日本神話殺人事件16
陽が南に輝いている太田山公園、殺人事件が起こり、犯人も見つかっていない現状ではこの公園に来る一般人はいない。その中で、鏡花はある人物を待っていた。
「…………」
きみさらずタワーの前で立ち尽くす鏡花に影が近づく。
「待っていました」鏡花は振り返り、その人物を確認する。
「あ、君は…」
「橋爪鏡花です」
「ど、どうして…」
「無事で何よりです、拓也さん」
「無事ってなんのこと…かな?」
「お気付きではないのですか?」
「なんのことかわからないんだけど。君はなんで俺を待っていたんだ?」
「あなたが来ているということは、もう一人来ているはずだからですよ。清志さんと藍華さんを殺害した犯人が、そしてあなたを殺害しようとした犯人が…」
「おい、橋爪くん、公園に来たがどうするんだ?」平島が尋ねる。
「まずはしなければならないことがあります」
「しなければならんこと?」
「ええ。事件はまだ終わっていないと思っています。それを今から確認します」
鏡花は周りには目もくれず、きみさらずタワーに向かう。
「な、なんだ!この仕掛けは!?」平島は、いつの間にか仕掛けられていたトリックに驚く。
「やはりそうでしたか…」
「どういうことだ?」
「犯人はもう一人殺害しようとしています」
「なんだと!?止めなければ!」
「はい。ですが、トリックがわかれば特にすべきことはありません。タワーの前でお待ちしていましょう」
「いよいよだな!」平島は興奮している。
「いえ、だめですよ。平島警部は隠れていてください」
「ど、どうして!?」
「犯人が出てこないかもしれないので」
「んぐぐ…仕方あるまいな。君の力なくして事件は解決できんからな」
「私が呼ぶまで出て来ないでくださいね」
「橋爪くんはああ言っていたが、本当に一人で大丈夫なのか?殺人犯かもしれないのだぞ」平島は物陰で独り言を言っている。
「拓也さん、あなたはどうしてここに来たのですか?」
「それは…」
「呼び出されたのですよね?」
「いや…」
その時、鏡花の携帯が鳴る。鏡花は携帯を確認する。
「……なるほど。これではっきりしました」
「…………」
「どちらがいらしているのかわからなかったのでなんとも言えませんでしたが。信濃さん、もう出てきてもよろしいですよ。成功したかを確認しにきたのでしょうが、そのトリックは成功しません。拓也さんはタワーの下には立たないので」
「…」
「用心深いんですね。ですが、時間です。あと、十秒ほどであなた方の仕掛けが発動するでしょう」鏡花は振り返りタワーの時計を眺める。
タワーの時計が十二時になり、短針と長針が重なった。すると、何かが落ちてきて大きな音が響き渡る。
「な、なんだ…」拓也は腰を抜かしている。
「もし、あなたが言う通りにしていたら今頃は、頭を割られていたはずです」
「……」拓也は怯えている。
「さぁ!あなた方の仕掛けは失敗に終わりました。いい加減に出てきてもらえませんか?」
物陰から人が出てきた。
「あれ?鏡花ちゃんに拓也じゃない。こんなところで何しているの?」
「やはり、信濃さんでしたか」
「私はたまたまここに来て、なんだか重い雰囲気だから隠れてただけなのよ」
「そうですか。平島警部、出て来てください」
物陰から平島が姿を現す。
「漸くか」
「ええ、お待たせいたしました。向こうも揃ったようなので始めましょう」
鏡花は乃木に電話をする。
「乃木さん、お願いします」
鏡花は携帯電話を耳から外す。
「ん?それは?」
「テレビ電話ですよ。声だけじゃなくて、相手がいる場所の映像も見えるんですよ」
「お、おお、科学はそこまで進歩しているのか」
「とても便利です。これですべての準備が整いましたね。それでは、日本武尊の伝説が残るこの木更津を舞台にした連続殺人事件の解答編へ移りましょう」
「………」
「まず、今の会話の流れでおわかりでしょうが、犯人は信濃さんです。そしてもう一人、乃木さん、そちらにおられますよね?河本さんが」
「ああ、居るよ。さっきメールした通りだ」
「連続殺人は一つでもアリバイがあれば容疑者から外されますからね。共犯であるお二人が交互に殺害することで、お互いのアリバイを確保していたのでしょう」
「鏡花さん、どうして友美さんと河本さんが共犯だと気付いたんですか?」
「小春さんから写真や情報を頂いた時、私は信濃さんが犯人であることに気が付きました。小春さんから頂いた情報の中に、信濃さんが犯人でなければ知らないことを語っていた部分がありましたので」
「なんのことかしら?」
「信濃さんは、吾妻神社で小春さんにこう言ったそうですね。『清志さんが殺害された時刻は家でテレビを見ていた』と」
「ええ言ったわ。テレビの内容も言えるわ。私には完璧なアリバイがあるの!」
「なるほど…乃木さん、清志さんの死亡推定時刻はいつですか?」
「え?知らないけど。お前も知らないのか?」
「はい。私は深夜から明け方にかけての犯行だと推測していましたが、具体的な時刻は知りません。平島警部はご存知ですよね?」
「ああ、今朝、正確な時刻が出たんだ。深夜十一時頃だそうだ。被害者が頭を池に突っ込んでいたから、体温にも変化が出てなかなか正確な時刻を割り出せなかったらしい」
「そうですか。では、なぜ信濃さんが死亡推定時刻を知っているのでしょうか?」
「そ、それは、夜の時間にアリバイがあるから、っていう意味で…」信濃の顔色が一気に悪くなる。
「それで、信濃さんが犯人だと思ったんです。しかし、そのアリバイは事実であると思います。でしたら、それはおかしなことです。殺害時刻を知っているのに完璧なアリバイがある。でしたら、共犯の方がいたとしか考えられません」
「じゃあ、清志さんを殺害したのは信濃さんではなく、河本さんなのか?」
「ええ、そうでなければ説明が付きませんから」
「鏡花さん、でしたら清志さんはどこで殺害されたんですか?私たちは大量の血の痕を見つけていません。他の場所で殺害するにしても、そんなことをする理由がわかりませんよ」
「小春さん、清志さんが殺害されたのは鏡ヶ池です」
「えっ!?」乃木と小春は驚く。
「おい、待てよ。清志さんには刺された痕があったはずだ。それにしては血痕が少なすぎる。俺たちはそういう話を今までしてたんだろ?」
「ええ、確かに現場を訪れた時、それらしいものは見当たりませんでした」
「だったら…」
「当たり前ですよ。きれいさっぱり流されてしまったんですから」
「おいおい、それはないぞ。水をかけたところで血痕はきれいには流せないし、ルミノール反応だって調べれば出るはずだ!」
「そうですよ、鏡花さん。平島警部の言う通りです」
「いえ、間違いなく殺害現場は鏡ヶ池です。しかし、鏡ヶ池とは周辺を含むものではなく、正に鏡ヶ池そのものであることを言っておきます」




