表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美しきモノ  作者: 空廼紡
空の向こう
44/63

激突①

 無言が続く。クロニカはジュリウスの後ろをついたまま、隣には行かず、ジュリウスもクロニカの歩幅に合わせて歩いてくれるものの、振り向かない。


 話しかけず、話しかけられず、森を出て、屋敷のほうへ向かう。

 いつもの心地良い静寂とは言い難いが、気まずくはなかった。



「ここまででいいよ。ありがとうな」



 屋敷の屋根が見えた辺りで、ジュリウスに話しかける。



「屋敷の前まで送るよ」

「いいよ。お爺様に見つかったら、面倒だし」

「家に帰るまでが遠足と一緒で、送るのも屋敷に着くまでだ」

「そもそも、面倒になったのはお前のせいだろうが」



 ジュリウスがクロニカに求婚している、と言わなければ多分、祖父は普通に受け入れていたと思う。



「どっちにしたって、孫娘に近付く男は気に入らないと思うけど」

「そうか?」

「あの様子だと、確実に」



 そう言いながら、ジュリウスは小さく笑う。その笑みに、喜色が見えて、クロニカは首を傾げた。そういえば、この前も祖父の激高を見たときも、こんな顔をしていたような気がする。



「なんで、お前が嬉しそうなんだよ?」

「そんな顔をしている?」

「している」

「まあ、たしかに嬉しいけど」

「お爺様に威嚇されて?」



 クロニカは怪訝に首を捻らせた。

 おかしい。ジュリウスはサディストであって、マゾではない。威嚇されて嬉しいなど、ありえない。



「なんか失礼なこと、考えているだろ」

「べ、別に」

「視線が泳いでいるんだけど」



 ジト目でクロニカを見据え、ジュリウスは小さく息を吐き捨てた。



「言っておくけど、嬉しいのは、クロニカが大事にされていることを知ったからであって、あのおじいさんに威嚇されていることじゃないからな」

「あ、うん」



 なんだか照れ臭い台詞を言われ、クロニカはたじろぐ。



「でも、そうだな。頭に血を上らせるのもあれだから、ここまでにしておくよ」

「ああ。今日は付き合ってくれて、ありがとうな」

「どういたしまして。一回行ったからって、一人で森に行くなよ?」

「分かっているって。お前、心配性だな」



 何度も言われている言葉に、怒りを通り越して苦笑してしまう。



「それじゃ、また」

「ああ。気を付けて帰れよ」



 手を振りながら、ジュリウスを見送る。その姿が見えなくなり、踵を返し、屋敷の方へ歩いて行く。


 門まで見えてきた。と、門の前に馬車が一台留まっているのが見えて、クロニカは首を傾げる。



「どこの馬車だ……?」



 見たことがあるような気がするが、よく見えない。とりあえず近付いてみることにした。


 馬車が見える位置まで来て、クロニカはぴたっと立ち止まる。


 息が止まった。それくらいに、狼狽した。


 その馬車に施されている家紋。見間違えるはずがない。マカニア家の家紋を見違えるはずがない。


 ここだって、マカニア邸だ。だが、この馬車には見覚えがある。


 この馬車は、父専用の馬車だ。一度も乗ったことがないが、見たことがある。

 と、いうことは。



(なんで、父上がここに来ているんだよっ!?)



 父はここに帰りたくないはずだ。伯父との思い出があるうえ、祖父母がいるこの屋敷に、はたして何の用なのか。数十年帰らなかったというのに。


 混乱していると、門番がクロニカに駆け寄ってきた。慌ただしい様子に、クロニカは身を固くさせた。



「お嬢様、大変です!」

「あ、ああ、大変なのは分かった。父上の馬車あるし」



 あの父上が帰ってきたのだ。大変ではないはずがない。

 門番は、門をちらちらと見ながら、声を潜めて告げる。



「旦那様が帰ってきたのも大変ですが、旦那様はお嬢様を連れて帰るつもりでいらしたらしく、お嬢様を出せと大旦那様とさっきから言い争っているようで」

「マジで!?」



 クロニカはぎょっと目を剥いた。

 あの父が、どうしてクロニカを連れ戻しに。

 ふと、ジュリウスの言葉が蘇る。



『お前の父親が、お前の結婚相手を本格的に探している』



 混乱していた頭が、すぅっと冷えた。


 ああ、そうか。なるほど。その結婚相手とやらが見つかったのか。だから、迎えに来たのか。



(そうだな、うん。父上がオレを迎えに来る理由って、それくらいだよな)



 期待していたわけではないのに、なんだか寂しい。

 深く嘆息して、クロニカは軽く笑んだ。



「分かった。様子を見に行く」

「お嬢様……」



 痛ましい顔をする門番に何も言わず、クロニカは玄関に向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