多佳子再び....最終回
この物語は創作です。モデルはありません。
依子『で、佳澄は、再婚するって言ってる訳?』
多佳子は依子の経営する美容室で髪を染めて、セットしてもらいながら、ゆっくりとハーブティーの香りを吸い込む。
依子は田中と結婚した後、依子の実家に入り、依子の母親が細々やっていたパーマ屋を、依子の代であっという間に有名美容室に変身させた。
依子が一度、ファッション雑誌に、町で見かけた美人さんと言うコーナーに載ったのがきっかけで、あれよあれよと客が押し寄せ、今は人を使う側になり、田中とも仲良く暮らしている。
岩井は海外への長期出張が多く、今はジャカルタにいる。多分戻って来てそのまま海外輸出部を任される責任者の立場になるのだろう。
多佳子と岩井の息子はその後もびっくりするほどの秀才にはならなかったが、地元のお坊ちゃん大学に入り、人当たりが良いので、そのうち誰かのコネで、百貨店にでも就職させるつもりだ。
下の娘は多佳子のでミニチュア版に育ち、母校のでT1高で真面目に勉強している。この子の事も全く心配していない。
そして佳澄は....
佳澄の旦那が過労で亡くなったのは2年前。これまた海外出張の帰りだったらしい。
しかし労災扱いにもなり、しかも、佳澄が友人に頼まれて生命保険を少し多めに書き換えたばかりだった。
遺族年金も入るし、今後も生活には困らない筈だ。
そして佳澄は意外な事に、ちょうど腰痛と戦っていた事もあり、それを機に引きこもりみたいな生活をするようになった。
今は1人娘はOLで働いて、ローンなどとっくに払い終わったあの家で2人と愛犬で実に優雅に暮らしているようだ。
どこまでも運のいいやつ....多佳子は自分の幸せなど棚の上に放り投げて密かに呪った。
そんな時、佳澄から近況を聞いて多佳子はまた血が下がるような気がした。
佳澄の愛犬のかかりつけの獣医院で、いつも偶然に会う人がいる。佳澄の飼っている愛犬が、その人が昔飼っていた同じ犬種で懐かしくて声を掛けられたらしい。
そんなのが何回が続いて、話すようになったら、お互い連れ合いを亡くしている事がわかり、結婚を前提にお付き合いを申し込まれたと言う。小さな会社の経営者だそうだ。
多『で、どうすんの?その人と再婚する訳?』
心無しか多佳子は、佳澄にその人の話を聞かされてから、まるで自分が再婚するかのような期待感で日々を送っていた。
佳『え?冗談でしょ?何でやっと自由になれたのに、また結婚よ?これから1人で遊びまくる人生が待ってるってのに?』
佳澄は信じられないって顔をしてゲタゲタ笑った。
多『だって、その人は佳澄にぞっこんなんでしょ?その人の気持ちどうするのよ?』
多佳子は高校時代、岩井の事で佳澄を問い詰めた事を昨日のように思い出した。
あの時も、こいつは岩井が勝手に好きなのだ、自分には関係無いのだ的な答えだった。
佳『そんなの口先で言ってるだけだって。男の人なんか直ぐに別な好きな人、現れるじゃない?』
多佳子はもしかしたら、佳澄が岩井の事を暗に言っていたのかも?と思った。
高校時代、佳澄は岩井に興味無かったろうが、多佳子があんなに岩井に夢中にならなかったら、岩井といつも一緒にいて自然の流れで恋人になったのかも知れない....そしたら今頃は.....
また負の妄想が頭をもたげたので、多佳子は心にシャッターを下ろした。
岩井と結婚して幸せになったのはこの私なのだ。佳澄はお金も家もあるだろうが今はただの寡婦なのだ。
世の中から見て比べたら私の方が幸せに決まっている。絶対そうだ。
多佳子は依子がお代わりを注いでくれたハーブティーを飲みながら優雅に注文した。
『ネイルもやって頂こうかな?今からでも大丈夫かしら?』
花瓶に活けてある菖蒲の花が鮮やかに綺麗だ。もう来週から夏だなぁ。
それぞれの生活基盤が出来上がっ多佳子の昔の女友達。みんな頑張れ!先は長いよ!




