夢の謎
鏡花は最近ある夢に悩まされていた。内容は次のようだ。
鏡花は一人称視点で進んで行く。ゲームのダンジョンみたいなところにいつもいる。敵が出てきて謎を出してくるらしい。その謎を解くと先に進めるという、よくあるものだ。しかし、なぜ鏡花はこんな夢をみるのかわからない。推理小説はよく読むがゲームはあまりしない。しかも、謎解きに失敗すると夢から覚めるらしい。
乃木はそのことで鏡花から相談を受けていた。
「乃木さん、何なのでしょうか?」
「わからない。そんな特殊な夢は見た事がない」
「ですよね…何十問も出題されるんです、単純な知識問題から謎解きまで、いろいろなものが出されるんです。毎日、二、三回は起きてしまうんですよ!」
「え?ていうか、何十問も出されて二、三問しか間違えないの?」
「はい。そこまで難しくないので」
鏡花の難しくないは当てにならない。鏡花が難しくないというものは、乃木にとっては皆目見当もつかないものが多い。
「それで、その夢をここ最近毎日みるってことか?」
「はい、そうなんです」
「よし、推理小説を読むのやめろ」
「ええ!?何でですか?」
「謎とかばっかり考えてるから夢にも出てくるんだ」
「そんな、私から推理を取ったら何が残るんですか?」
「何も残らん」
「それもひどいですー」
「流石にそれは冗談だ。だけど、一回頭を休めたらどうだ?何か変わるかもしれないぞ」
「わかりました。では、乃木さん、今私が読んでいる小説を預かってください。持ってると読みたくなってしまうので」
「わかった。何か変化があったら連絡してくれ」
「はい」
時刻は0時を回り、乃木も寝ようとした時、携帯にメッセージの文字が表示された。
鏡花『乃木さん』
『どうした?夢に変化でもあったか?』
『小説が、小説が読みたいです。私の小説を返してくださいー』
『禁断症状かよ!落ち着け、早く寝るんだ。寝てしまえば朝になってるはずだ』
『寝られませんー。小説が私を襲ってくるんです』
「中毒だな、こいつ」
『鏡花、こうしてても埒があかない。羊でも数えろ』
『そんなぁ、羊なんて数えても眠れませんよー。羊が一匹、羊が二匹……』
「いや、数えてんじゃねーか…あれ、もしかして寝た?」
『おい、鏡花?寝たか?』
それ以降、返信が来ることはなかった。
乃木もいつの間にか眠っていて、目が覚めると朝だった。
ピロリロリン
鏡花『乃木さん、昨日は途中で寝てしまいました。そういえば、謎解きの夢見ませんでした!』
『よかったじゃん。やっぱ、推理小説の読みすぎだったんだな。あとで、小説返すよ』
『ありがとうございます。これからは程々にしますね』
いつもの部屋へ行くと、鏡花だけでなく小春もいた。
「乃木さん、聞きましたよ。鏡花さんを夢から解放したんですってね?」
「なんだ、解放って?俺はただ、鏡花から推理小説を離しただけだぞ。そうだ、返すよ小説」
「あー、愛しの推理小説ちゃん、おかえりなさい」鏡花は小説に顔を擦り付けている。
「命名しよう、こいつは推理オタク症候群だ」
「なんですかその名前?」
「お前は推理がないと生きていけないんだ、ある種病気だな」乃木は頷きながら言う。
「ひどいです、乃木さん。鏡花さんはちょっと変人ですけど病気なんかじゃありません」
「小春ちゃん、フォローになってないよ…」
「小春さん、ありがとうございます!」鏡花は理解していない。
「え?意味わかってる?地味にディスられてるんだよ」
「そうなんですか?」
「だめだこの人…」
「今の私は夢から解放されたので、また推理小説を読めますね」
「おい、フラグ立てるなよ。流石に二の舞を演じないよな…?」
「大丈夫です。程々にすれば問題ありません」
お察しの通り、鏡花はまた夢の謎に囚われるのでした。




