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正義のヒーローはコテンパンに負けるべきだと私は思う

正義のヒーローはコテンパンに負けるべきだと私は思う。

例をあげるとすると、幼少期や物心つく頃、よくテレビで見ていたかもしれない戦隊モノやヒーローモノなどだ。

正義を振りかざして敵役をバッタバッタと倒していくその映像に、男の子たちはさぞ興奮するのだろう。正義は必ず勝つとか言っちゃって、チャンバラごっこを始めたりするのだろう。ヒーローの決め台詞や必殺技とかをまねちゃって遊ぶのだろう。

私が不安に思うのは、勝手に正義を決めちゃうところ。間違っているかもと自分に問うことなく正義の鉄槌を下すところ。視点が、視野が、感情が、一つの方向からしか描かれていないところ。または都合よく描写されているところ。

正義だからといって必ずしも正しいわけじゃないでしょ。悪役にも何か事情があるかもしれないでしょ。ヒーローだって裏があるに決まってるでしょ。いつもそう思ってしまう。

だから私は、いつも悪役やダークヒーローの方をひそかに応援している。基本的にそういうテレビは見ないし、興味もないけど。


「美穂!朝ごはんちゃんと食べなさい!そんな悪い子に育てた覚えはないわよ!」

我が家に響く、いつもの母の声。毎週決まった時間に登場してくるアニメのヒーローみたいだと思えなくもない。

悪い子でもダークヒーローでもいい。朝は米ではなく食パンという私の感情に従う。

ごはん派というヒーローなんて、コテンパンに負けるべきだ。


母の怒鳴り声をスルーしながら家を出る。家の近くのスーパーで菓子パンと食パンを買い、食べながら歩く。トースターが道に設置されていないのはこの国のおかしいところ。パン派がたとえ少なくても少数派の意見は尊重すべきらしいって誰かが言っていた。ついでに充電ケーブルも道路に備え付けてほしい。でも税金は増やさないでほしい。ん、子どもの意見は意外と多数派だから受け入れてもらえないかもしれない?そうですか、そうですか。


私の通う小学校は近くにはない。隣町にある。よくわからない受験というものを受けさせられ通学時間が増えるのは正直めんどうくさい。ただ、通学中に電車に乗れる小学生は少ないらしいので、ちょっと鼻高だ。少し大人に近づいた気分がする。いつか大人に幻滅するときが来るかもしれないけれど、今はそうでもないからシャバを楽しもうぜって感じ。ちょっと意味が違うかもしれないけど、やっぱりまだ子どもだから許してほしい。子どもって便利。


いつもの通りを軽やかに突き抜けて、ごったがえす駅の中へと。この時間帯は人が多いけれどしかたがない。朝早く起きるのは元気な子どもの得意分野で、不得意でも大人はその都合上早く起きて仕事に行かなくてはならなくて。かくして満員電車が生まれる。

大人は子どもに時間と快適さを譲りましょう。出勤時間が遅くなれば、眠い目をこする大人はいなくなり、朝から思考はシャッキリ。私は朝快適な電車でユックリ。これをうぃんうぃんの関係と言うらしい。良くは知らない。うぃんうぃんって英語らしい。可愛い。


電車を降りると、あとは学校まで歩くだけだ。だいたい10分くらい。ひとつ隣の町だというだけなのに、一気に都会さが増す。でも、実質のところはあまり田舎も都会も変わらない。ガキが多いというところとかね。


「喰らえ、ライトセイバー!じょきーん。」

「痛い、痛いからやめてってば!」

「まて、逃げるな~。」


木の枝をライトセイバーと名付けるとは、ダサイ。私だったらウッドブレイド、と名付けるだろうに。現実的に考えて光ってないもん。その枝。

絶対私の方がセンスあると思う。少なくとも、武器を持ってない気弱そうな男の子を数人で殴るようなガキどもよりは。

隅に追い詰められてしゃがみ込んだ気弱そうな男の子は、いつの間にか大きな石を抱えていた。泣きながらも本気で石を頭の上に振りかぶるその子に対し、逆に腰を抜かしながら逃げる数人のガキの図は面白かった。


「うぅぅ・・・・。びっくすとーん!!!」


少年よ。ビッグストーン、だ。ビックストーンではない。でも、ネーミングセンスは認めてあげる。きっと大ダメージを敵に与えることができると思うよ。うんうん。

もしかしたら、先に気弱そうな少年が彼らに悪さをしたのかもしれない。単純にガキどもがいじめていただけかもしれない。その真相は私には分からない。

しかし、真実は『ライトセイバーを握る正義が負ける図』であったのだと私は期待している。

そっちの方が、私の気分がスカッとするわ。ほんとに。

投げられたビッグストーンはガキどもには当たらなかったけれど、代わりに白い鳥に見事にぶち当たっていた。よろよろと逃げるように飛ぶ鳥は、平和を象徴としているというよりはむしろ、平和ボケを象徴しているかのように見えた。青空は突き抜けるように透き通っている。

さっさと教室へ向かおう。そう思ってランドセルを背負いなおす。そして気づく。


「あっちゃー。忘れ物。」


月曜日のランドセルから、いつもの重量が感じられない。少し軽い。

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