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美しきモノ  作者: 空廼紡
空の向こう
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気が付けば

 リリカの言葉が頭の中を、ぐるぐると回っている間に、下校時間が過ぎていた。


 クロニカは重い腰を上げ、学園の門を出る。門と塀は加工された白い石(高価なものらしいが名前は知らない)で出来ており、城壁と匹敵するほど高い。門以外のところから、外部の者が侵入出来ないようにしているらしい。建立された当初はこれほど高くなかったが、侵入者が生徒を誘拐したことが切っ掛けで、城壁ほどの高さまでなったという。


 初めてこの門を見た時は、威圧感があって少しだけ怖かったのを、よく覚えている。監獄みたいだとも思っていた。だが今は、この門を潜る機会が日に日になくなっていくことを感じ感慨深いと同時に寂しくなるほどには、愛着が湧いている。


 この王都は、平民街と貴族街で隔たれており、その間には学園同様とてつもなく高い城壁で区切られている。貴族街は貴族の家だけではなく、高級店もあり、一つの街のようだ。


 この貴族街と平民街を唯一結ぶ門の門番がヘマをしない限り、貴族街に庶民が侵入することはない。貴族が住んでいるため、警備も厳しいので馬車ではなく、徒歩で自宅に帰る生徒も多い。徒歩で帰るのか下級貴族に多いが、クロニカも徒歩で帰る。


 馬車で帰るな、と父に言われてはいない。しかし、なんとなく憚れる。母が亡くなってからは、早く家に帰りたくない気持ちも出てきて、ゆっくりと帰るようになった。 

 門を出てからも、クロニカは考えていた。


(父上がオレを嫌う、ちゃんとした理由……)


 頭の中で何回も繰り返して呟いてみたが、一文字も答えが出てこない。ただ、結論は出た。リリカの言うとおり、けっこう理不尽だということだ。

 だが。


(知って、どうするんだよ……)


 知ったところで、愛されないことに変わりない。自分にはどうすることもできない。期待なんか出来ない。

 それに、勝手に探りを入れられていることに気が付かれていたら、さらに嫌われてしまうじゃないか。


(いや、もうこれ以上は嫌われないな)


 既に、最低のところまで嫌われている。


(逆に考えろ……むしろ、怖いものはない)


 何を恐れる必要がある。別に父上に嫌われたっていいんじゃないか。屋敷を出て行ったら、ほとんど関わりはなくなるのだから。

 そんなことをつらつら考えて、はっと我に返る。


「あれ……?」


 気が付いたら、帰路ではない道にいた。この道に見覚えがある。そして、目の前にある施設も。

 クロニカは、愕然とした。


(ここって、ジュリウスが勤めている、医療研究所じゃねぇか!)


 答えが出るまで、会いたくないと思っていたというのに、無意識にここに来てしまった。

 クロニカは頭を横に振る。


(いやいや! アイツ、けっこう引き籠もるみたいだから、中に入らない限り、顔を合わすことはない、はず)


 慌てて引き返そうとした、そのとき。


「なに突っ立っているんだ?」

「ぎゃあ!!」


 聞き覚えがありまくりの声が後ろからして、クロニカは奇声を上げた。おそるおそる振り返ると、紙袋を抱えたジュリウスが怪訝そうにクロニカを凝視していた。

 心臓が跳ね上がる。


「いや、これは、その」


 どうしよう。緊張しすぎて、上手く言葉が出ない。

 こんなこと、父の前以外で初めてだ。父の前にいる時とは、まったく違う感情だから、余計にだ。

 ジュリウスがしばらくクロニカを眺める。


「なんか、悩み事か?」

「へ?」

「顔に、いつの間にかここにいたって書いてあるぞ」

「……マジ?」

「マジだよ」


 ジュリウスは溜め息をつく。


「歩きながら考えるほどの悩み事だろ? 聞いてあげるから、上がりなよ」


 紙袋を抱え直し、ジュリウスが施設に向かう。クロニカは慌てて、後ろ姿のジュリウスに声を掛けた。


「ま、待てよ! 部外者のオレが入ってもいいのかよ?」

「問題ない。ちゃんと受付で許可証を貰ったらな」


 ジュリウスが振り返る。


「答えが出ていないのに、僕のところに来たくらいの大きな悩みなら、早く吐き出したほうがいいんじゃないか?」

「こ、答えって」

「僕の告白のこと、忘れていないか?」


 告白、という単語で、クロニカの顔が真っ赤に染め上がった。

 わなわなしているクロニカに、ジュリウスは嘆息する。


「人の告白を忘れているなんて……」

「忘れてねーよ!! いや、でも答えが」

「どうせまだなんだろ? クロニカがこんなに早く、答えを出すとは思っていないよ。馬鹿だし」

「なんだとゴラァ!!」


 思わず怒声を上げ、はっと周りを見渡す。

 医療研究所の前で警備をしている二人が、訝しげにこちらを見ているが、それ以外は誰もいない。

 街中で大声を叫ぶのは、周りに迷惑が掛かる。

 ジュリウスが苦笑しながら、肩をすくめる。


「早くしなよ。金魚の糞が来てしまう」


 そういえば金魚の糞こと、スティーブン・タティスが早い就活をしている、と聞いたような。

 ジュリウスが早足で研究所に向かう。遭遇したくないのだろう。

 クロニカも、絡まれると面倒だからジュリウスに付いていった。

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