小春狂言誘拐事件2
『610 987 1597 2584 4181 6765 ? 答えを全て足した一の位を取れ』
「なんだこの数字?」
「数が羅列されていますね」
「これを全部足すのか?」
「……………」
「どうですか?解けそうですか?」
「大丈夫ですよ、高橋さん」
「ああ、鏡花に解けない謎はないからな」
「それは言い過ぎです。私なんてまだまだです」
「そうか?」
「そうです。ですが、この謎は解けましたね。フィボナッチ数列です」
「フィボナッチ数列?」
「ええ、簡単に言うと、二つの数を足した答えとその前の数を足していくというものです。つまり、610+987=1597 1597+987=2584という感じですね。ですから、答えは10946です。それを足せということですから、20ですかね?」
「一の位を取るから、0じゃないか?」
「あ、そうでしたね。では、答えは0です」
「解けたな。次はどうすればいいんだろう?」
「わかりません。何か指示があるのかもしれません。『サンライズ』のみなさん、お騒がせしました。失礼します」鏡花は頭を下げ、部屋を出る。
「鏡花、俺ちょっとトイレ行ってくるわ」
「わかりました」
乃木はトイレに行った。
ルルルルルル、ルルルルルル
「小春ちゃん、電話鳴ってるよ」
「あ、本当だ。乃木さんからだ」
ピッ
「どうしたんですか?」
「もう、二つ目の答えも解いたぞ。これからどうすればいいんだ?」
「え!もうですか!?流石、鏡花さんとしか言いようがないですが、仕方ありません。今から鏡花さんに電話を掛けます。今は一緒じゃないですよね?」
「勿論だ。こんな話できるはずがないだろう?」
「よかったです。じゃあ、乃木さんは引き続き鏡花さんに同行してください」
「わかった」
「悪りぃ、待たせた」
「いえいえ。しかしながら、なんの情報もないとどうすればいいのかわかりませんね」
「そ、そうだな」
ルルルルルル、ルルルルルル
「あら、またあの電話番号からですね」
「出た方がいいんじゃないか?」
「はい」
ピッ
「もしもし」
「どうやら、二問目も解いたようだな」
「先程と声が違うようですが…」
「そ、そんなことはない…はず」
「ところで私はどうすればいいのでしょうか?」
「最後の問題だ、人は2、蜂は6、犬は何? 五分後にこちらから電話をする。それまでに解くように」
「4ですよね?」
「へ?」
「ですから、犬の足の数は4ですよね?」
「え、その、もう解けちゃったんですか…?」
「はい」
「あ、あの、今までの数字を並び替えて、その場所に来てください!」
ガチャ
「あら、一方的に切られてしまいました」
「どう思われます?乃木さん」一点の曇りもない笑顔を向けてくる。
「えっと、俺トイレ行ってくる!」
乃木はその場から逃げるように走る。
「え!?またですか?」
「…………」
「行っちゃった…今までの数字は0と4だけど、そんな場所ないしなー。あ!もしかして、『サンライズ』の『サン』も数字にするのかな?だとすると、304。でも、並び替えるってことは304はないよね。三つの数字の並べ方は、パーミテーション3の3だから六通り。でも、この大学に0から始まる教室はないから、残りは340、430、403だよね…」
その時、鏡花の携帯にメッセージが入る。
「先に行っててくれ、すぐに行くから」
「わかりました」
「これでよし。この中だったら、あそこしかないよね」
鏡花は導き出した教室へと向かう。
「あれ?ここだと思ったんだけど、なんか暗いなー」
コン、コン
ガチャ
「空いてる…」
パンッ!パンッ!
