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橘家のその後

俺と鏡花は橘家から招待を受け、再びあの豪邸を訪れた。

「鏡花ちゃん、乃木さんお久しぶりね」公子が嬉しそうに言う。

「母さん、お久しぶりっていうほど経ってないだろ」

「あら、そうだったかしら?とにかく、また来てくれて嬉しいわ」

「私もです」

広間に行くと秀樹がコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。

「お、来たね」

「はい。お邪魔します、秀樹さん」

「来てすぐに事件の話というのもなんだ、公子、何か飲み物でも用意してやってくれ」

「わかったわ。ちょっと待っててね」

「サークルの活動の方はどうなんだね?」

「はい!乃木さんともう一人入部してくれました」

「あれ、乃木くんはもうメンバーなんだとばかり思ってたんだが」

「いえ、実はあの時はまだ入っていなかったんですよ」

「そうだったのか。いや、それは勘違いしていたな」

「二人ともどうぞ。レモンティーよ」

「いただきます」

レモンの香りが鼻に抜ける感じがした。

「とても美味しいです。普通のレモンティーとは違いますね」

「ええ、実はこれ孝子さんのレシピなのよ」

「そうなんですか…孝子さんの様子はどうですか?」

「全て話しているらしいよ。面会に行った時も、少しやつれてはいたがいつもの孝子さんだった。それと、また鏡花ちゃんとお話がしたいって言ってたよ」

「そうですか、今度私も面会に行ってみます」

「それにしても、まだそんなに経っていないのに懐かしい感じがするな」

「どうしたんだよ、朝日」

「この事件の始まりも脅迫状から始まっただろ?それが殺人事件にまで発展するなんて思ってもみなかったし、おまえ達がこの家に侵入するって言った時、俺はヒヤヒヤしてたんだぜ」

「でも、おまえが仕掛けたポストのトリックは見事だったな」

「だろ?誰も気付かないんだもんな」

「私の憶測ですが、朝日さんが仕掛けた鏡のトリックについては孝子さんは気付いていたと思います。私たちの存在にも」

「え、どういうことだよ?俺たちはポストから何も取らずに帰って行く孝子さんの姿を見たじゃないか」

「ええ、敢えて気付いていないふりをしていたんだと思いますよ」

「なんでそんなことをする必要があるんだ?」

「それはわかりません。ですが、孝子さんは用心深い人ですから」

「そういえば、庭の文書はどうなったんですか?」乃木が質問する。

「あれは私が燃やしたよ。あんな物は過去の遺産でしかない。本堂家は本堂家だが、孝子さんは孝子さんだ。あっても、災いの元になるだけだからね。孝子さんが刑務所から出てきたら、今度こそは本当の使用人として雇うつもりだよ」

「私もそれを聞けて嬉しいです。ところで菊池さんの姿がありませんが?」

「ああ、彼なら使用人を辞めたよ」

「え?なんでですか?」

「小説家として芽が出たんだ。次はこの事件を小説にするって言ってたよ。鏡花さんを探偵にしてね」

「そうなんですか。よかったです。絶対読みます」

「いや、鏡花は答えを知ってるだろ。自分が解決したんだから」

「小説で読むのとはまた違うんです」

その後も事件の話や秀樹さんの仕事の話などで盛り上がった。

「では、今日はこれくらいで失礼したいと思います」

「私たちはいつでも歓迎するからね。あなた達は家族みたいなものなんだから」

「公子さん…私、とても嬉しいです」

橘家を後にした。

「乃木さん、私はこれから孝子さんの面会に行こうと思うのですが、行きます?」

「いや、孝子さんも鏡花と一対一の方が話しやすいこともあるだろうから、遠慮しておくよ。よろしく伝えといてくれ」

「わかりました。では、今日はこれで解散ということにしましょう。また明日です」

「うん。また明日な」

鏡花は 乃木と別れ、刑務所へ向かった。面会時間は十分だと告げられると、孝子がやって来た。

「鏡花ちゃん!?」

「孝子さん、元気そうで何よりです」

「鏡花ちゃんが来てくれたから元気になったのよ」

「いえ、そんな。少しやつれたようにも見えますが、お体の方は大丈夫ですか?」

「美味しいものが食べられないからかしらね?」

「私も孝子さんのお料理が食べられなくて元気が出ないですよ」

「あら、お上手ね。ここを出たら美味しいご飯作ってあげるわ」

「楽しみにしていますね」

こうして孝子との面会は終わった。

あの事件は凄惨なものであったが、事件のおかげで絆が深まったようにも思えた。







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