕などを映してもらっていいですか?」
「ああ、わかった」乃木は携帯を河本に近づける。
「これでいいか?」ゆっくりと腕などを映していく。
「ありがとうございます。もう十分です。河本さん、その腕時計のベルト、いつもよりきつく締めているようですね?」
「そ、それがどうしたんだ…?」
「ベルトの穴がズレています。普段はもう一つの前の穴で留めているようですね。なぜそんなにきつく締めているのでしょうか?それに、あなたは右利きのはずなのに右腕に時計をしていますね」
「………」
「お答えできないようなら、私が言います。その時計の下には逃れられない決定的な証拠が残っているからです!乃木さん、確認してもらえませんか?」
「わかった。河本さん、時計を外して頂いてもいいですか?できないなら、俺がはずしてもいいですか?」
「………自分でやるさ」河本はキツく締めた時計のベルトを外す。
時計を付けていた部分には絆創膏が貼ってあり、それを剥がすとくっきりと歯型が残っていた。
「これは!?」乃木はそれを見て驚く。
「清志さんの歯型と一致するはずですね?」
「………ああ、そうだよ。これはあいつが死の間際に噛み付いてきた時にできたものさ。俺が殺したんだ。清志も藍華も!」
「っ!?」
「隆彦!何言ってるの!?」
「友美、お前は黙っとけ!」
「……」
「鏡花ちゃん、あの二人を殺害したのは俺だ!友美は関係ない!友美が殺害したって証拠はないんだろ?」
「いえ、藍華さんを殺害したのは信濃さんです。あなたに藍華さんを殺害することはできません!」
「違う!俺だ!俺なんだ……」河本は崩れ落ちる。
「河本さん、あなたは知らないのですね…」
「えっ?」河本は顔を上げる。
「その様子だと知らないようですね。信濃さんもあなたと全く同じミスを犯しているんですよ」
鏡花は決定的な証拠を炙り出す。




