小春狂言誘拐事件
乃木は珍しく小春に呼び出された。
「おはよう」乃木はいつも通り、貸し教室へ入る。
「おはようございます!」
「あれ!?彩香ちゃん!?帰ってきてたの?」
「はい。皆さんが帰った二日後に」
「そうなんだ。ところで、用ってなんだ?鏡花はいないようだけど…」
「鏡花さんには言っていませんから」
「え、珍しいな、小春ちゃんが鏡花に内緒事なんて」
「だって、今日は鏡花さんの誕生日なんですもの!」
「そうだったのか」
「知らなかったんですか?鏡花さんのこと好きなくせに」
「…………な、な、何言ってんだよ!?」
「見てればわかりますよ。ね、彩香ちゃん」
「なんとなくですが」
「彩香ちゃんまで…」
「その話はいいんだよ、で、何をするつもりなんだ?」
「狂言誘拐です!」
「はい?」
「ですから、狂言誘拐をするんです」
「なんで?」
「サプライズです。鏡花さんには大学まで来てもらうように既に言ってあります」
「大丈夫か?大事になったりしないのか?」
「そこで大事にしないようにするのが今回、乃木さんにやってもらいたいことなんです」
「なるほどな。段取りとかは決めてあるのか?」
「勿論です。まず、私が誘拐されたことにします。彩香ちゃんが犯人役で、電話で色々指示するので、乃木さんは鏡花さんと一緒に行動して下さい。最終的にこの教室に戻って来てもらう、という段取りです」
「どんな内容なんだ?」
「それは言えませんよ。言ってしまったらつまらないじゃないですか。乃木さんにも鏡花さんと一緒に考えてもらいたいんです」
「結構しっかりしてるな。わかったよ」
「その間に私と彩香ちゃんでいろいろ準備をしておきますので、うまい具合にやってもらいたいです」
「うまい具合って、抽象的だな」
「こちらからも乃木さんに連絡します。絶対に鏡花さんにはバレないようにお願いしますね」
「任せとけ」
「では、正門に向かってもらっていいですか?あと五分もしたら到着されると思うので」
「オッケー。また後で」乃木は正門に向かう。
乃木が正門で待っていると、すぐに鏡花が来た。
「あれ?乃木さんじゃないですか?」
「よ!」
「どうされたんですか?」
「あ、いや、俺も小春ちゃんに呼ばれてさ。奇遇だな」
「そうですね。どうされたんでしょうか?」
「さぁ?ここで待ってるように言われただけだから」
すると、鏡花の携帯に知らない電話番号から電話がかかって来た。
「あら?知らない番号ですね…」
「出た方がいいんじゃないか?」
鏡花は電話に出る。
「もしもし」
「高島小春を誘拐した。助けたければ、今から言うことに従ってくだ…じゃなくて、従え」
「はい?」
「月が沈むサークルを訪ねろ」
ツーツー
電話は切れた。
「なんだって?」
「うーん、小春さんが誘拐されたそうです」
「え!?大変じゃないか!」
「そうですね。乃木さん、月が沈むサークル、とは何のサークルだと思いますか?」
「月が沈むサークル?わからんな」
「うーん…」
「サークル紹介掲示板でも見てみるか?」
「それはいいですね!」
鏡花と乃木は掲示板へ向かう。
「『ヘルプ』のチラシもあるな」
「ええ、新しいものでも作りましょうか?」
「いや、このままでいいんじゃないか?俺はこのチラシを見てお前に連絡を取ったわけなんだし、懐かしい感じがするけどな」
「それもそうですね。月が沈むサークルを探しましょうか」
「ああ、でも、俺わかったかも」
「どのサークルですか?」
「このボランティアサークル『サンライズ』ってやつじゃないのか?」
「確かに!そうかもしれません。月が沈めば、太陽が昇りますものね。他に考えられそうなサークルはなさそうです」
乃木は鏡花を見ている。
「私の顔に何か付いていますか?」
「いや、お前よりも先に謎を解いたのなんて初めてだから、すげー気持ちいいわ」
「すごいです!」鏡花は笑顔で乃木を褒める。
「やめてくれ。この程度で喜んでるようじゃ、お前についていくなんてことはできないだろう?」
「そんなことありませんよ。さっそく、『サンライズ』を訪ねてみましょうか?」
「ああ。今日は活動日だから、506教室を使ってるらしいな」
乃木と鏡花は506教室を訪ねる。
コン、コン
「どうぞ」
「あのー…」
鏡花が覗くと、サークルのメンバーと思われる何人かがその部屋にいた。
「橋爪鏡花さん?」
「え?はい、そうですけど…」
「私、小春ちゃんの友達で高橋恵です!」
「高橋恵さん…?」
「あ!もしかして、小春ちゃんが『ヘルプ』に入るきっかけになった、友達探しの時の!」
「はい!あの時はありがとうございました!」
「じゃあ、ここって小春ちゃんが所属しているサークルなのか?」
「そうですよ。ところで、どのようなご要件で来られたんですか?」
「えっーと、それは…」
「小春さんが何者かに誘拐されてしまったようなのです」
「え!?小春ちゃんが!?どうしてですか?」
「わかりません。犯人と思われる方から電話がありました。月が沈むサークルを訪ねろ、と言われたのでこのサークルを訪ねたのですが、何か知りませんか?」
「関係あるかわかりませんが、俺がこの教室に来た時、誰もいなかったんですけど机の上にこれが置いてありました」サークルの部員が手紙を取り出した。
「見せて頂いてもよろしいですか?」
鏡花は手紙を受け取り、内容を確認する。
「うーん、乃木さん、また謎みたいですね」




