佳澄の就職
この物語は創作です。モデルはありません。
佳澄は去年亡くなった母親のお金を少し纏まって貰ったとの事だ。
持っていたらどうせすぐに使ってしまうし、それなら家建てちゃうか!って事になり、旦那の実家にも協力してもらい一気に話が進んだらしい。
多佳子や佳澄の住んでいる地域は地方都市で大企業が作り上げた町で、比較的生活基準も安定しているようなところだ。
何しろ転勤族も多く、定年近くになって地元に戻って家を建てるか、東京にマンションを買うか、それぞれの事情に合わせていろんなパターンがあった。
が....
30歳前にマイホーム、しかも建売でも無く、ブランドメーカーで一軒家を建てる人は、勿論いる事はいるが、かなりの少数派に違い無かった。
しかも場所も国道の裏側にあたり、昔は結構田舎だった空き地に大手ハンバーガーショップが目を付けドライブスルーを作った。
すると、牛丼屋、ファミリーレストラン、本屋、車屋などが急に出来始め、佳澄達が住み始めると一気にあれよあれよと賑やかな場所に面変わりした。
しかも、国道からちょっと入った場所には整形外科、薬局、眼科、歯医者まで建ち始め、田舎なりのセレブ街に変身していった。
佳澄は、マイホームをさっさと手に入れた事が最初は自慢ではあったろうが、娘が幼稚園を卒園する頃には、もう意識は別な所に飛んでいた。
得意の英語を生かして、小さな商社に就職したのだ。雑用も営業も何もかもやるようだから結構キツイんだよね?とか言いながら、生き生きと働いている。
実力が付いたら、海外の買い付けもやらせて貰えるかもなんだ!と言って、必死に語学勉強をしている。
1人娘にも、佳澄らしいミーハーぶりで英会話だ、お習字だ、公文だとやらせているが、多佳子の見た限り、娘を溺愛はしているが、まずは自分が外で輝いていたいタイプに思える。
これからもずっと働いて好きな事やりたいから、子供は1人でいいや!とサバサバしている。
多佳子は、自分があんなに必死にエリート社宅に入ろうと努力していた事がバカバカしくなった。
多佳子は確かに、その辺のご近所さんや昔の知り合いから、
『多佳子さん、あのマンションの社宅なんだ?ご主人もイケメンで素敵だし、お子さんも男の子と女の子で理想のご家族ね?』
と、言うような賞賛を良くされる。自分でもそう思っているし、そう努力して来た。
しかし....
たいして手入れをしていない庭にザクザクと薔薇だけ植え、長い髪を振り乱しながら娘のお稽古のお迎えに行き、朝はパンを車の中で食べると言う、安っぽ〜いスーツをすらりと着こなして働きまくってる佳澄に、多佳子はどうしても勝った気がしなかった。
いや、むしろ逆だった。何だろ、この置いてケボリの感覚は?何だろこの正体不明の羨ましさは?
多佳子は人から見て幸せな家庭を築く事に必死、佳澄は自分がやりたい事をやるのに必死。
その差なのだ、幸せだと思えるのはいつも自分次第なのだと、達観出来るには、多佳子はまだ若過ぎた。
さっさと次のステップに進んだ佳澄が羨ましい多佳子。あなただって十分幸せだよ?