日本神話殺人事件15
乃木は拝殿の前を掃除している神主を見つけると、話しかける。
「あの、すみません」
神主は箒を止め、顔を上げる。
「君は昨日の…」
「はい。乃木と言います」
「まだ何か用かな?」
「はい。鏡ヶ池で被害者を見つけた時のことで、何か思い出したことはないかと思いまして」
「いや、ないよ。昨日話したことで全部だ」
「そうですか…事件の後に変わったこともないですよね?」
「すまない…」
「いえ、ありがとうございます!」乃木はお礼を言い、小春の元へ戻る。
鏡花と平島はカメラを管理している市に頼み、防犯カメラの映像を確認している。
「橋爪くん、どうだね?」
「なるほど…また謎が一つ増えてしまいました」
「えっ!?それじゃあ、逆効果だったのか?」
「いえ、そんなことはありません」
「じゃあ、重要な証拠なのか?」
「勿論です。居るはずの人間がいませんからね」
その時、鏡花の携帯が鳴る。鏡花はカメラの映像に夢中になり気付いていない様子だ。
「橋爪くん、携帯が鳴ってるぞ」
「えっ?あ、本当です」急いで確認する。
小春からのメッセージだ。
『鏡花さん、こちらの調査は概ね終わったので、現場の写真や情報を送りますね』
複数枚の写真や、小春と乃木が得た情報が書き記してあった。
「そういうことでしたか…」
「何かわかったのか?」
「はい。あとは、一か八かの勝負ですね。どこまで追い詰められるか…」
「何かできることはあるか?」
「そうですね…っ!」携帯を見ている鏡花は何かに気付き、黙る。
「どうした?」
「太田山公園へ行きましょう」
「乃木くんたちは呼ばないのか?」
「ええ、乃木さんと小春さんにはそのまま吾妻神社に居てもらいます」
「そうか。じゃあ、車に戻ろう」
「ええ」
ルルルルルル、ルルルルルル
乃木の携帯に鏡花から電話があった。
「どうした?」
「あ、乃木さんですか?」
「俺の携帯だからな。それで、何か進展はあったか?」
「はい。犯人がわかりました」
「本当か!?今どこにいるんだ?」
「太田山公園へ向かっています」
「わかった。俺たちも向かう」
「いえ、乃木さんは小春さんと吾妻神社に留まっていて下さい」
「えっ?何でだ?」
「殺害現場が離れているからです。お願いできますか?」
「ああ、わかったよ。いつでも電話に出れるようにしておくから、時が来たら連絡してくれ」
「………わかりました」電話の向こうからはプレッシャーに押しつぶされそうな、か弱い声が聞こえた。
「……大丈夫か?」
「はい…」
「場所は離れていても、俺たちがいるから。これはお前にしかできないことなんだ。お母さんの勇姿を思い出せ。失敗したっていい。俺も一緒に怒られるから」
「ありがとうございます。また連絡しますね!」
電話は切れた。
「あいつ、大丈夫かな…?」乃木は心配そうな顔をしている。
「乃木さん、鏡花さんのこと信じていないんですか?」
「そんなことあるわけないだろ。俺はいつだってあいつを信じてる」
「だったら、そんな顔しないで下さい!私たちは待ち続けましょう」
「小春ちゃん…たまにはいいこと言うな!」
「たまにじゃないですよ」
乃木と小春は決戦に備える。




