クロニカからの手紙
親愛なるジュリウスへ。
なんて、書いてはみるけど、お前に対して改まった文章を書くのは落ち着かないし、お前も気持ち悪がるだろうから、普通に書くな。
無事にお爺様たちの屋敷に着いたよ。王都の屋敷ほどでもないけど、けっこうでかかった。
着いてすぐ、お婆様が出迎えてくれて、そのまま庭に案内されて、お爺様とお婆様とお茶したんだ。
二人とも、とても良い人だよ。なんか色々と不安だらけだったのが、申し訳ないくらいに可愛がってもらっている。
男装も、二人口揃って「思っていた以上に決まっていてビックリした」ってだけ言って、受け入れてくれたよ。女中たちにも何故か好評。
会えなかった分、お互いのことを話して、だいぶ会話が弾んだ。生まれたときから全く会ってなかったと忘れるくらい、話し込んじゃったよ。
庭がな、すごく良かった! ずっと前、リリカに貸してもらった田舎風景の絵がいっぱい載っている本に描いてあった、絵みたいな風景が広がっていたんだ!
庭に小川まで流れていて、鴨とか鶏もいたんだ。池には鯉もいたんだぜ! 動物の世話って大変そうだけど、癒やされるよな。
演出も細かくて、石で出来た塀とか、木で出来た小さくて少しボロい扉もあって、そこら辺に生えている野花とか雑草が道を作っているんだ。花迷路も楽しいけど、これはこれで別のワクワクがあって、少し冒険気分。
お爺様とお婆様、甘い物が好きみたいで、この手紙を書いている翌日にチョコランタンを作ることになったんだ。
ちなみにチョコランタンは、お爺様のリクエスト。お婆様はチーズタルトをリクエストした。お婆様のチーズタルトは、明後日作るんだ。
両方とも作ったことがあるけど、一回だけなんだよな。フルーツ使わないお菓子作るの久しぶり。
そういえばチョコランタンを初めて作ったとき、ちょっと焦げちゃったけど、お前何も言わず完食してくれたな。今度は焦げないように気を付けるよ。
お爺様、三年前の地震のとき、倒れた本棚に左足を潰されて、それが原因で左足が麻痺したらしい。それを知らなかったことにショックを受けたよ。今まで、お爺様とお婆様に会いたいとも知ろうとも思わなかった自分が、腹立たしいしかった。
これから、二人のことを知りたいなって思う。庭へ行く時はお爺様は一緒じゃなかったけど、帰りは一緒に帰っていっぱい喋った。。とても嬉しそうだった。
足が悪かったら、無理して庭の奥に行かなくてもいいのに、とは思ったけど、どうしても、庭でお茶をしたかったから、先に庭に向かったんだって、後で聞いた。
お爺様、父上とよく似た顔をしているから、こう、格差がすごい。よく笑うし、表情がけっこう変わる。だから、余計に違和感がある。すぐ慣れればいいなと思う。
父上もああ笑えば印象変わるとは思うけど、それはそれで気味が悪いし、父上が笑うのは母上の前だけだったし。まあ、別にどうこういってもしょうがないけど。
とりあえず、ここはとても居心地が良いよ。時間がゆっくりと流れている感じがして、なんかまったりできる。
肝心のクレス伯父上のことだけど、あまり聞けなかった。クレス伯父上も、この庭を気に入っていたとは聞いたけど、まだ少し時間が掛かりそう。なんか、タブーのような気もして。
機会があったら、訊いてみる。
今は、二人と過ごす時間を楽しみたいと思う。
だから、あまり心配しないでくれ。また手紙送るな。
クロニカより
追伸:お土産なにが良い?




