日本神話殺人事件8
一行が最初の目的地である吾妻神社に向かっていると、吾妻神社の前にパトカーが何台も止まっている。
「なんかあったのかな?僕聞いてくるよ」河本は吾妻神社の方へ走って行った。
「あ、隆彦………行っちゃった」
「あの、すみません。ここで何かあったんですか?」
「ん?ここは立ち入り禁止だ」スーツを着た強面の男が言う。
「あれ!?平島警部ですよね?」後から追いかけてきた鏡花が言う。
「ん?誰だ?っ!!き、君は!」
「ご無沙汰しています」
「橋爪君ではないか!」平島は驚きの表情を隠せない。
「何か事件ですか?」
「そうだが…君はなぜここに?」
「帰省です。乃木さんも来ているんですよ」
「ほお、乃木君も来ているのか」
「乃木さーん」鏡花は乃木を呼ぶ。
「なんだよ、鏡花……え!?平島警部?」
「奇遇だな、こんなところで」
「どうされたんですか?平島警部の管轄はここではないですよね?」
「今、ある事件を追って全国を調査して回っているんだ。そして、たまたま訪れたこの土地で事件に遭遇しちまったんだよ」
「君たち知り合いなのかい?」隣にいた河本が聞く。
「ええ、少し前に」
「ところで、どんな事件なのでしょうか?」鏡花は本題に切り込む。
「ああ…って、いくら君達でも教えられん。我々の仕事だ」
「相変わらず、堅いなー」乃木は納得したように言う。
そこへ一人の警察官がやってきた。
「警部!害者は根津清志、二十六歳、財布やカードの類は見つかりませんでした」
「今なんて!?」後ろから来た藍華が大きな声を上げる。
「ん?なんだねあなたたちは?」
「あ、僕の知り合いです」河本が紹介する。
「害者を知っているんですか?」
「清志は私たちの友達なんです」
「なんと!害者の知り合いですか!」
「平島警部、これで事件について教えてくださいますか?」鏡花は勝ち誇った笑顔を見せる。
「むむむ…害者の知り合いとなれば仕方あるまい。皆さん、ついてきてください。くれぐれも現場の遺留品などには触れないようにお願いします」
平島は関係者を現場へ案内する。現場には鑑識官がおり、鏡ヶ池の近くには布を掛けられた遺体らしきものがあった。
「あなた方の知り合いで間違いないですか?」平島は布を少し捲り、顔を確認してもらう。
「き、清志…」友人である河本を始め、四人は目の前の信じられない出来事に落胆する。
「平島警部、死因はなんですか?」
「刺殺だな。腹部に刺し傷があった。凶器は見つかっていないから、犯人が持って逃げたのだろう」
「なるほど…でしたら、犯人はなぜ被害者を池に沈めたのでしょうか?」
「っ!どうしてわかったんだ?害者が池に浸かってたことを」
「白い線を見ればわかります。被害者のいた場所に白線が引かれていますよね?その線が丁度、首から上の部分が池に向かってなくなっています。つまり、被害者の頭の部分が池に浸かっていたということですよね?」
「その通りだ。流石だな」
「それに、被害者の髪も少し濡れていたようですし、被害者の男性は短髪ですから発見されてから十分、二十分というところでしょうか?」
「ああ、君たちが来る十分ほど前に我々も到着したんだ。神主が九時頃に神社の見回りをしている時に発見したらしい。今は事情聴取を受けているだろう」
「…………………」
「まぁ、遺留品から財布が消えているってことは通り魔か何かの犯行だろう。直に捕まるさ」
「ありがとうございます」鏡花がお礼を言うと、平島は他の警察官と共に現場を去って行った。
「まさかこんなことが起きるなんて。残念だけど、今回の宝探しは中止にしよう…」河本が残念そうに告げる。
「仕方ないよね…」信濃も落ち込んだ様子を見せる。
「とりあえず、確認もしたことだから現場から出よう。警察の方の邪魔になるからね」
現場から出ると河本が正式に中止を宣言し、解散した。
「僕は友美と一緒に会長にこのことを報告しに行くよ」
「わかりました」
「君たちは戻らないのかい?」
「どうする、鏡花?」
「いえ、今は帰りません」
「わかった。じゃあ、またあとで」河本と信濃は駅の方面へ歩いて行った。
「鏡花、何かあったのか?」
「私、さっき平島警部と事件の話をしていたんです。遺留品に財布がないことから物取りの犯行の可能性が高いということでしたが、私は納得がいきません」
「どういうことですか?」
「小春さん、いいですか?先ほど、平島警部と話していたことでもあるのですが、被害者の清志さんは頭だけが池に浸かっていた状態で見つかったそうなんです。しかし、明らかにおかしいです」
「どこがですか?溺死でもさせたんじゃないですかね?」
「いえ、死因は腹部を刺されたことによる出血死です」
「そうなんですか?」
「ええ、そうであるならば、物取りの犯行でそこまでしますか?それに、出血死にしては現場に血の跡がほとんど見受けられませんでした」
「どこか別の場所で殺害されたってことか?」
「ええ、そうでしょう。今から、第一発見者である神主さんにお話を伺いに行きたいと思っています」
「俺たちも行くぜ」
「ありがとうございます」
鏡花たちは警察官の目を盗んで、神社の周りを歩く。すると、拝殿の前で事情聴取を受けている男性がいた。
「あの人が神主さんのようですね」
「こっちは警備が手薄だな」
「そうですね。現場は鏡ヶ池の方ですからね」
すると、タイミングよく事情聴取が終わったのようで、警察官が鏡ヶ池の方へ去って行った。
「あ、終わったようですね。鏡花さん、今がチャンスかもしれません」
「ええ、行きましょう」
鏡花たちは神主に近づき、事情を聴く。
「あ、あの、すみません」
「ん?なんだね?」四十くらいのその男性はこちらを振り返る。
「私たち、被害者の男性と知り合いなんです。それで、少しお話を伺いたくて…」
「知り合いなのか、なんと言っていいやら…」神主の男性も少し言葉に詰まる。
「いえ、お気になさらないでください。非常に悲しいですが、仇を討ちたいんです!」
「おい、話盛りすぎだろ。俺ら被害者と知り合いじゃないぞ」乃木が鏡花に耳打ちする。
「その方が話を進めやすいんですよ」鏡花も乃木に耳打ちし返す。
「どうしたんだね?」
「あ、いえ、なんでもないです。それで、発見したときの状況とかを教えて頂けませんか?」
「ああ、いいよ。警察に言ったことと同じことしか言えないけどね」
「構いません」
神主は発見時の状況を話し始める。




