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テンプレ異世界召喚に巻き込まれたデュエリストですが、持ち前の魔導書(デッキ)で何とか頑張ってます  作者: 秋月静流


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20話 不意

「な、何をしてるの――ユーマ?」


 広大な城塞に響き渡るノック音。

 気安い返答と共に入室したティナはこちらに背を向けている悠馬に思わず声を掛ける。

 ティナが驚くのも無理はない。

 悠馬が個室として使っている部屋はかなり広い部屋なのだが、床に敷き詰められた絨毯の上に所狭しと並べられているのは<サガ>のカード。

 その中心に座り腕を組み、真剣な面差しで思案している悠馬。

 客観的に見なくとも怖い構図である。


「――ん?

 ああ、これか。

 ……デッキの構成を考えていたんだよ」


 数多のカードを見渡しながら悠馬は答える。

 悠馬が行っているのはデュエリストの根幹を為すもの、デッキ作成だ。

 来たるべきデュエルに向け、デュエリストは様々な効果を持つカードの相性を考えながら構成を練る。

 同名カード(同じ名称・効果が同じでも名前が違えばOk)は4枚まで。

 デッキ総数は60枚以上などの制限はあるものの、20年以上発行され続けてきたカードを使用するその選択肢は膨大である。

 軽量級ガーダーを並べ押し通る、ウイニー。

 火力系でシールドごと焼き切る、バーン。

 相手の行動を抑制し敗北させる、ロック。

 綺麗なマナカーブに即した構成、ビートダウン。

 発動すれば対戦者の敗北は必須、コンボ。

 序盤を耐え終盤を見据えた構成、カウンター・ミッドレンジなど。

 上記以外にもアーキタイプとなるデッキ構成は数多くある。

 この中から自分に合ったものを選びチューニングするのだ。

 強いデュエリストは偏った構成とプレイングの者が多い。

 俺は火力使い、私はコンボマスターなど。

 勝利に向け特化されたデッキ故、初戦の勝率は非常に高い。

 しかし――それは諸刃の剣である。

 言うなればそれは割り切りに近い構成。

 ジャンケンに例えるなら、対戦者はパーが多いのでグーとは当たらないと考えてチョキでいく、といった感じだ。

 相性の悪いデッキにはとことん勝てない。

 また内容を知られれば相手も対策を講じる為、やっぱり勝率が落ちる。

 じゃあ最強のカードを入れればいいじゃないかという意見になるが――このサガというTCGに最強のカードはない。

 その場その瞬間で常に求められるカードが違うからだ。

 ただアーキタイプの基となるべきカードは確かに存在し「グローリーセブン」というカテゴリーに属し最優のカードと呼ばれている。

 悠馬の優れたところは周囲の傾向に合わせてデッキを変化させられるオールラウンダーである事だ。

 苦手なアーキタイプがなく毎回その場に最も適したデッキを構成してくる。

 対戦相手にしてみれば対人メタが出来ないのでやり辛い事この上ない。

 関東大会上位の常連、高校生にして昨年度の日本選手権8位の腕前は伊達ではないのだ。

 まあ同級生に日本選手権連続首位の九条要がいる為、その非凡さは世間の脚光からは埋もれてしまっているのだが。

 余談になるが要は中性的で端正な容姿もあり、業界からの受けもいい。

 老若男女問わず人気があり、専門誌ならず女性向けファッション誌の表紙を飾った事があるほどだ。

 人並み以上に整っているとはいえ悠馬とは華が違う。

 悲しい事にファンの間では要の周囲にいるよくいる男、ぐらいにしか認識されていない。

 考えようによってはそれも幸いだといえる。

 ディープでコアなファンだと「悠馬×要は鉄板」「いや、要×悠馬こそ至高」「どちらも尊い」だと大変な事になっているからだ。

 何事も知らぬが仏、というである。


「ユーマはこうやって魔導書を編むのね……」


 散らばるカードを踏まない様に気を付けながら悠馬の隣へ腰掛けるティナ。

 カードを動かす手は止めないまま悠馬は訝しげに問う。


「ティナは違うのか?」

「ん。ティナ達は魔導書に語り掛ける。

 すると魔導書自体が召喚術師の意を汲んで構成を練る。

 自分の手札が可視化され魔導書に封じられていく感じ」

「所変われば品変わる、ってやつだな。

 俺の世界じゃさ、こうやって直接組み合わせを見ながらデッキ……魔導書を作るんだ。たまにデッキ同士を対戦させてみたりな」

「なるほど。

 魔導書の方が編成は楽だと思っていたけど……

 確かにこの方が回りや相性を考えやすい。便利」

「まあ利点も欠点もあるけどな。

