始まりの事件
「はぁ、今日も暇だなー」
私は至って普通の……嘘です。ごめんなさい。私は橋爪鏡花と言います。ちょっと変わった趣味を持つ大学生です。推理オタクなのです。しかし、現実というのは普通そのもので、今日も私の携帯は閑古鳥が鳴いています。大学では『ヘルプ』という名前で、個人的なサークルとして活動しています。
【困ったことがあればなんでも相談あれ】なんていうキャッチフレーズでメールアドレスも載せたのに、メールが来たことなんて一度もないです。こんなことしてるから私は友達も少ないです。かと言って、周りに合わせて面白くもないのに笑うなんてできない性格なんです。
「あー、なんか面白い事件でも起きてよー」
ピロリン
「え、メール?嘘!?」新着メールが1件来ている。知らないアドレスからで、件名には「掲示板見ました」と、書かれていた。
「え、どうしよ…」初めて来たメールに嬉しい反面、どう返せばいいかなどに迷っていた。恐る恐るメールを開くと、
『こんにちわ。法学部3年の乃木といいます。ご相談したくてメールしました。もし、聞いてくれるのでしたら返信下さい』とあった。
「あわわわ、本当に依頼だったよ。でも、やっと来た依頼だし話だけでも聞いてみよ」返信ボタンを押し文を打ち始める。
『メールありがとうございます。どのようなご依頼でしょうか?』
「送信、と。あぁ、送っちゃったよ」ドキドキしながら返信を待つ。するとすぐに返信が来た。
『実は俺自身のことじゃなくて友達に頼まれたことなんですけど、俺だけじゃわからなくて困ってたんです
。見せたいものがあるので会えませんか?』
「冷やかしじゃないよね…?」一縷の不安もあったが返信した。
『分かりました。北校舎の4階の403教室に居ます。』
『分かりました。授業が終わり次第行きます』
「はぁ、緊張するなぁ。人と喋るのも慣れてないし、まして男性なんて…私と同い年だし」
30分ほどが経って、ドアをノックする音が聞こえた。
「あ、あ、はい。空いてます、どうぞ…」
ガチャ、という音がし。背の高い、スラっとした男性が入って来た。
「あ、どうも。橋爪さんですか?」
「はい、そうです。乃木さんですよね?」
「はい。いきなりすみません」
「いえ、大丈夫です。それで、みて欲しいものというのは何でしょう?」
「そうでしたね。これです」と、乃木はある一枚の紙を取り出した。
「これは?何も書かれていませんが」
「そうなんです。何も書いていないんです」
「へ?乃木さんは私に何を聞きたかったんですか?」
「それなんです。俺の友達からこれを渡されて助けてくれって言われたんですけど、俺には何がわからないのかもわからないんです」
「この紙はいつ渡されたんですか?」
「昨日です。それで一晩考えたんですけど見当もつかなくて。ただ、よく見るとこの紙の端に少し傷が有るんですよ。多分、関係ないと思うんですけど」
「なるほど、それで私に。でもなんで私に?」
「いや、俺結構友達少なくて、相談できる人とかあんまいないところに掲示板をたまたま見たんですよ」
同じかも…直感的に同類と感じたがそれ以上は追求しない。
「えっと、ちょっと見せてもらっていいですか?」
その紙は少し折れているが本当に何も書いていない。
「うーん、そのお友達にも聞いて見る必要がありそうですね。電話できたりしますか?」
「いや、今は無理だと思います」
「どうしてわかるんですか?」
「俺がこの紙を渡されたのは、あいつにその時間がないからなんですよ」
「と、いうと?」
「この紙を渡してきた俺の友達は、資産家の息子なんですよ。誰にも言うなって言われたんですけど、協力してもらう以上言うしかないと思うので言います。突拍子もないことなんですけど、あいつの家に脅迫状が届いたらしいんです。これを見てもらっていいですか?」そう言って、乃木は自分の携帯を見せてきた。
「このメールは…」
「今言った俺の友達からのメールです」
そこには、彼の身に何が起こっているのか克明に書かれていた。