日本神話殺人事件11
夜の太田山公園、本来街頭の明かりしかない場所がやけに明るい。パトカーの赤いランプと鑑識の懐中電灯の光が見える。鏡花はその光の中心へ行く。
「平島警部!」鏡花は平島が鑑識官と話しているところに割って入り、声をかける。
「おう、橋爪くんか」
鏡花は軽く会釈し、本題に入る。
「それで、藍華さんはどこで?」
「そこの茂みだよ」平島の指した先には、足らしきものが見えている。
「確認してもよろしいですか?」
平島は首を縦に振り、無言のまま了承する。
茂みの奥には無残な藍華の死体があった。仰向けになり、口を開けて絶命している。
「藍華さん…」知り合い故にショックが大きい。
「君ならもう分かってるだろうが、寺門藍華の死因は絞殺だ」
「ええ、首に索条痕がありますね」
「何か気付くことはあるか?」
「…………」
「何か気付いたことがあれば言ってくれ。俺はそこら辺にいるから」
その場を立ち去ろうとする平島を鏡花は引き止める。
「警部!おかしな部分があります」
「なんだ?」
「ここです」鏡花は被害者の索条痕を指摘する。
「ん?どこがおかしいんだ?」
「首の前側に痕が少しずれた部分がありますよね?」
「ああ、それは被害者が踠いたんじゃないのか?」
「でも、二本分くらいの痕に見えますよ」
「だとしたら何なんだ?」
「絞殺であるならば後ろから絞めますよね?」
「通常そうだな」
「でしたら、おかしいです。首の前側の中心部分だけ索条痕が重複しているのは、前から締められた証拠です。紐が交錯する部分が重複した痕になって表れているのだと思います。先も述べた通り、絞殺の場合バレないように後ろから忍び寄り、後ろから絞めるはずです」
「そうかもしれないな。だとしたら、前に立っても不自然ではない人物ということか?」
「ええ、恐らくは。死亡推定時刻は何時ですか?」
「ちょっと、待ってくれ」平島は手帳を開き、確認する。
「硬直が始まってないことや、防犯カメラの解析から十八時過ぎから十八時半くらいの十分程度だな」
「防犯カメラに映っていたんですか?」
「ああ、この公園に防犯カメラは殆どないが数台あるうちの一つに被害者の姿が映っていたんだ」
「そのカメラはどこのですか?」
「ああ、カメラは駐車場と入り口付近に設置されているんだが、その入り口の方のカメラに映っていたんだ」
その時、所轄の警察官が平島に報告をする。
「警部、駐車場に被害者のものと思われる車を発見しました」
「分かった、すぐ行く。今日は遅いし、橋爪くんは帰りなさい。何かあれば連絡しよう」
「わかりました…」
平島は車の見つかった駐車場へ向かって行った。
鏡花が暗い公園の中を歩いていると、乃木がやって来た。
「おい、鏡花」
「あ、乃木さん!」
「どうだったんだ?」
「ええ、確認しましたが間違いなく藍華さんでした…」
「そうか…」乃木は落ち込んだ表情を見せる。
「防犯カメラの情報から藍華さんが殺害されたと思われるのは、十八時過ぎから十八時半くらいまでの十分、二十分程度ということらしいです。実際に見てはいませんが、信じていいでしょう」
「その時間って、河本さんたちがお前の実家に来る少し前だよな」
「ええ、その少し前に木更津駅にいた二人に犯行を行う時間はないと思います」
「じゃあ、あの拓也って呼ばれてた男か?」
「わかりません。ですが、彼にもアリバイがあるとするのならば非常に難しい展開になりそうです」鏡花は唇を噛み締め、苦悶の表情を浮かべる。
「鏡花…」
「そういえば、河本さんと信濃さんに連絡は入れましたか?」
「ああ、すぐに向かうって言ってたよ」
「そうですか。今日は遅いですし、小春さんも待っていますから帰りましょうか」
「いいのか?」
「明日、河本さんたちと連絡を取りたいと思っています」
鏡花と乃木は太田山公園を後にする。
家に戻ると、小春が玄関に走って来た。
「鏡花さん、乃木さん!」
「小春さん、祖父母は?」
「先ほど、お休みになりました」
「ありがとうございます」
「それで…」小春は聞くか聞かまいかを悩んでる様子だ。
「藍華さんは亡くなりました…」
「本当だったんですね…」
「居間でお話ししましょうか」
鏡花と乃木は家に上がり、居間に落ち着く。一息つくと鏡花は話を始める。
「藍華さんの遺体を確認しましたが、いくつか不自然な点がありました。お二人の見解をお聞かせください」
「鏡花さん…」
「今回の事件、私だけでは解決できません…」
「お前、どうしたんだよ…?」
「私だって何でもわかるわけではありません。しかし、これだけはわかるんです。この事件、私の力だけでは解決できないと…見当もつかないんです。不自然なことはあるのに、証拠や事実が私の推理を否定するんです」
「………」沈黙が続く。
「なぁ、鏡花。俺はいつでもお前を支えて来たつもりだ。これからもそのつもりだと言うことは、何回も伝えてるだろう?」
「はい…」
「だったら気にするなよ。確かにお前の推理力は飛び抜けてるし、俺なんかじゃ証拠を並べられたって思い付かない。だから、俺らを頼っていいし、寧ろ頼ってくれよ。そんな顔すんな」
「そうですよ。明日からまた調査しましょうよ!存分に私を使ってください」
「皆さん…」鏡花は俯いた顔を上げ、決心したような顔付きをしている。
「その顔だ。視野を広げてみようぜ!他に犯人がいるかもしれない」
「ええ、長引けば長引くほどこちらが不利になります。明日で全て終わらせましょう!」三人は目を合わせ、無言の決意を表明する。




