ライバル登場?事件
私は謎解き研究会会長、俵田一成だ。
「ぐぬぬ、最近『ヘルプ』とかいうサークルが謎解きをしているらしいではないか!」
「そ、そのようですね…」
「許せん!我が謎研が直々に相手になろうではないか!」
「そうは言っても、私たちだけで何をするんですか?」
「中村くん、確かに我が謎解き研究会は私と君だけだ!しかし、私はこれから『ヘルプ』とやらの会長を引き抜いてくる予定だ!」
「え、そんな勝手なことをしていいんですか?」
「問題ない。わたしが完膚なきまでに叩き潰してこよう!」
「は、はぁ…」
「では、行くぞ!」
「え!私もですか?」
「当たり前だ。我が研究会の未来がかかっている。もしも、そのサークルの会長ができる者であるならば、我が研究会も反映するはずだ」
「見切り発車は会長の良くないところですよ。そもそも、何で勝負するんですか?」
「風の噂で、その会長は文学部と聞いた。そして私は理系。つまり、数学で勝負だ!」
「せっこ!謎解き関係ないじゃないですか」
「勝てばいいのだよ。しかし、問題はこの条件を呑むかどうかだな。私が理系だということを知られては、不公正さを指摘されるだろう。いかにして、私に有利な条件を呑ませるか…」
「本当にせこいですね。その労力を謎解きに使ったらどうですか?」
「なにおう!」
「だって、会長、学祭レベルのクイズ大会ですら優勝できないじゃないですか」
「ぐはっ!」
「それに一問も答えずに終わるし」
「ぐわっ!もう、やめてくれ。わかったから。私は問題を作ってくる。でき次第直ぐに対決へ向かう」そう言って、俵田は出て行った。
「あっ…本当いつも勢いだけなんだから」
私は中村一葉です。教養学部の二年生で、面白そうなのでこの研究会に入ったのですが、完全に名前負けでした。会長はあんな感じですけど、悪い人ではないのでやめるにやめられず。そんな感じで会長は一世一代の大勝負に出るようです。
「よし!問題が完成した!過去の試験問題を出す。この程度でも、文学部にはわかるまい」
「はぁ、なんか悲しくなってきますが、取り敢えず行きましょうか」
「良い心意気だ!確か、サークル掲示板に貼ってあったな」
「見に行きましょうか」
二人はサークル掲示板へ移動する。
「会長、ありましたよ。これじゃないですか?」
「正にそれだ!ふむふむ、403教室を根城にしているようだな」
「そうですね」
「では、さっそく道場破りと行こうか!」
「テンション高いなー」
403教室の前に来た俵田は、少し緊張している。
「よ、よし、中村くん、準備はいいか?」
「会長、いくらなんでも緊張しすぎじゃないですか?」
「緊張などしておらん!行くぞ」
コン、コン、コン
「はい。空いていますよ」中から声がする。
「し、失礼する!」
403教室では女性が一人本を読んでおり、男性がパソコンを使用している。
「そ、そ、その…」
「なにか依頼でしょうか?」
「い、依頼?」
「もう、会長、ビシッと言ってくださいよ」
「そ、そうだな。道場破りだ!このサークルの会長は誰だ!?」
パソコンを使用していた男性が顔を上げ、俵田の方を見る。
「な、なんだね?君か、このサークルの会長は」
「いや、会長はそっちの文学少女ですよ」
「なるほど、聞いていた通りだな。私は謎解き研究会の俵田一成だ!」
「私は中村一葉です」
「あ、これはご丁寧にありがとうございます。私は『ヘルプ』の部長の橋爪鏡花と言います」
「俺は乃木亮太です。ところで、あなたたちは何をしに?道場破りって何?」
「そのままだ!そこの会長を倒しに来たのだよ」
「………は?」
「どういうことでしょうか?」
「君たちは何やら最近、注目を浴びているようではないか」
「そうなんですか?乃木さん」
「さぁな。そんな実感ないけど。小春ちゃんや彩香ちゃんが周りに言ってるのが広がったのかもな」
「そうなんですね。私たちも少しは人の役に立てているということかもしれません」
