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薄氷村殺人事件12

鏡花は大部屋へ戻り、小春と彩香に役場に行く旨を伝え、部屋から出て来た。

「乃木さん、行きましょうか」

「ああ」

外に出ると、日が完全に昇っており、村を照らし出している。

「こんなに晴れてんのに、本州より明らかに涼しいな」

「そうですね。直射日光が気になります」そう言って、鏡花は日傘を差した。

「準備いいな」

「紫外線は女の敵ですから」

「あ、ああ」傘の間から見える鏡花の笑顔に、乃木は見入っていた。

「どうしました?行きますよ」

「いや、何でもない。行こうぜ」

「はい!」

役場を訪れると、村長と須藤が話をしている。

「あれ、君たちどうしたんだい?八時前になったら幸子さんが呼びに行く予定だったんだけど」

「あ、違うんです。私たち聞きたいことがありまして」

「事件のことか?」

「はい」

「なんじゃ?」

「まず、おばあさんに聞きたいのですが、本当に金庫の暗証番号は他の人が知るということはないのですか?」

「絶対にないじゃろう。わしも他の者に教えることはない」

「誰かに見られたりは?」

「十年に一度しか蔵の鍵は使わないんじゃ。わしが担当するのも今年で3回目じゃが、そんな記憶はない」

「そうですか。わかりました」

「その金庫から鍵を持ち出すのは無理だってことか?」

「ええ、今のところは」

「他には?」

「須藤さんにお願いなんですけれども、少しだけでいいので奥の部屋を見せて頂けませんか?」

「うーん、村に関する資料とか経費とかの資料もあるからなぁ。ドアのところから見るくらいだったらいいよ」

「それで構いません。ありがとうございます!」

「どうぞ」

奥の部屋は六畳くらいの大きさの部屋で、机は一つしかなく、その上には資料が広げられている。

「村役場だから、そんなに大きい部屋ではないの」

「あの扉は?」

「あぁ、裏口だよ。ほとんど使わないんだけどね」

「ありがとうございました」

「もういいのかい?」

「はい」

その時、役場の入り口が開き、田辺が入って来た。

「あ、村長、来ていらしたんですね」

「うむ、雪嶺祭について須藤さんと話しててな」

「あ、田辺さん、おはようございます」

「あら、乃木くんじゃない。どうしたの?」

「少し、調査をしてまして…」

「乃木さん、この方は先程言われてた」

「そう田辺さん」

「あなたは?」

「あ、私は橋爪鏡花と言います。彩香さんの依頼で乃木さんとこの村に来ました」

「依頼?」

「あ、いえ、なんでもないんです。気にしないで下さい。では、私たちはこれで」

「君たちも八時前には村長の家にいてね」

「わかりました」

鏡花は乃木の手を引っ張り、そそくさと役場を後にする。

「どうしたんだよ」

「私が余計なことを言いそうだったので」

「依頼のことか?」

「ええ、彩香さんが相談したとなれば村の人も心配するでしょうし、余計な情報は与えない方がいいかと」

「そっか。で、戻るか?」

「私はあと一つ確かめたいことがあります」

「確かめたいこと?」

「はい。櫓に登りたいと思います」

「え、いいのか?そんなことして」

「ですが、隆晴さんが言ったことの真偽を確かめなくてはなりませんから」

鏡花と乃木は櫓の前まで行く。

「ここから登るんですね」

「危ないから俺が先に昇る」

「ありがとうございます、乃木さん」

乃木は梯子(はしご)を登り始めた。

「鏡花、結構頑丈だから大丈夫だぞ」

「わかりました」

鏡花も梯子を登る。

「村が一望できますね」

「蔵の方角はあっちだな」

「確かに悪魔像と重なって、蔵が見えますね」

「じゃあ、隆晴さんの言っていたことは本当だったってことか?」

「そうですね」

鏡花と乃木が話していると、下の方から声がした。

「鏡花さーん、何してるんですか?」

声の正体は小春だった。

「あれ?小春さんに彩香さんもどうされたんですか?」

「鏡花さんたちを探しに来たんですよ」

「探しに?」

「はい!さっき幸子さんが呼びに来たんです」

「え!?もう、そんな時間ですか」

時計を見ると、時刻は七時四十五分だった。

「いけませんね。早く降りましょうか」

「そんなに急ぐと危ないぞ」

鏡花はそそくさと梯子に足をかける。次の瞬間、

「わっ!?」鏡花は手を滑らす。

「鏡花さん!!」

ガシッ!

「馬鹿やろう。だから、急ぐと危ないって言っただろ!」乃木は鏡花の手をしっかりと掴んでいる。

「すみません」鏡花はすぐに梯子を掴み直し、ゆっくりと下に降りていく。

乃木も続いて下に降りる。

「乃木さん、ナイスです!」小春はなぜかハイタッチを求めて来た。

「お、おう」乃木もそれに応じてハイタッチをする。

「あ、あの、本当にありがとうございます。いつも、危ないとこを助けて頂いて…」

「お前に死なれたら、この事件が迷宮入りしちまうだろ」

「乃木さんも素直じゃないんだから」小春がちゃかす。

「じゃあ、皆さん氷門山の入り口まで行きましょうか」彩香の一言で、氷門山へと向かう。

山の入り口に行くと、既に村人が集まっていた。

「みな、集まったな?これより、雪嶺祭が始まる。では、行くぞい」

村長が先頭に立ち、祭の開始を宣言する。



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