21話 所有
「ユーマ様、お食事の準備が出来たのですが……
どうされました、そんな所で佇まれて。
まさかお身体の具合でも……?」
控えめなノックの後、入室したアイレスはデッキを手に窓際で黄昏ている悠馬を発見した。
アイレスの声掛けにゆっくり振り返る悠馬。
目の焦点が合っていない。
どころか薬物使用中みたいな虚ろげな眼。
だというのに、口元に浮かぶのは何かをやり遂げた漢の微笑。
窓から差し込む斜陽の光が猟奇チックな陰影を浮かび上がらせる。
「ふっふっふ」
「ゆっ……ユーマ様?」
「あ~はっはっは!」
悪の大魔王宜しくドレスアップした戦闘衣を翻し高笑い。
悦に浸るその様子に流石のアイレスもドン引きする。
さては氷嵐の女王による精神攻撃か何かだろうか?
思わず戦闘モードに入り掛けるアイレスだったが、見慣れない色を纏う悠馬の戦闘衣にハッとする。
「ユーマ様、まさか――」
「ああ、完成した」
アイレスの疑問に深々と頷く悠馬。
デッキを仕舞いドレスアップを解除する。
かなりの出来栄えだったのだろう。
会心の面差しでサムズアップを繰り出す。
「ティナの助言もあったから上手くいった。
今までにない、最高の出来だ」
嬉しさを堪え切れず喋り出す悠馬。
対人型TCGを行う者なら誰しも感じるやりがいの一時。
デッキを新しく作成した時の達成感。
どんな相手だろうと、戦ってみせる。
脳内で繰り広げられる死闘。
実際に回り始めるデッキの動きにワクワク出来るのは、デジタルでは味わえないアナログである紙ベースの楽しみの一つだ。
一枚一枚デッキをめくる度に展開していくカード。
この高揚感は脳内麻薬をバンバン溢れさせる。
それが完成度も高く万能感に満ちてれば尚更だ。
覚えたての少年の様に、悠馬は早くデュエルをしたくてしょうがなかった。
「あんまり強い言葉を使うと弱くみえるけどさ……今ならさっきの女召喚術師だろうが氷嵐の女王だろうが下せる気がする」
「それは重畳。
でもユーマ様?」
「はい?」
「よいですか?
恋する女性の前で他の女性を褒めるのは大きな減点です。
わたくしなら宜しいですけど、レミット様の前ではお気をつけ下さいな。
いらぬトラブルを招きます」
「う“っ……そうなの?」
「はい。
あの娘、芯が強そうに見えて凄く繊細なので」
「……反省します」
「よろしい。
さあ、それでは御飯に致しましょう。
食材も豊富ですし、本日も腕によりを掛けました」
「ああ、それは楽しみですね。
そういえば昨夜からドタバタして食事らしい食事を摂れてなかったな」
「食事は百薬の長、健康はまず食事からです。
それにいっぱい食べれば大概の悩みや苦難も乗り越えられます」
「ですね。
んじゃ、御馳走になります」
「はい。
あとピエタの方々は既に食事を召し上がって頂いてますが、コーウェル医師を含む有力者の方々がユーマ様と今後の事についてお話したいとの申し出があったので、食事の席にお招きしております」
「何だか消化に悪そうだな」
「仕方ありません。
この城塞、それにわたくしの所有者はユーマ様なんですから。
どうか宜しくお願い致しますね、ご・主・人・様☆」
「勘弁してください」
悪戯めいたアイレスの指摘。
さすがの悠馬も溜息をつきながら苦笑で応じるのだった。




