薄氷村殺人事件4
外へ出て改めて村を見渡すと、村人の数は本当に少なく、自給自足をして暮らしているのだと実感する。
「彩香ちゃん、この村の人たちは本当に自給自足だけで生活してるのか?」家の前で乃木が質問する。
「100%ではありません。一ヶ月に数回、外から食べ物や本などを売りにきてくれる人がいます。何か頼みたいものがある時は村役場の須藤さんに言って、一括して注文する仕組みになっているんですよ」
「へぇ、よくできてるね。近代日本の村の自治みたいだね」
「そうですね。都会から切り離されて、今はこうして生活しています。村の案内を始めましょうか」
「お願いするよ」
「まずは、村の全体像をササっと説明しちゃいますね。まず私の家は村の東側にあります。そして、皆さんが入って来た入り口は村の南側にあって、その時正面に見えた大きな山が氷門山です。悪魔があの山にある鳥居を通って呪いをもたらす、と言われていることから氷門山と呼ばれています」
「悪魔!?」
「はい。村の中央に大きな塔があったのを覚えていますか?ここからも少し見えますが」
「確かに、そこの蔵の奥にあるようですね」鏡花がキョロキョロと覗いている。
「はい。かつて、この村では大規模な天災が起きたそうです。作物は枯れ、動物たちが暴れ出しました。昔はもう少し村人もいたんですが、その事件がきっかけで今のような寂しい村になってしまっています。その事件の時、村人の一人が氷のような物を纏った悪魔を見たそうです。事実か否かはわかりませんが、それ以来悪魔が災いをもたらすと言われ、村の中心に悪魔の像を建てたのです」
「そ、そんなことが…」乃木は壮大な話にポカンとしている。
「少し、重かったですか?ごめんなさい」
「いえ、私は面白いと思いました」
「わ、私も!興味深い話だね」小春は鏡花に合わせ、見栄を張っている。
「小春ちゃん、無理しなくて大丈夫だよ」
「し、してないよ。彩香ちゃん、なに言ってるの」
「ふふふ」鏡花が笑っている。
「鏡花さんまでー。大丈夫ですって!」
「じゃあ、案内続けるね。私の家の前にあるこの蔵は、雪嶺祭の時期にしか開けない決まりになっているの。大事なものがあるから、祖母の許可なく入ることは禁じられているから、皆さんも勝手に入ったりしないようにお願いします」
「では、移動しましょう」
蔵の向こう側へ出ると、大きな塔が見える。
「皆さん、あれが先ほど言った塔です。塔の上に設置されているのは悪魔像です」
塔の上には凶暴な顔をした悪魔が、村を出監視するかのように座っている。
「彩香ちゃん、あれって氷でできているの?」
「乃木さん、そんなわけないじゃないですか。いくらこの村が他の場所より気温が低いとは言え、夏ですよ。氷だったら普通溶けてますって」小春はニヤニヤしながら言う。
「わ、わかってるよ。一応聞いてみただけだって」
「小春ちゃんの言う通りだよ。あれは氷に似せて、ガラスで作られているんだよ。でも、不思議なことに割れたことが無いんだって」
「え、そうなの?ガラスだから簡単に割れると思ってた」
「それが、激しい雨が降っても割れたことが無いんだよね」
「ミステリアスですね!」鏡花が興味を示している。
「そして、向こうにあるのが櫓です。毎晩二十時になると、村の人が交代で村全体を監視します。 櫓は悪魔像を中止にして、蔵とは真反対の位置にありますね。櫓と悪魔像と蔵は直線上にあります」
「へぇ、そうなんですかぁ」
「次は洞窟を案内しますね」
「あ、大学でお話ししていた洞窟のことですね?」
「そうです。皆さんにはそこで儀式を受けてもらいます。洞窟は村の西側で、私の家とは反対側にあります。案内しますね」一行は、薄氷村の由来ともなった洞窟へ向かう。




