日本神話殺人事件12
決戦の朝が来た。朝日が昇り始めた午前五時過ぎ、鏡花は縁側に座っている。
「おや、鏡花、もう起きたのかい?」
鏡花の祖母が後ろから声を掛ける。
「おばあちゃんも早いんだね」
「年寄りの朝は早いからね」
「そうなんだ…」
「今日はいい顔してるよ。何かを決心したようだね」
「うん、もう迷わないよ」
「そうかい。少し、話さないかい?」祖母は鏡花の隣に座る。
「え?」
「鏡花の顔を見てると思い出すんだよ。麗子の顔をね」
「お母さんの?」
「そう、鏡花の顔付きが麗子に似てきてるように見えるんだよ」
「お母さんに…私、お母さんみたいに誰かのために必死になれてるかな?」
「どうだろうね。鏡花自身が本当にそうしたいと思っているなら、自ずと答えは出るはずだよ」
「…………うん。私の力が役に立つならもう迷わないよ。私はお母さんのように最後まで諦めない」
「難しい問題に直面してるんだね。自分の力を信じなさい。鏡花は一人じゃないんだから」
祖母は腰を上げ、去って行く。
「うん…」鏡花は小さく頷く。
鏡花は足を外に放り出し、仰向けになると、独り言のように事件を整理し始める。
「最初の犠牲者が発見されたのは昨日の朝九時。死亡推定時刻は割り出されているはずだから、後で平島警部に確認してみよう。でも、問題はそこじゃない。こんな複雑な事件を作り上げた犯人が、死亡推定時刻にアリバイがないとは思えないし、そもそも被害者が殺害された本当の場所はどこなんだろう?」
鏡花は目を閉じ、あらゆる情報を頭の中で回転させる。
「…………」
「い、おい、鏡花」
微かに聞こえる声に鏡花は目を覚ます。
「あれ?乃木さん?」
「なんで、こんなとこで寝てんだよ」
「え!?私、寝てました?」
「声掛けても反応しなかったぞ」
「私、寝てしまってたんですね。今は何時ですか?」
「六時過ぎだな」乃木は振り返り、時計を確認する。
「ということは、三十分近く寝てしまったんですね」
「そうだったのか。なぁ、隣いいか?」
「ええ、どうぞ」
乃木は縁側に腰をかける。
「昨日、お前が言ってた不自然なことってなんだ?」
「はい。まず、第一の被害者の清志さんが本当はどこで殺害されたのかです」
「ああ、鏡ヶ池の周辺には血痕があまりなかったってことだよな?」
「そうです。刺殺ですから、当然血が噴き出すはずです。どこかに大量の血痕があるはずなんです」
「別の場所で殺害した犯人がわざわざ鏡ヶ池まで運んだのか…なんか、釈然としないな」
「ええ、なぜ犯人はそのような事をしたのでしょうか?」
「さぁな…」乃木は立ち、庭にある花壇の側に行く。
「どうしたものでしょうか…」
「へぇー、いろんな花があるんだな。水あげてもいいか?」
「ええ、どうぞ。そこのバケツを使ってください」
乃木は水道の近くに置いてあるバケツを取る。
「少し汚れてるけど、水入れれば関係ないよな?」
「多少の汚れなら構いませんよ」
乃木はバケツに水を入れ、花に少しずつ水を与える。
「はっ!?」突然、鏡花が大きな声を上げた。
乃木は驚き、水が溢れる。
「ビックリした!何だよ、いきなり」
「あ、すみません。ある可能性が浮上したのでつい…」鏡花は申し訳なさそうにしている。
「なんだ?その可能性って」乃木はバケツを置き、縁側へ戻る。
「証拠がないのでなんとも言えません。と、言うより、仮にそうだとしたら証拠は出ないでしょう」
「それじゃあ、追い詰められないんじゃないか?」
「はい。ですが、方向性は定まってきました。他に証拠がないのでしたら、私の仮説が正しいという証拠になりますからね」
「なるほど、証拠がないのが証拠ってことか」
「その通りです」
「他にも不自然な点があるんだろう?聞かせてくれよ」
「はい。二人目の被害者である藍華さんについてです」
鏡花は足をぶらぶらさせながら話しだす。