「ああ。漸く、サークル名に恥じぬ活動ができて来たな」
「お、おい!私たちを忘れてないか?」
「あ、そういえばいましたね。で、誰でしたっけ?」
「ええい、もういい!そこの会長とやら、私の作った問題を解け」
「なんでそんなことを」
「いいですよ」
「おい、鏡花」
「折角作ってくださったんですから、解けるかはわかりませんが挑戦だけはしてみましょうよ」
「甘いな。ただ、問題を解くだけではだめだ!」
「へ?」
「この問題が時間内に解けなければ、私の研究会に入ってもらおう」
「はぁ?いきなり何を言ってるんだ!」
「どうしたのかね?怖気付いたのかな?」俵田は不気味な笑みを浮かべている。
「鏡花、こんな挑戦受ける必要はない」
「なるほど、その程度ということか。どうやら買い被り過ぎていたようだ」
「なんだと!?」
「乃木さん!」
「鏡花?」
「いいですよ。その挑戦受けましょう」
「掛かったな!では、条件も呑むということでいいな?」
「はい!」
「では、問題を渡そう。助言は禁物だ。まぁ、君達に解ければの話だがな!わははは」
俵田は自信ありげに問題を渡す。
「おい、これ数学じゃないか。あんた、鏡花が文学部だって知ってただろ!?」
「さぁ、なんのことですかな?まさか、今更やめるとでも?」
「いいえ、やりましょう」
「そう来なくてはな。制限時間は五分だ」
「そんなにいりません」
「何?」
「取り敢えず、始めましょう」
「では、始める。スタート!」
円に内接する正五角形ABCDEの図形が書いてある。
一辺を1とする場合、対角線の長さを求めろ。
「初歩的な問題ですね。あなたは、私が文学部だから知らないと思ってこんな初歩的な問題を出したのだと思いますけど、潰す気で来るのであればもう少し問題の選択に気を使うべきでしたね」
「なに?」
「定理を知らなければどちらにしろ解けない、と踏んだのでしょう。だから、こんなに簡単な問題を出したのですね。もうできました、答え合わせをどうぞ」
「あんた、鏡花を舐め過ぎだぜ。そこらの文系と同じように見てたら後悔することになる」
俵田は鏡花の回答を確認し、震えている。
「ばかな…あっている」
「トレミーの定理の応用ですね。四角形において対辺同士を掛けて、それらを足したもの=対角線をかけたものになる。この内接する五角形に対角線を一本引くことで、四角形と三角形に分けることができます。正五角形の対角線の長さは全て同じですから、Xと置くことができます。AB・CD+BC・DA=AC・BDということになります。以下まとめると、1+X=X2(二乗)。移行すると、X2−X−1=0です。長さですからXは当然、正の数になります。そして、これを解の公式に当てはめると、X=1+√5/2(にぶんのいちぷらするーとご)です」
俵田は肩を落としている。
「……会長、帰りましょう」
「そうだな…」
「待ってください」
「へ?」
「今回は謎解きではありませんでしたが、またしましょう!」
「はっ!?」俵田は目を見開いている。
「会長?」
「これが一目惚れというやつなのか…」
「違うと思いますけど」中村は冷たく突き離す。
「いや、そんなことはない。あ、あの!私は君のことが好きだ!付き合ってく」
「ごめんなさい!」
「な、なぜだ」
「なんでわからんのかね、このアホ会長は。ほら、行きますよ。お騒がせしました」中村は俵田を引きずりながら部屋を出て行った。
「なんだったんだ…」
「わかりません。ですが、あのようなサークルがあることを知れてよかったです」
「面白い人たちだったな」
「ええ。私たちも負けないように頑張りましょう!乃木さん、サイト開設のお手伝いします」
「いや、やめろ、お前が機械をいじるといいことが…」
「そんなことありませんよー。あれ?」
「ああああ!電源消しやがったー。また、最初からじゃんかよー」




