日本神話殺人事件10
「ふぅー…」湯呑みを置き鏡花は話し始める。
「さて、今回の事件ですが、動機や手口から考えると容疑者は河本さん始め、友人関係にある四人の誰かの可能性が高いと思います」
「そうなのか?」
「ええ、まだ可能性の段階ですが。血痕があまり無いことからも、別のところで殺害されたのは間違いないでしょう。怨恨か他に何か理由がなければそのような面倒なことをするとは思えません。そうであるならば、やはり犯人は近くにいるものと推理します」
「うーん…私には見当もつきません」
「そうですね。私も現段階では特定することまではできそうもありません。死亡推定時刻は聞いてませんが、概ね昨夜九時の段階で死体がなかったのだとするならば、犯行はそれ以降ということですよね」
「そうなるな。今朝は九時頃の発見だから、十二時間もあるってことか」
「ええ。その時間、全てアリバイがある人なんてまずいないでしょうね」
「…………」
「調査してみるしかないな」
すると居間の襖が開く。
「おや、戻って来てたんだね」鏡花の祖母が入って来た。
「おばあちゃん、起きたの?」
「そろそろご飯の用意をしないとね。今日は大変だったんだろう?」
「うん、そうだね。でも、これからの方が大変かな…」鏡花は不安と決意が混ざったような顔をしている。
「大丈夫さ。皆さんがついていてくれる」
「そ、そうですよ!私がついていますから!」小春は必死に鏡花を慰める。
「ありがとうございます。明日も調査を続けましょう」
その時、家の電話が鳴った。
ルルルルルル
「あ、私出るよ」電話に出ようとする祖母を制止して、鏡花は受話器を手に取る。
「もしもし?橋爪です」
「河本です」
「あ、河本さんですか?」
「鏡花ちゃん?」
「はい、そうです。どうされたんですか?」
「いや、会長は起きたかなって思って」
「まだ寝ているようです。そろそろ、夕飯にしようと思っているので起きると思いますが…」
「今、木更津駅に友美といるんだけど、夕飯前に少しだけ会長と話したいことがあるんだけど伺ってもいいかな?」
「はい、構いませんよ」
「ありがとう。あ、友美、あれ持ってるよな?」
「ちゃんと持って来てるよ」
電話越しに信濃の声も聞こえる。
「あ、ごめんね。こっちの話。じゃあ、十分もあれば着くと思うからよろしくね」
「わかりました」
電話を切る前に電車の音が聞こえた。
ガチャ
「河本さん、なんだって?」
「祖父に用があるらしく、十分程で来るようなのでよろしくお願いします。私は祖父を起こして来ますね」
鏡花は居間を出て、祖父を起こしに行った。
十分程が経ち、河本と信濃が訪れて来た。鏡花は玄関へ行き、河本と信濃を部屋へ通す。
「ごめんね、夕飯前に」
「いえ、まだ六時半過ぎですし、早いくらいですよ。こちらです」
河本は部屋の扉を開け、声をかける。
「会長、具合の方はどうですか?」
最後に入った信濃が扉を閉めるのを見ると、鏡花は居間へ戻った。
それから二十分程が経ち、玄関の方から河本たちの声が聞こえた。
「用も済んだからこれで失礼するね」
「はい!」鏡花も居間から答える。
夕食を終え、鏡花たちが談笑していると、携帯電話が鳴った。
「鏡花、お前じゃないのか?」
「あ、本当ですね!しかも、平島警部からです」
「え!いつの間に連絡先交換してたんだ?」
「今日の午前ですよ。何か役に立つこともあると思って」
「鏡花、早く出た方がいいんじゃないですか?」
「あっ、少し失礼しますね」
ピッ
「もしもし、橋爪です……はい………えっ!本当ですか?……わかりました……はい…はい…行ってもよろしいですか?……はい、失礼します」
ピッ
鏡花はやるせない表情を見せる。
「驚いてたけど、なんかあったのか?」
数秒の沈黙の後、鏡花は言葉を発した。
「藍華さんが死体で発見されたそうです…」
「なんだって!?」
「私は今から現場へ訪れたいと思います」
「俺たちも行くよ」
「いえ、今回はお二人は一緒に現場へは行けません。と、言うより、お願いしたいことがあるんです」
「なんですか?」
「祖父母が心配なので、小春さんはこの家で待機していて欲しいんです。乃木さんには河本さんと信濃さんに連絡して欲しいんです。連絡がつき次第、太田山公園に来てください」
「わかりました」
「わかった」
鏡花はすぐに家を飛び出して行った。




