郵便ポストの謎「解」
30分経った。すると、また誰かが来た。若い男性のようだ。
「あ、朝日だ。あいつです、俺の友達。良かった無事だったんだ」出て来たのは乃木の友人の橘朝日だった。
話しかけようとする乃木を制止するように鏡花は言った。
「乃木さん、落ち着いてください。今、接触するのは私たちにとってもお友達さんにとっても不都合です。ここは耐えて下さい」乃木は不本意そうだが首を縦に振り了解した。
だが、二人は帰って行く橘朝日の姿を見て混乱する。なぜなら、彼の手には数時間前に鏡花が投函した手紙があったからだ。
「どういうことなんだ…」乃木は完全に戸惑っている。
「私にもわかりません。非常に不可解なことです。ですが、一つ確実に言えることは、現状はそんなに悪くないということです。無事に手紙がお友達さんの手に渡りました。あとは私のポケベルに連絡が来るのを待つだけです」
空が赤く染まり始めた。時刻は18時を丁度過ぎたところだった。
ピーピーピーピーピー
ポケベルが音を鳴らす。二人は思わず「わっ!」と声をあげる。
「来ましたよ、お友達さんからです」
「なんて書いてあるんですか?」
『テガミヨミマシタ キョウリョクアリガトウゴザ』ここで途切れていた。文字制限があったようだ。だが、直ぐに続きが送られてきた。
『イマス ノギニアリガトウトツタエテクダサイ』
「乃木さん、良かったですね」
「はい。本当に良かったです。あ、ポストのこと朝日に聞いてみてください」
「そうですね。私も気になりますから聞いてみましょう」
鏡花は橘朝日に先ほど起こった不可思議なことについて質問した。
「なるほどそういうことでしたか。凄いことを思いつきますね、彼は」
「どういうことだったんですか?」
「私が代わりに説明しますね。お友達さんはあのポストにあるトリックを仕掛けたそうです。そのトリックは鏡を使ったものでした。郵便物を取る側から見て、手前側の上から奥側の下部分にかけて鏡が斜めに設置されていたそうです。丁度、四角形の対角線を引く感じですね。そうすることでポストを開けた時、一見して何も入っていないように見えます」
「す、凄い。でも、あいつはなんでそんなことをしたんでしょうか?」
「その答えも教えてくれましたよ。乃木さんは見事にお友達さんの意向を汲んで答えにたどり着いたんです」
「俺には全くわかりません。いったい俺は何をしたんですか?」
「ここにいることですよ。お友達さんが、郵便受けを見るために外に出る、と言ったのはあなたが連絡手段として郵便物を使ってくれると信じていたからだそうです。そして、乃木さんはその期待通りこうして手紙を投函しました。なんらかの回答が得られることを期待していたお友達さんは、自分の友人ですが、外部に事情を話したことがお父さんにバレる可能性を懸念して、このような仕掛けを作ったらしいです」
「あいつ、そこまで考えていたのか…」
この時、鏡花の頭には次の作戦が浮かんでいた。