「鏡花さん、お誕生日おめでとうございます!!」
「えっ?」
「さっきまでのは全部このためだったんです。でも、鏡花さんには簡単すぎて、予想よりも早く辿り着いちゃったんですけど…」
「ごめんなさい…」
「いえ、なんとか間に合いましたから!それに、私たちじゃ鏡花さんの足元にも及ばないことがわかりました!やっぱり、鏡花さんは私の憧れであって届いちゃいけない存在なのかもしれません」
「そんなことはないんじゃないか?」
「乃木さん!」
「鏡花は常人より格段に賢いけど、普通の女の子だ。俺らとなんも変わらないよ」
「そうですよね!ごめんなさい。やっぱり、私は鏡花さんが大好きです」小春は鏡花に抱きつく。
「小春さん…」
「みなさん、折角の誕生日会なんですし楽しくいきましょう!」彩香がその場をとり持つ。
「そうだな」
「私たち、ケーキ買ってきたんです。お菓子もありますよ」
「わぁ、美味しそうですね」
「私、誕生日プレゼント持ってきましたよ」小春はカバンから小包みを出す。
「開けてもよろしいですか?」
「はい!」
鏡花が小包みを開けると、中からブレスレットと写真が出てきた。
「この写真…」
「はい。この間、彩香ちゃんに撮ってもらった写真です。サイトに載せようって言っていた」
「現像して、こんな素敵な額に入れてくれたのですね」
「ブレスレットも付けてみてください」
「勿論です」
鏡花はブレスレットを左腕につける。
「どうですか?」
「とてもお洒落です。本当にありがとうございます」
「鏡花さん、私もありますよ」
「え、彩香さんもですか?」
「はい、これです」
彩香はカバンから何かの像を取り出した。
「え、これは…」
「悪魔像です。縮小バージョンですよ」
「すごいな。細かいところまでしっかりしてる」
「そうなんです。村の人に特別に作ってもらいました」
「これ、鏡石ですよね?」
「流石です。氷門山に落ちていた鏡石を削って作っているんです」
「ありがとうございます!」
「ただ、ちょっと怖いな」
「私はこういうの嫌いではありませんよ」
「あ、俺もプレゼントあるんだ。実は今日、小春ちゃんに言われてお前が誕生日だってことを知って、事前に用意できなかったんだ。だから、さっき買ってきた」乃木は鏡花に袋を渡す。
「見てもいいですか?」
「ああ、気にいるかわからないけど」
袋の中は本だった。
「この本…」
「お前、欲しがってただろ?でも、今読んでる本が読み終わってから買うって言ってたからよ」
「覚えていてくれたんですね…」鏡花は俯いている。
「鏡花?」
「…………」鏡花は泣いている。
「鏡花さん、どうしたんですか!?乃木さん、何かしました?」
「いやいや、今の流れからなんで俺なんだよ」
「だって、鏡花さん乃木さんのプレゼントを見た瞬間泣いたじゃないですか」
「違うんです、小春さん」
「鏡花さん、大丈夫ですか?」
「私、こんな風に祝ってもらったことなんてないので、本当に嬉しくて」
「泣かないでください。私たちはずっと鏡花さんの側にいますよ。ね?乃木さん」
「ああ、これからもよろしくな」
「はい!」
誕生日会が終わり、鏡花と乃木は家路に着く。その途中、乃木が鏡花に疑問をぶつけた。
「なぁ、今回のこと気付いてただろ?」
「なんのことですか?」
「わかってるよ。お前が俺たちの気持ちを汲んでたってこと。だけど、お前が気付いていないわけがない、そうだろ?」
「正直なところを言うと、正門前で乃木さんと会った時から何かあるとは思っていました」
「最初じゃないか!どうして!?」
「あの時、乃木さんは俺も小春ちゃんに呼ばれた、と言っていました。『俺も』と言うことは、私が小春さんに呼ばれていたことを知っていたということですよね?本当に偶然会ったとするならば、そのような発言はしないですから」
「そっか…」
「それに誘拐されたというのに周りの反応が薄いことや、私に謎解きを仕掛けてくることからも、恐らくは狂言誘拐ということはわかっていました」
「そこまでわかってて乗ってたのか」
「私の電話番号を知ってる人は限られますからね。名前が表示されない人で私の電話番号を知ることができる人、それも小春さんのことを知っていると言えば、彩香さんくらいしかいないかと」
「なるほどなー。僅かな情報からそこまで推理できるのか」
「でも、私にとってそんなことは大したことではありません。私はもっとかけがえの無いものを手に入れましたから」
空には真っ赤な夕日が出ている。




