多佳子と岩井
この物語は創作です。モデルはありません。
佳澄と岩井と多佳子は同じ中学出身って事で、なんとなく3人でつるんでいた。
岩井は去年バスケ部にいたが、医学部を目指すならそろそろ受験に専念するよう親にキツく言われたとかで、3人はいわゆる帰宅部だった。
そうこうしてるうちに修学旅行のメンバー決めがあったり、帰り道が近かったりとなんだかんだと、もう1人のしっとり美人の優香と、2人の秀才君が加わり、佳澄、多佳子一派の帰宅組は6人になり、それこそいつも一緒にいるようになった。
最初、岩井は誰が見ても佳澄に夢中だったし、誰といても佳澄しか見え無いようだった。しかし佳澄には突っかかる岩井は、他の誰にも紳士で、背も高いしイケメンだったので、密かに岩井を慕う女子は多かった。
かく言う多佳子もその1人で、岩井はいつも多佳子にも優香にも親切であり、佳澄がいなくても2人で購買部にみんなの分のパンを買いに行ったり、誰もやりたがらない学級委員を推薦でやらされたりした。
岩井は嵩張るプリントも持ってくれたし、物理の苦手な多佳子に分かりやすいノートも貸してくれたし、委員会で少し遅くなると必ず多佳子の乗るバス停まで一緒に来てくれたし、傍目から見ると、これまたカップルに見えた。
多佳子は小さい頃から、大人からのアイドル扱いに慣れていたので、自分の周りの人間は自分のものなのだと思う癖が付いており、そのうち、岩井も自分に夢中なのだと思うようになった。
だからグループのみんなに、岩井と多佳子が凸凹カップル-多佳子は背が低いので-とからかわれても、同じ中学の仲間から、岩井が佳澄から多佳子に乗り換えた、いや、多佳子は岩井目当てに佳澄に近づいたのだと蔭口を叩かれても全く平気だった。
その手の話題が自分にもやって来たと、毎日が、気持ち良かった。
入学当時、学年1秀才の姉の妹の多佳子の入学で、校内新聞に載ったものの、自分の成績は鳴かず飛ばず。容姿も普通だったし背も低い。どちらかと言えば大人が喜ぶようないい子ちゃんではあるが、大人しくて目立たないイメージがあった。
佳澄と友達になっただけで、自分にまで他人の注目が集まるなんて。
今までは、中学時代のSSTや依子や岩井や佳澄のような目立つ子達を見てる側の人間が、見られる側の人間になれたのだ‼️
そんな時、久しぶりに多佳子、岩井、佳澄と3人で帰った事があった。多佳子は今やすっかり岩井の彼女気取りで、素早く岩井の隣を歩く。
校庭を通ると、サッカー部がおり、例の田中が、わざとだろう、こちらにボールを強く蹴って来た。すると、岩井は素早くボールを受け止め、バスケットボールをシュートするように田中に投げ返した。佳澄など田中の事など全く無視だ。
多佳子はその時、はっきりと分かった。岩井の事が好きだったので余計に分かった。
昔、田中と岩井が佳澄を取り合っていたと言う噂はあながち嘘ではあるまい。
岩井は田中からのボールを佳澄を守るように受け、田中は又、今やいつも佳澄と一緒にいる岩井が面白く無くてボールを蹴って来たのだろう。
あんた達全員、精神レベル、中坊のガキだね?
内心毒づきながら、多佳子は佳澄に腹が立って仕方なかった。何だよ、この知らんぷり女は?岩井も田中も自分のものだってか?相手にもして無いってか?
はっきりさせてやれよ。
多佳子は岩井を自分のものにしないと気が済まなくなって来た。絶対に岩井に好きだって告らせてやる‼️本当の恋人同士になってやる。
多佳子は固く決心した。お前がその態度なら全面戦争だ!
岩井の本心が掴めなくてイライラする多佳子。佳澄は何考えてる?