答え
いきなり核心を突いてきて、クロニカは、動揺した。ジュリウスにとって、何気ない会話の一つなのかもしれないが、クロニカにとっては卒業式の感動が吹っ飛ぶくらいの本題だ。
「えーと、その~……」
「騎士団には入らなかったのか?」
「は、入らなかった」
「だったら、王女専用の侍女になるとか? たしか、応募していたけど」
たしかに、そんなのがあった。友達にも勧められたが、クロニカは首を横に振った。
「それも違う。第一、オレじゃ侍女は無理だろ」
身分は問題ないが、問題なのは淑女ではないということだ。王女専用の侍女は教養が高い者が就ける職業であって、淑女として問題があるクロニカが就ける職業ではない。
「それもそうか」
あっさり納得され、クロニカは少し複雑な気持ちになる。
「なら、どこなんだ? まさか、本格的に庭師のあの人に弟子入りするとか?」
「元から師弟のようなもんだったしなぁ。それもない」
庭師のじいやは喜ぶだろうが、いくら前と比べて寛容になったとはいえ、父が許すはずがない。
「だったら、なに?」
「それは、その……」
言い淀むクロニカに、ジュリウスが怪訝な顔をする。
「言えない進路?」
「それは違う、けど」
むしろ言わなくてはいけない進路だ。だが、言うのがとても難しい。
「別に、今言わなくてもいいから」
「い、いや! 今言わせてくれ!」
ジュリウスは気遣ってくれたが、今言わないといけない、という義務感でいっぱいのクロニカが、制する。
ジュリウスは必死な形相のクロニカを不思議に思いながらも、待つことにした。
「えーと、あの、な」
「うん」
心臓がばくばくと波打っている。気が遠くなりそうになるが、なんとか持ちこたえ、心を落ち着かせようとする。だが、心臓が鳴り止む様子が一向にみえない。
静まれ、静まれ、と念じても静まらない。
(こうなったら……っ!)
こうなったら、勢いで言うしかない。
「おっお!」
「お?」
クロニカは俯きながら、声を張り上げて告げた。
「おっ……お前のところに、永久就職することにしたから、よろしく!!」
その瞬間、静寂が流れた。
一向に返事がなくて、クロニカはおそるおそる顔を上げて、ジュリウスを見る。
ジュリウスが固まっている。驚愕した表情を浮かべながら、固まっている。
あまりにも珍しい姿に、緊張を忘れ、その姿をまじまじと眺めた。
どれだけ時間が流れたのだろうか。
突然、ジュリウスがクロニカの頭を、わしゃわしゃを掻き混ぜた。力を加減していないのか、毛根が千切れそうなほど痛く、クロニカは悲鳴を上げた。
「いったたたたあぁぁっ!! ちょ、ジュリウス、やめろって!! 毛がなくなる!!」
ぴたっと手が止まる。ジュリウスにしては、不可解すぎる行動だ。
クロニカは涙目になりながら、ジュリウスを見上げようとするが、頭に乗せている両手が、そうさせてくれない。見上げようとするのなら、両手に押し込まれる。
「ジュ、ジュリウス、頭いてぇから離してくれないか?」
ジュリウスは黙ったままだ。
もう、無理矢理でも抜けようか、と思っていると片手が後頭部に回ってきた。
そして、そのまま引き寄せられて、ジュリウスの胸に頭を寄せる形になった。
抱き寄せられた。そう理解するのに、また時間が掛かり、理解するとのぼせたように頭が熱くなった。
落ち着いていた心臓が、再び高く鳴り出して、クロニカは上擦った声色でジュリウスに話しかける。
「ジュ、ジュ、ジュリウス」
「うるさい、黙って」
冷淡に吐き捨てられ、クロニカはむっとなる。
返事したのに、なんだよ、その態度。
言い返そうと口を開きかけたが、ジュリウスの胸から鳴り響く音を聞いて、止めた。
どくどく、いっている。どう考えても、通常の心臓の音ではない。
「ジュリウス……実は照れている?」
「……うるさい」
否定はしないことに、クロニカはぷっと噴き出した。
照れるときは照れているが、こんなすごく照れているのは初めてで。
可愛いところあるな、と思いながら、クロニカはジュリウスの服をぎゅっと握り締めた。




