薄氷村殺人事件9
「おい!あんた、村長だろ!?竹原のやつがいないんだよ、何か知らないか?」
「わしは何も知らん」
「本当かよ!?この村の連中が竹原に何かしたんじゃないのか!?」
「やめて下さい!祖母も私も何も知りません!」
「竹原を返せ!」今度は彩香に襲いかかろうとしている。
「あんた、いい加減しろよ!」
「小僧!なぜ戻って来た?」
「いや、この人が洞窟の奥に行った後、彩香ちゃんの叫び声が聞こえたから何かあったと思って」
「乃木さんっ!」
「鏡花!お前なんでここに、先に出てろって言っただろ!」
「居ても立っても居られなかったんです」
「小春ちゃんは?」
「入り口にいる須藤さんを呼びに行っていると思います」
すぐに複数の足音が聞こえた。
「村長!大丈夫ですか!?」
「ああ、小僧に助けられたわい」
「それはよかったです。しかし、もう我慢出来ません。警察に通報させていただきます!取り敢えず、役場まで来て下さい」
「ま、待ってくれ、俺は居なくなった竹原を探しに来ただけなんだ。悪気があったんじゃ…」
「天罰よ…」
「彩香ちゃん?」
「天罰が下ったんだわ。この村のしきたりを守らずに、勝手なことをした報いよ。あなたにも天罰が下ればいいんだわ!」
「彩香、落ち着くんじゃ!」
「須藤さん、とにかくここから出ましょう!私たちは彩香さんとおばあさんを棚菊家までお連れしますので」
「わかったよ。私はこの男を役所に連れて行く」
「須藤さん、俺もついて行っていいですか?この人が逃げるかもしれないんで。いいよな?鏡花」
「ええ、乃木さんがいれば心強いですね。お願いします」
「また後でな」
乃木と須藤は憔悴しきった金井を役場へ連れて行った。
「私たちも行きましょう」
鏡花と小春は、我を失っている彩香を支えながら洞窟を抜ける。
洞窟を抜けると、入り口には心配そうに待っている武井夫婦がいた。
「そ、村長、いったい何が…」
「やつらはしきたりを破った。男が消えたのもその代償じゃ」
「あ、あの、村長」
「なんじゃ?隆晴、はっきり言わんかい」
「見ちゃったんですよ」
「何をじゃ?」
「私が櫓に監視をしに行った時なんですが、その時、蔵の中に光が見えたんです!」
「なんじゃと!?鍵はわしの部屋の金庫にあるはずじゃから、入れるはずがない!」
「でも、本当に見たんです!悪魔像の向こうに、丁度蔵から光が出ているのを!」
「おばあさん、急いで確認しに行きましょう!」
鏡花たちは一度棚菊家へ戻り、彩香を寝かせた。
「彩香はこれで安静じゃ。精神的にも疲労が溜まっていたんじゃろう。娘よ鍵があるか確認しに行くぞ」
「はい!」
「鏡花さん、私は彩香ちゃんが心配なのでここに居ますね」
「小春さん、彩香さんをお願いします」
「任せて下さい!」
鏡花は村長の後をついて行き、金庫を見に行く。
「悪いが暗証番号は教えられんから、少し目を瞑っていておくれ」
「わかりました」鏡花は少しの間、目を瞑った。
「もう、いいぞ」
鏡花が目を開けると、村長は番号を入力し終えていた。
村長が金庫の扉を開くと、そこには鍵があった。
「鍵はここにある。つまり、わしらが儀式をしている最中に蔵に入るなぞ、出来っこないってことじゃ」
「その鍵は本当に蔵の鍵ですか?」
「勿論じゃ」
「蔵の鍵にスペアキーは?」
「そんなものこの村にはない。見ても分かる通り、かなり古い鍵じゃ。代わりのものなど作れるものか」
「そうですか…」
「信用できんのなら、確認してみるか?この鍵で本当に蔵が開くかどうか」
「お願いします」
ガチャ
「ほれ、開いたじゃろ?」
「そうですね…」
「鏡花さん」
