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日本神話殺人事件3

「実は知り合いの学者から聞き出した話なんですけど、この木更津には日本武尊が残した宝があるとかないとか」

「あら、確かじゃないのかしら?」

「ええ、財宝探しとは往々にしてそういうものです。みなさん、木更津っていう名前の由来になった歌知っていますよね?」

「あ、さっき鏡花さんが言ってた歌ですよね?」

「はい、そうですよ」

「なるほど、若いのにそういうことにも興味あるのは感心するなぁ」

「いえ、私は地元ですから」

「そうだったね。で、その歌なんだけど、知り合いの学者は特有の見解を示しているんだ。


君去らず 袖しが浦に 立つ波の

その面影を みるぞ悲しき


妻である弟橘姫が海に身を投げた数日後に、日本武尊は海に流れ着いた弟橘の袖を見つけたらしいんだ。この歌はその時の歌だよ」

「それも鏡花さんから聞きました」

「ほぉ、ではこれはどうかな?近くに袖ヶ浦っていう地名があるだろう?その弟橘の袖が流れ着いたのが由来なんだ。左右の袖はそれぞれ袖ヶ浦市と習志野市の袖ヶ浦に漂着したと言われている。その他にも弟橘の所有物である櫛なんかも数日後に漂着したらしいよ」

「そうなんですか。面白いですね」乃木は聞き入っている。

「そうだろう?僕たちもこの木更津でライターをしてよかったと思っているよ。ところで、ここからが問題なんだ。日本武尊が実在していた人物かは不明だ。そもそも、古事記に書かれていることは信憑性に欠けるからね。実際、いくつかの説があって、26代の継体天皇以降の存在は確実だと言われていて、有力説では10代の崇神天皇以降は存在していたといも言われている。つまり、日本武尊に東国征伐を命じた12代景行天皇の存在も不確かなものだよ。ということは、景行天皇の時代に存在していた日本武尊についても不確かな部分が多いということだね。古事記の記述によると、不確かな天皇については百何十歳も生きているということだけど、実在する人間であるとしたらメカニズム的にも信じ難い。だから、僕は今回の話をその学者から聞いたけど、半ば信じていないんだ」

「河本くん、その話ってなんなんだい?」

「ええ、弟橘姫の所有物です」

「櫛…ですか?」

「その通りよ。私も隆彦と一緒に聞いていたんだけど、俄かに信じ難いのよね。その学者曰く、その櫛って(かんざし)のことだって言っているのよ。しかも、黄金の簪だってね」

「黄金の簪ですか?」

「うん。当時の女性は櫛なんて使わない!なんて自論を言ってたわ。正直、飛躍しすぎな気もするんだけど話題作りとしては十分じゃない?」

「そんなことあると思うかい?柴田さん」

「私は信じられないよ。財宝なんて見つかった試しがない。そういう江畑さんはどう思うんだい?」

「そうだねぇ。財宝なんてもんに興味はないけど、友美ちゃんが言ったように話題作りにはなるんじゃないかい?ね、会長」

「うーん…夏休みということもあるし、若いもんの協力があればどうにかなるやもしれんなぁ。どうだ鏡花、お前はどう思う?」

「うん、私も信憑性にはとても欠けると思うよ。でも、千葉県にもいろいろな財宝伝説があるから、そのどれかと通ずるところがあるのかもしれない。日本武尊は景行天皇の子供とも言われているし、当時の大和国にあっては相当に地位の高い人物なはずだから、その妻の弟橘姫が黄金の櫛を持っていた可能性も否めないかな。あくまでも神話の話だけど。乃木さんと小春さんはどう思われます?」

「俺にはよくわからない。ただ、昔の人は何かを神格化する傾向があるようだから、天皇として存在していたかは別として、それに相当する人物がいたのかもしれないな」

「私も乃木さんと同じ意見です。信憑性についてはよくわかりませんが、面白そうだとは思います」

「決まりじゃな。日本武尊ゆかりの場所を訪れることにしよう」

「ありがとうございます!あの、会長。僕と友美の知り合いに宝探しが好きな人達がいるんですけど、彼らの参加も認めてもらえませんか?」

「いいじゃろう。若い連中も多い方が盛り上がるしな」

「ありがとうございます」

「今日の集会はこれで終わりじゃ。宝探しは明日からじゃ。解散」

それぞれが鏡花の実家を出て行った。乃木と小春は、鏡花に連れられ二階へ行く。

「乃木さん、すみません。今回もまたお一人の部屋でお願いしますね」

「毎回恒例だな…」

「小春さんは私の部屋でいいですか?」

「えっ!?鏡花さんの部屋ですか?」

「ええ。と、言っても十年近く前に使っていた部屋ですが。祖母が掃除をしていてくれたそうで」

「僥倖です!」

「それはよかったです。祖父はこれから出かけるようなので、私たちも出かけませんか?」

「行きましょ!」小春は目を光らせている。

三人は準備をして出かける。

「おばあちゃん、出かけてくるね」

「気を付けて行くんだよ」

「うん」

玄関を出てバス停へ向かう。

「どこを案内してくれるんだ?」

「そうですねー、日本武尊ゆかりの場所の下見でもしに行きます?」

「抜け駆けというやつですね!」

「お宝を探すわけでは…」

小春は上の空だ。

「まぁ、任せるよ」

「では、まずは袖ヶ浦に行きましょうか」



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