郵便ポストの謎
「うわぁ、大きいお家ですね。郵便ポストはどこにあるんでしょうか?」
「よく見てください、ここですよ」乃木は門の横を指差した。
「あ、ありました。家の大きさと比較してしまうと小さく感じちゃいますね」
「まぁ、郵便ポストですから。他の家と大きさは変わらないと思いますよ」
「では、手紙入れますね」
「でも、これからどうするんですか?たとえ、この手紙をあいつが読んだとして、あいつがその返事を俺たちに伝える術はありませんよ」
「そこは大丈夫です。私がある方法を書いておきました。あとは、無事にお友達さんが読んでくれるかどうかだけです」
「どんな方法なんですか?」
「これです」そう言い、鏡花はポケベルを取り出した。
「え、ポケベル?なんでこんなものを?」
「こんなこともあるかと…思ってはいませんでした。私はレトロな物とか推理に使えそうなものを集めるのが趣味なんですが、何せこんなもの使う機会なんて現実の世界じゃ滅多に起こりませんからね。学校のロッカーにしまっていたんですが、まさかこんなところで使うとは」
「へ、へぇ…」
「引かないでくださいよ。わかってます、わかっているんです」
「いや、でも好きなことがあっていいと思いますよ」
「馬鹿にしてますよね?」
「してないですって。それよりもこれからのことを考えましょう」
「そうでした。ポケベルの使い方も書いておきましたし、待機しましょう」
「待機というと?」
「ええ、残念ながらこのポケベルは一定距離離れてしまうと通信できないのです。ですので、ここらで待つしかないですね」
「外で待機するってことですよね?」
「そうするしかなさそうですね。ここらにはこの家しかなさそうですし…それとも、忍び込みますか?」
「面白そうですが、不法侵入ですよ」
「乃木さんは法学部でしたね。これは失敬しました」鏡花は笑いながら誤魔化す。
「俺もそういうの嫌いではないですよ。ただ、それは漫画とかの話ですからね。取り敢えずはポストが見える場所に居ましょう」
「そうですね」
今は七月の前半でこれから夏本番になる。今日は雲が多いおかげで直射日光は避けられたが、それでも蒸し暑く汗が止まらない。
「あのちょっと飲み物買って来ます。何かあったら直ぐに電話してください」
「わかりました」
乃木は近くの自動販売機に向かった。
「ふぅ、それにしても本当に暑いなぁ」
それから五分ほど経った。しかし、誰かがポストを見にくる気配はない。
「初めて来た依頼だもん。頑張らなくちゃ」鏡花は暑さに負けないよう自分を鼓舞していると、
ピタ
「キャッ」
振り向くと乃木がお茶を持って帰って来た。
「あ、ごめんなさい。なんか、一人で喋ってたので大丈夫か、と思いまして」
「き、聞いてたんですか?その、これは…」
「お茶で良かったですか?」
「へ?いいんですか?お金払います」
「いや、いいですって。手伝ってもらってますし。倒れられても困りますから、水分補給して」
「ありがとうございます。頂きます」
「いえいえ」
「乃木さん、ここで監視を続けてもらっていいですか?」
「いいですけど、橋爪さんは?」
「私は少し周りを見て来ます」
「わかりました」
10分ほど経ち鏡花が戻って来た。
「おかえりなさい。何かありました?」
「特に何かがあるということではありませんでしたね。ただ、敷地を囲っている壁は高くて忍び込む余地はなさそうです」
「そちらは何かありましたか?」
「まだ、変化はないです。まだ、時間がかかりそう……」
そう言いかけた時、誰かが出て来た。
「あ、橋爪さん、誰か出て来ました。隠れてください」
「あの方は?」
「いえ、わかりません。もしかしたら、使用人のひとかも」
「以前来た時には居なかったんですか?」
「それはわからないです。その時は居なかっただけかもしれないですし、俺が行ったのは離れの一室だけですから」
「そうですか。でも、まずいですね。この方に見られたらお友達さんに届かないかもしれないですよ」
……………………
「あれ、見てください。あの人ポストを確認したのに何も取らずに戻って行きましたよ」
「え、そんなはずはありません。確かに私はポストに投函しました」
「わかってます。俺も見ていましたから」
あまりの異様な光景に二人は混乱する。