 俺自身がデッキを回す以上、どうしても一面的な対応になりやすい」

「実際は違う?」

「ああ。俗に強者、って呼ばれる人達は先の先を見据えたプレイングをしている。

 俺もそこそこ自信があるけどさ……驕らずに邁進しないとな」

「ん。謙虚。

 そこがユーマの長所であり美徳」

「褒めても何も出ないぞ」

「今は何を?」

「さっきの女召喚術師に合わせた構成を組んでいる。

 既存のデッキじゃ悔しいけど手に負えない」

「そっか……」


 無言になる二人。

 脳内で様々なシチュエーションを想定させ対応カードを考慮する悠馬。

 その肩に、ティナの頭が乗せられる。

 ハーフアップに纏めた髪から仄かに立ち昇る香。

 ティナの身体が上気している事に悠馬は気付いた。

 この城塞には大規模な給湯設備もある。

 神経を擦り減らす様な疲労を癒す為、湯浴みでもしてきたのだろう。

 眼を伏せ色香を纏うその顔を横目で確認し、心臓が高鳴っていくのを悠馬は自覚した。


「どうしたんだ、ティナ?」

「……ありがとう、ユーマ」

「え?」

「悔しいけど――私の力じゃここを守り切れなかった。

 全てはユーマとピエタの人々のお陰」

「気に病む事じゃない。

 こんな戦争規模の実戦を踏んでいる召喚術師なんていないさ。

 ティナはティナに出来る事を最大限にしたんだ」

「そう言ってもらえると――救われる。

 でも……お礼は別。

 本当にありがとう、ユーマ。

 絶体絶命の危機に颯爽と駆けつけてくれて。

 正直――惚れ直した」

「な、何を言ってるんだよ、ティナ。

 あと――何でこっちににじり寄ってるんだよ!」

「ユーマは鈍感。

 私の気持ちも知らないで。

 帰って来た時から様子がおかしいし、アイレスとの会話の間で分かる。

 告白でもされた?」

「ぶはっ!

 そんな事まで分かるのか!?」

「ユーマは分かりやす過ぎる」

「……まあ、確かに告白といえば告白だが……

 ティナの考えているような甘いもんじゃないぞ」

「それは分かる。

 こうやって体臭を確認してるけど、そんなに匂いはしない。

 ――ん。無実」

「って、さっきからしてたのは匂いチェックだったのかよ!」

「当然。

 人は嘘をつく。

 でも――匂いは嘘をつかない」

「何をハードボイルド風に決めてるんだよ!

 っていうか止めろよ、恥ずかしい」

「心配しないで、ユーマ」

「何がだよ?」

「こう見えて私は匂いフェチ。

 2~3日くらいはお風呂に入ってない方が燃える」

「何を告白してる!」

「洗っていないユーマの下着で御飯3杯はお代わりいける。

 濃厚なやつだともっとヤバイ」

「カミングアウトするな、この変態!」

「あっ……もっとなじって」

「興奮しちゃ駄目だろうが!

 色々人間として!」

「とまあ――冗談はここまでにして」

「どこまでが冗談だったんだ?」

「ティナが来た理由は……ユーマ成分の補充やら匂い確認やら色々あったけど……一番は心配だったから」

「えっ……?」

「――何かあった?

 レミットの部屋から出てきてからユーマの顔色が悪い」

「あっ……」

「例えば――レミットに不治の病が見つかった、とか?」

「いや――そういう訳じゃない。

 今の風邪に似た症状は氷嵐の女王の呪いらしいが対処薬を投与したし、解呪すれば問題ないらしいから悲観はしてない」

「なら……何かあった?」

「それは……

 今はまだ話せない。

 少しだけ――時間をくれないか?

 皆に説明するには俺も心の準備がいる」

「――ん。了解。

 早急性のある悪い事態じゃないならいい」

「ああ、ありがとなティナ」

「礼をいうべきは私。

 ただデッキ? 作りに関してこれは助言というか私の直感なのだけど」

「ん?」

「ユーマの持ち味は柔軟な対応力。

 万色なる多種多様性にあると思う」

「多種多様性?」

「そう。だから……つまり尖らせるのではなく丸くしたら?

 せっかく各色の適性があるのだし」

「万色――つまり七色か。

 うん、ありがとう。

 ティナのお陰でデッキの方向性が見えて来たよ」

「それは良かった。

 じゃあこれは報酬として頂いて置く」

「ん!」


 視界一杯に広がるティナの貌。

 唇に感じる甘い吐息。

 小鳥が啄むように可憐で優しいキスだった。


「テ、ティナ?」

「本妻はレミットに譲った。

 けど――妾腹はまだ諦めた訳じゃない。

 これからも宜しく」


 顔を真っ赤しながら早口で告げ去るティナ。

 後には唇を抑えボーっとする悠馬だけが残されるのだった。






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