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薄氷村殺人事件14

乃木は村に戻ると聞き込み調査を始めた。

「まずは…あ、武井さん夫婦だ」

武井夫妻は村人と話している。

「あの、幸子さん、隆晴さん」

「あら、乃木くん、どこにいたの?」

「え?」

「小春ちゃんが探してたわよ」

「あ、さっき会ったので大丈夫です。それよりも、お聞きしたいことがあるんですが…」

「何かしら?」

「幸子さん、俺たちが昨日儀式をしている時って洞窟の入り口に居ましたよね?」

「ええ、そうよ」

「その時、何か変わったことはありませんでしたか?」

「そうねぇ。あの男の人が来たことくらいかしら?」

「他には何もなかったですか?」

「あ、そういえば、あなたたちが洞窟に入ってすぐに私の懐中電灯が切れちゃったのよね。偶然だから関係ないと思うけど」

「いえ、些細なことでも構いませんよ。隆晴さんは、櫓の上から蔵の中に光を見た、と言っていましたが」

「あ、ああ、像を通して蔵の窓から光が見えたんだ」

「それは儀式が始まってすぐですよね?」

「そうだけど」

「ありがとうございます。因みに、昨日の夜はお二人共どちらに居ましたか?」

「私たちは家に居たわ。それはお互いが証明できるわよ」

「そうですか。わかりました。ご協力、感謝します」

乃木は次なる目的地へ向かう。

役場に行くと、須藤と田辺が頭を抱えていた。

「すみません」

「あ、乃木くん、こんなことになってしまって申し訳ない。折角、来てくれたのに」

「いえ、須藤さんのせいではありませんよ」

「お二人に聞きたいことがありまして」

「なんだい?」

「須藤さんは俺たちが儀式を受けている時、洞窟の入り口に居ましたよね?」

「ああ、勿論だよ。幸子さんの懐中電灯がすぐに切れたから、私の懐中電灯だけで見張りをしていたんだよ」

「田辺さんは、儀式を行っていた昨日の二十時頃、何をされていましたか?」

「この役場に居たわよ」

「誰かといたとかは?」

「一人だったわ。資料を整理していたのよ」

「そうですか。それと、昨日の騒ぎのあと、お二人は家に居ましたか?」

「騒ぎがあったのって、夜の九時くらいだったかしらね」

「恐らくはそうだと思います」

「二十二時くらいまでは、役場に居たと思うけど。儀式が終わって、乃木くんも須藤さんと亡くなられた男性と役場に来たじゃない」

「そうでしたね。佳乃さんが役場に呼びに来て、田辺さんは須藤さんに残るように言われてました」

「そうよ。それに、二十二時頃に須藤さんが戻って来て、それと入れ違いに家に帰ったわ」

「私も田辺さんが帰った後、すぐに役場の鍵を閉めて帰ったよ」

「ありがとうございます。ご協力、感謝します!」

「もう、いいのかい?」

「あ、最後に一つ、須藤さんが使っていた懐中電灯ってそこにある懐中電灯ですか?」

「そうだよ。この村の懐中電灯は一括して購入したからみんな同じものを使っているんだ」

「少し、見せてもらっていいですか?」

「いいよ」

乃木は、懐中電灯の電源を点けた。

「あ、これ、細い光も出るタイプなんですね」

「ああ、そうだよ」

「なるほど。ありがとうございます」

乃木はお礼を言って役場を後にした。

「次は棚菊家か」

乃木は棚菊家へ向かう。

「佳乃さん、少しお話いいですか?」

「どうしたの?」

「昨日の二十時頃、何をしていましたか?」

「あなたたちが儀式を受けている時間よね?」

「はい」

「私は家に居たわ」

「証人はいますか?」

「いないわ。お母さんも、彩香も儀式に行っていて、家には私以外誰もいなかったから」

「そうですか」

「調査をしているのかしら?」

「ええ、そんなところです。ご協力、ありがとうございます」

一方で鏡花は密室の謎について考えていた。

「蔵の中に光が見えたのは午後八時、それは監視をしに行った隆晴さんの証言…」

鏡花は蔵の周りを一周する。そして、何かが落ちているのに気が付いた。

「これは、石かな?表面がツルツルだけど…」

小窓から蔵の中を覗くと、現場は昨日のままのようだった。

「蔵のカギが開いていたのは、儀式の準備をするために開けた時から須藤さんが鍵を返した午後六時頃だから、殺害された竹原さんはその間に蔵に入ったとしか考えられない。でも、竹原さんは午後八時頃になって蔵の中で懐中電灯の電源を入れた。その間は何をしていたんだろう?」

太陽がカンカンに照っている。

「悪魔像はガラスでできている…」

鏡花が悪魔像を見ると、悪魔像の向こう側に歪んだ太陽が見えた。

「っ!?もしかして!」

その時、乃木が歩いてきた。

「あ、乃木さん、どうでしたか?」

乃木は聞き込みの結果を鏡花に伝える。

「やはり、そうでしたか…」

「何かわかったんだな?」

「ええ、私の推理が正しければこの密室トリックを作り出せたのはあの人しかいないです。まだ確証がないので調べる必要はありますが…」

「何でも言ってくれ。調べてくるからよ」

「では、もう一度、氷門山の山頂まで行きましょう。何か残ってるかもしれませんから」

「わかった。行こう」

鏡花と乃木は再び氷門山の山頂を目指す。



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