19話 指摘
「お帰りなさい、ユーマ」
「ただいま、レミット。
具合の方はどうだ?」
「うん、ゆっくり休んだし……
センセーのお陰で大分良くなったよ」
「そいつは良かった。
すっげー心配してたんだぞ」
「ごめん……
ごめんなさい、迷惑かけて。
あたし、足手纏いだよね」
「こ~ら」
「いたっ。
もう~何でデコピンばっかするの!」
「レミットがネガティブな事ばっかり言うからだろう?
今朝も言ったけどさ……
好きな子の為に動く事は苦痛じゃない。
俺自身がレミットに何かしてあげたいんだ。
押し付けがましいかもしれないけど……
レミットは嫌か?」
「ううん。
すごく――嬉しい」
「なら良かった。
だったら今は安静にしてろ。
元気になったらまた一緒に旅を続けよう」
「うん!」
「じゃあ――病室に長居しても悪いしな。
そろそろお暇するか」
「あ、あのねユーマ!」
「ん? どーした?」
「あたしの為に色々頑張ってくれるのは嬉しい。
でも――ユーマに危険な真似はしてほしくないの」
「……心配か?」
「――うん。
あたしにも力があれば、っていつも思う。
共に戦えるティナやドラナーが羨ましい」
「それは……」
「センセーからお話を聞いたよ?
氷嵐の女王って呼ばれてる人達の軍勢と戦ったんでしょ?」
「まあ、直接的に刃を交えたのは手下の召喚術師だったけどな」
「それでも、だよ。
悪逆非道の輩達だっていうのはセンセーから聞いてる。
ユーマがそれを見逃せない人だっていうのも。
けど――だからこそユーマは無理をしちゃうでしょ?
だってユーマの本質というか起源は……
きっと<希望>だろうから。
闇夜を照らす光。
運命に反逆するもの。
絶望の淵に沈む人々を見て、絶対見逃せる訳がないもの」
「そんな事は――
買いかぶり過ぎだよ」
「ううん。そんな事ない。
あたしが英雄叙述詩好きなのは前に教えたでしょ?
似てるんだ、ユーマは」
「誰に?」
「過去にいた存在達――<勇者>に」
「――勇者?」
「そう。彼等はいわば世界が生み出す免疫機能。
人々が対処できない――
どうしようもない事態に陥った時に現れる舞台装置。
絶大な力を持つ代わりに、人の領域の外を歩む存在。
そこに個人の幸せはない――
ただ人々の感謝を受け世界を救う悲しい狂言回し」
「……」
「ずっと考えていたことがあるの。
何でユーマが都合よくこの世界に召喚されたのかな、って。
本来であればあんな窮地に助けが来るなんて有り得ない。
だって――世界は残酷だもの。
あのまま蹂躙されてしまうのが普通。
でも、ユーマは来てくれた。
定められた運命の外から。
それは凄く嬉しいし、幸せだと思う。
だからこそ――あたしは考えちゃうんだ。
この御都合展開は誰の手によるものなのかな、って」
「――考え過ぎだろう?
俺がこの世界に来たのは友人からカードを貰ったのが切っ掛けだったし」
「うん、ユーマから聞いた。
じゃあね、ユーマ。
一つ聞くけど……
ユーマのお友達、カナメさんっていったい何者なの?」
「……えっ?」
「ユーマが疑問に思わない、
周囲の誰も気にしないから今まで黙ってたけど……
何でまずその人の事を気にしないの?
幾ら近接しているとはいえ、世界の境界を超える力をユーマに渡したんだよ?
歴代の大魔術師や賢者でも困難な事を、どうして魔術が無いというユーマの世界の人が行えたのかな?」
「それは……
いや、だって……」
「ごめん、余計な事を言って。
でも誰かが指摘しなきゃいけないと思ったの。
余計な事だったら忘れて」
「あ、ああ。
ありがとう、レミット。
少し……考えてみるよ」
「うん」
「じゃあ」
「あ、あのねユーマ!」
「ん?」
「せ、センセーがさっき言ってたんだけどね!
氷霊病はね、人間同士では感染しないんだって……」
「へえ~」
「だ、だからね……その」
自分からは言い出せず、恥ずかしがるレミットの貌が近付いた悠馬の手によって優しく抱えられる。
何を、と問い質す前に悠馬の唇がそっと重なっていた。
「あ、あう……」
「よく眠れるおまじない。
早く良くなるといいな」
「ば、馬鹿!
知らないんだから!」
「はは、それだけ元気があれば大丈夫だな。
また後でな、レミット」
「うん、待ってる」
名残惜しそうなレミットに手を振り、病室を出る悠馬。
思ったよりも元気そうで安心した。
コーウェルの話通りならこれでしばらくは安泰だろう。
まあ根本的には呪いそのものをどうにかしなくてはならないが。
「だが……今はそれよりも確認しなくちゃいけない事がある」
一人呟き、デッキケースの中から九条要に貰ったカードを取り出す。
もはや何の力も感じられないカード。
それは一見、ただの紙切れにしか見えない。
「何故、異世界転移したのか?
その事を考えなかった訳じゃない……
ただ――無意識に忘れてしまっている?」
異能消去能力を持つレミットのみが効かない何か。
原因があるとすればこのカードしか考えられない。
躊躇い後、カードに手を掛け一気に破り捨てる悠馬。
その瞬間――悠馬は全てを思い出した。
お気に入り登録ありがとうございます。
嬉しいので更新です。