「あ、小春さん。彩香さんはもう大丈夫なのですか?」
「はい。やっぱり疲れてたそうで、一人にして欲しいって言っていたので出てきました」
「鏡花さんの方はどうですか?」
「ええ、やはり鍵はちゃんと金庫にしまってありましたし、その鍵は蔵の鍵で間違いなかったです」
「もしかすることもあるじゃろうから、一応中も確認してみるか」
「そうですね」
「じゃが、決して悪魔の目には触れるなよ」
「わかっています」
鏡花は蔵の扉を開けた。
中はとても暗く、どうなっているかは判断できない。
「確か、入り口のすぐ近くの壁に懐中電灯が取り付けてあるはずじゃ」
鏡花は手探りで壁を触るがそれらしきものはない。
「あ!」
「あったか?」
「いえ、おかしいです。懐中電灯を刺す場所はありましたが、懐中電灯本体はないんです」
「なんじゃと?誰かが持ち出したのか?」
「それは変です。私たちが祭具を取るためにここに入ったのは、まだ日が沈む前でした。懐中電灯を使う必要なんてありませんよ」
「鏡花さん、少し目が慣れてきましたよ。でも、まだ中の状態はわからないですね」
その時、雲の間から月明かりが差し込んだ。鉄格子の小窓から差し込んだ月明かりは、蔵の中の凄惨な状況を照らし出した。いなくなったとされる竹原という男が、無残な姿で息絶えていた。
「きゃぁぁぁあああ!」小春は叫んだ。
「小春さん、見ないで!」鏡花は、小春を抱きしめる。
小春の叫び声は静閑な村に響き渡った。
「どうしたんですか!?」佳乃が家から出てきた。
「佳乃、来るでない!お前は直ぐに役場にいる須藤さんを呼んで来るんじゃ!」
「わ、わかったわ、お母さん」
すると、数人の村人たちが集まってきた。
鏡花が何が起きたかを村人に説明していると、村役場の須藤と乃木、金井がやって来た。
「村長何があったんですか!?佳乃さんが血相を変えて役場に来たものですから」
「うむ…村の者よく聞けい。今日は家へ帰り、戸締りをしっかりするんじゃ。よいな?」
集まってきた村人は、怯えながら各々の家へ戻っていく。
「遂に天罰が下ったんじゃ…」
須藤は持っていた懐中電灯で蔵の中を照らす。
「うわっ!?人が死んでる!」
「おい!どけ」金井が須藤を押し退けて蔵の中を覗いた。
「う、嘘だろ…竹原!なんで、こんなことに…」金井は腰を抜かしている。
「須藤さん、警察に連絡しないんですか!?」
「そ、それは…」
「ならん!!」
「人が死んでるんですよ!」
「雪嶺祭が終わるまでは、警察は呼べん!十年に一度の雪嶺祭じゃ。警察が来て中止となれば、この村に災いが起こる。雪嶺祭が終わるまでは警察は呼ばん!」
「そんな!遺体はどうするんですか!?」
「このままにしておく。悪魔の目を取る時以外はこの蔵は閉めることにする!」
「少しだけいいですか?」
「なんじゃ、娘よ」
「現場をいじらないことには賛成します。ですので、この場で少しだけ現場検証させて下さい」
「これは探偵ごっこじゃないんじゃぞ!」
「わかっています。本物の殺人事件です。ですから、少しだけ時間を下さい」
「俺からもお願いします!鏡花なら、こいつなら、解決に導いてくれるはずです。俺は、こいつの過去を聞きました。事件を解決することで人の助けになりたい、っていう気持ちは本物のなんです!」
「私からもお願いします!」
「小春ちゃん…」
「ふん、なかなかの娘じゃな。よかろう、少しだけ時間をやる。だが、それで何もわからなかったら、後は警察に任せるんじゃぞ」
「ありがとうございます!乃木さん、手伝って頂けますか?」
「わかったよ。俺はお前の助手だからな」




