薄氷村殺人事件8
「みんな、あと三十分で二十時だぞ。少し早めに出よう」
「そうですね。あ、私お手洗いに行ってきますね」
「鏡花さん、私も行きます」
「じゃあ、俺は玄関で待ってるから準備できたら来てくれ」
「わかりました」
鏡花と小春は部屋を出てトイレへ行った。乃木が玄関に行くと、彩香が巫女姿で立っていた。
「え!?彩香ちゃん?」
「あ、乃木さん、鏡花さんと小春ちゃんは一緒じゃないんですか?」
「あ、トイレだよ。俺は先に準備ができたから玄関で待ってることにしたんだ」
「そうでしたか。でも、まだ三十分も前ですよ?」
「少し早めに行こうかな、って思ってさ。そういう、彩香ちゃんも早いね」
「私は準備がありますから。おばぁが来たら先に向かいます」
一階の居間から村長が巫女姿で現れた。
「小僧、もう行くのか?」
「ええ、余裕を持って行こうかと」
「まぁ、それでもいいが、どちらにしろ二十時までは、わしら以外洞窟には入れんぞ」
「ええ、外で待ってます」
「そうか。では、わしらは先に行っとる」
村長は彩香を連れて洞窟へ向かった。
そこから、数分して鏡花と小春が来た。
「お待たせ致しました」
「遅かったな」
「女の子は準備に時間がかかるんですよ」小春はこれ以上の詮索はさせまいとして言う。
「ああ、そうか」
「先ほど誰かとお話しされていました?」
「彩香ちゃんとな」
「彩香さんは?」
「先に行ったよ。村長もな」
「そうですか。では、私たちも向かいましょうか」
外は真っ暗で所々にある、街頭のみが灯りとなる。少し歩くと、洞窟のあたりに灯りが見えている。
「洞窟の前に誰かいるな」
洞窟の前まで来るとその灯りの正体が、村役場の須藤と武井夫婦が持つ懐中電灯だということがわかった。
「あ、君たち来たね」
「須藤さんに武井さん!」
「こんばんわ。私たちはここで見張りをしているのよ」
「あ、こんばんわ。そうだったんですか」
「じゃあ、櫓に行って来る」
「隆晴さん、お願いします」
「武井のおじさんは、隆晴さんと仰るのですね」
「ええ、そうよ。自己紹介がまだだったかしらね。私は武井幸子よ」
「あ、私たちもしてませんでした。私は橋爪鏡花と言います」
「乃木亮太です」
「高島小春です」
「じゃあ、君たちもそろそろ二十時になるから、中に入ってくれるかな?懐中電灯を一人一本渡しておくから使ってくれ」須藤は鏡花たちに懐中電灯を渡した。
「ありがとうございます」
「儀式に関係のない私たちは洞窟には入れないから、私と幸子さんはここで見張りをしているよ。ここからは君たちだけで進んでくれ。奥まで行けば村長と彩香ちゃんがいるはずだよ」
「わかりました。では、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
鏡花たちは洞窟の中へ入って行く。
「暗いな…」
「の、乃木さん、こ、怖いんですか?」
「そういう小春ちゃんこそ、俺は鏡花じゃないぞ」
「え!?あ、私、乃木さんの腕掴んでました?」
「二人ともお静かに。灯りが見えてきました」
「本当だ。いよいよ、儀式ってところだな」
灯りがある場所まで来ると、村長と彩香が既に準備を整えていた。
「お前さんたち来たか。金属類は持って来ていないじゃろうな?」
「はい。携帯も時計も全て置いてきました」
「懐中電灯の光を消して、そこに置いてくれ。ここからは松明の灯りだけで儀式を進める」
鏡花たちは懐中電灯の電源を切り、地面に置いた。
「よかろう。では、儀式を始めるぞい。そこへ一列に並べ」
向かって、左から鏡花、乃木、小春という順番で並んでいる。
「…………………」神妙な空気が漂い、儀式は始まった。彩香と村長は向かい合い、呪文を唱え始める。
「ラムサーナムサー…………………………」
二人は幣を振り続ける。
「我が村に災いを誘いし悪魔よ、この者どもを受け入れたまえ!!」
「………………」
「儀式は終わりじゃ、お前さんたちは先に帰っておれ」
どのくらい経っただろうか。長いようで短く感じた儀式は終わった。
「乃木さん、小春さん、行きましょうか」鏡花の一言で動き出す。
鏡花たちが外に向かって歩いていると、外から声が聞こえる。
「また、あなたですか!今は神聖な儀式中なんです!何人もここは入れません」
「うるせぇ!竹原がいないんだよ!」
「え、何?」小春が少し怯えている。
「やめて下さい!わっ!?」
足音が洞窟に響く。
「誰か来る!」
そこに現れたのは取材に来たという男のうちの一人、金井だった。
「おい、お前ら、竹原を見なかったか?小便に行ってくるって言ってから帰ってこないんだ!」
「俺たちは何も知らないよ」
「クソ!」
金井はさらに奥へ進んでいった。
洞窟の奥から争う声が聞こえ、彩香の叫び声が聞こえた。
「鏡花、小春ちゃん、先に外で待ってろ。様子を見てくる」乃木はそう言い、洞窟の奥へ引き返す。
「乃木さん、待って下さい!」
鏡花は乃木を追って洞窟の奥へ走って行く。
「小春さん、入り口にいる須藤さんを呼んで来て下さい!」
「え!?鏡花さんまで!も、もう!」小春は戸惑いながらも、入り口にいる須藤を呼びに行く。
乃木が洞窟の奥まで戻ると、金井が村長の肩を掴んでいた。




