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薄氷村殺人事件

ミーンミーンミーンミーンミーン

夏休みに入り、暑さがピークに達していた。

『ヘルプ』がいつも借りている教室を覗くと、鏡花は相変わらず推理小説に夢中になっている。乃木はというと、パソコンで何か作業をしている。

「なぁ、鏡花」

「どうかしました?」

「サイトに載せる写真あるのか?」乃木は『ヘルプ』のサイトを作っているようだ。その時、教室の扉をノックする音が聞こえた。

「空いてますよ。どうぞ」

「あ、鏡花さん、乃木さん、こんばんわ」

「小春さんじゃないですか。どうしたんですか?」

「さっきまでもう一つのサークルの方に行ってまして、そっちの用が済んだので来ました!」

「そう言えば、小春ちゃんのサークルって何のサークルなんだ?」

「ボランティアサークルです」

「へぇ、小春ちゃん偉いな」

「好きでやってるので。ところで、乃木さんは何やってるんです?」

「サイトを作ってるんだよ」

「サイト!?『ヘルプ』のですか?」

「うん、そうだよ。こいつが機械音痴だから俺が作ってるんだよ」

「見せて下さい」小春が無邪気に寄ってくる。

「あ!そうです」鏡花がふと思いついたように言った。

「ビックリした。なんだよ?」

「写真を撮りに行きましょう!」

「写真?」

「ええ、そうです。丁度、小春さんも来たところですし、今からサイトに載せる写真を撮りましょう!」

「どこで撮るんだ?」

「そうですね…小春さんどこかいい場所ありませんか?」

「え!?私ですか?」

「おい、鏡花、結局人任せかよ」

「だって、言ったはいいですけど思いつかなかったんですもん」

「お前にしては見切り発車だったな」

「私にだってそういう時もあります」

「だよな、良かったわ。本の虫かと思ってたぜ」

「乃木さん、鏡花さんを侮辱することは私が許しません!」

「小春ちゃんどうした?」

「鏡花さん親衛隊の高島小春です!鏡花さんは私が守ります!」

「いやいやいや、ほんといきなりどうした?鏡花親衛隊って何?それに、冗談だから。ちょっとからかっただけだって」

「それならいいですよ」

「鏡花、小春ちゃんすっかりお前の信者になってるぞ…」

「そのようですね」鏡花は笑み浮かべながら言う。

「まぁ、中庭とかでいいんじゃないか?」

「そうですね。行きましょうか」鏡花の一声で三人は中庭に移動した。

「そこのベンチなんかどうだ?」乃木が噴水前のベンチを提案する。

「いいんじゃないですか?鏡花さん真ん中で、私と乃木さんが両側っていう感じで撮りましょう」

「そうだな。誰かに頼んで撮ってもらうか」乃木が撮影を頼む人を探そうとした時、後ろから声がした。

「あれ?小春ちゃん?」振り返ると、眼鏡をかけた小春より少し背の高い女性が立っていた。

「あ、彩香ちゃん!こんなとこでどうしたの?」

「小春ちゃん、知り合い?」乃木が聞く。

「はい。紹介しますね。私のボランティアサークルの友達の棚菊彩香(たなぎくさやか)ちゃんです」

「どうも、棚菊と言います。小春ちゃんとは一年生の時からの友達です」

「そうだったんだ」

「小春ちゃんはここで何してるの?」

「もう一つのサークルの写真撮影だよ。あ、そうだ、彩香ちゃんに撮ってもらいましょう。彩香ちゃん、お願いできる?」

「え、うん。いいよ」

「鏡花さんも乃木さんもベンチにすわってください。じゃあ、彩香ちゃんお願いね」

「撮りますよ。ハイ、チーズ」

パシャ

「あの、これでいいですか?」

「うん。よくできてるよ、ありがとう」

「彩香ちゃん、ありがとう。また、サークルでね」

「あ、小春ちゃん!」

「ん?どうかした?」

「もう一つのサークルってことは、この前言ってた相談に乗ってくれるサークルだよね?」

「うん、そうだけど…彩香ちゃん何か相談でもあるの?」

「そ、その…」彩香が言いずらそうにしていると、すぐさま鏡花が食いついた。

「彩香さん、何か相談したいことがあるなら乗りますよ。なんでも、ご相談ください」

「え、あの…」

「あ、鏡花さん自己紹介してないですよ。私が代わりに紹介しますね。彩香ちゃん、こちら『ヘルプ』の部長であり、私の尊敬する橋爪鏡花さんです。そして、鏡花さんと同じ三年生の乃木亮太さんです」

「よろしくお願いしますね」

「よろしく」

「こ、こちらこそよろしくお願いします」

「それで、ご相談というのは?」

「鏡花、気になるのはわかるけど、ここは部屋に戻ってから話さないか?」

「あ、すみません。つい先走ってしまいました。案内します」彩香を連れ、部屋へ戻る。

「先ほどはすみませんでした」

「いえ、大丈夫です」

「では、さっそくですがご相談というのは?」

「はい。こんな相談してもいいのか迷ったんですけど、小春ちゃんが相談を聞いてくれるサークルに入ったと聞いたので、相談することに決めました」

「私たちは何でも相談に乗りますよ。解決までは保証できないかもしれませんが…」

「ありがとうございます。聞いていただけるだけ十分です。小春ちゃんは知ってると思うけど、私は北海道のある村の出身なんです。少し信じがたい話かもしれないのですが、私の村では十年に一度祭りをするんです」

「祭りねぇ。でも、それのどこが信じがたいことなんだ?」

「呪いなんです」

「呪い!?」

「彩香さん、それはどのような祭りなのですか?」

「はい。その祭りは雪嶺祭(せつれいまつり)という祭りなのですが、山で行われる祭りです。昔は冬にやっていたそうなのですが、数十年前からは夏に行われるようになったそうです。雪嶺祭とは、昔は雪山で行われることからそのような名前がついたのだと思います」

「その祭と呪いがどう関係するんだ?」

「私の村には昔からの言い伝えがあるんです」

「どのような言い伝えなのでしょうか?」

「しきたりを守らざる者には天罰がくだらむ、というものです」

「天罰…ですか?」

「はい。私は九歳の時に一度参加しました。その年の雪嶺祭ではある人が亡くなったんです」

「それが、呪いと関係しているんですか?」

「はい。私の親や祖母はそう言っています」

「言い伝えに出てきたしきたりとは?」

「許可なき者は参加できないというものです。私の村の人ではない人が雪嶺祭に参加するには、その前に儀式を受けてもらう必要があるんです。しかし、前回の雪嶺祭では面白半分で無許可で参加した人が居たんです。亡くなられた方はその方です」

「そうだったんですか…」

「十九歳の今年、私は村に戻って雪嶺祭に参加しなければならないんです…でも、怖くて。また何か起きるんじゃないかって不安で」

「彩香さんの村というのは…?」

「はい。薄氷村(はくひょうむら)です」






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