深まる謎
30分が経ち乃木が帰って来た。
「どうでした?何かわかりましたか?」
「いえ、30分考えた結果ですが、恐らくこの紙だけでは全てを解明するのは無理だと思います」
「そんな…俺には何も出来ないのか…」
「諦めないでください。何もわからなかった訳ではありません。これを見てください」
「ええ、何してるんですか?鉛筆で書いちゃって大丈夫なんですか?」
「はい。やはり、あの傷はただの傷ではありませんでした。私が鉛筆で塗った場所をよく見てください。白い線で文字が書いてありませんか?」
「うーん。確かに文字だなー。この文字は…」
「『朱』という字ですね。これは領収書などで使われるような手法で、上に書いた文字が傷になって下の紙に写るというものです。ですから、鉛筆で塗ってあげれば傷が浮き上がるんです」推理小説で覚えたことを自慢げに語る。
「すごい。よくこんな事に気が付きましたね。俺にはなんかの拍子に付いた傷にしか見えなかったですよ」
「いえいえ、それほどでも」鏡花は照れ臭そうに言った。
「それでほかにも四方が塗ってありますけど、何か書いてあったんですか?」
「はい。『朱』という字を正位置にして見ると、左側には『白』という字が、右手側には『青』という字が浮き上がっています」
「上には何が書いてあるんです?」
「残念ながらわかりません?」
「へ?どうことなんですか?四方に傷があったんじゃ…」
「ありました。しかし、上の傷だけは文字ではなく記号でした」
「見せてください」乃木は鏡花から紙を取ると、目を細めて見つめた。
「なんの記号に見えます?」
「俺にはギザギザに見えます。文字でいうと『糸』という字にどことなく似ているような…」
「乃木さん!今なんと?」
「え、ギザギザに見えるって」
「いえ、その後です」
「いや、『糸』っていう字に似てるなって」
「それです!確かに『糸』という字に似ています。ですが、これは『糸』ではありません」
「じゃあ、ギザギザ?」
「いえ、記号でもありません。もう一度、他の文字を見てください」
「右に『青』、下に『朱』、左に『白』…全部色ですね」
「はい。そして、この並びにも注目してください。もうお判りですよね?」
「ちょっと待ってください、もうちょっとヒントください」
「わかりました。では、方角に変えてみてください」
そのヒントで乃木は気付いたようだ。