8話 弁解
「アンタ……さっきから、よくもまあ……
本当に、ワザとじゃないでしょうね?」
「ご、誤解だ!
誓ってホントにワザとじゃない!」
仁王立ちで腕組みをするレミット。
その前で土下座し、自己の正当性を主張する悠馬。
ここは臨時開廷の弾劾裁判。
被告人は悠馬。
裁判官はレミットである。
残念な事に陪審員はいない。
裁判官の采配一つで天国と地獄が決まる魔女裁判ともいえよう(南無~)。
当の被害者であるアイレスはおっとりと頬に手を当て、事態の成り行きに困り顔ではあるが。
しかし悠馬にとっては先程から生きた心地がしないのも事実である。
悠馬に対する裁判官へ第一印象(心証)が最悪だったのもある。
だがここで釈明し損なうと変態男の汚名を被る事となる。
久遠悠馬17歳。
若きデュエリストとして数々の異名を馳せてきたが……
けれど<変態セクハラ野郎>の称号だけは絶対に回避したかった。
しかし本人の真剣さとは裏腹に、年下の美少女であるレミット相手に頭を下げる姿は……傍から見ればまるで満員電車における痴漢冤罪事件の弁解。
贔屓目に見ても浮気等が原因の痴話喧嘩の様に見える。
でもその一生懸命さと誠意は、充分レミットに伝わった。
それに悠馬は危険を顧みず自分達を守ってくれたのだ。
情状酌量の余地はある。
猜疑心に満ちた視線を和らげ、当事者にも意見を窺う。
「こう言ってるけど……
それでいいの、アイレス?」
「……えっ?
はい。構いませんわ、レミット様。
ユーマ様に悪意が無い事は充分伝わりましたし」
「そう……アイレスがいいならそれでいいけど」
「うふふ。御心配、ありがとうございます」
態度を軟化するレミットに、にっこり微笑むアイレス。
どうやらこの調子だと不起訴か執行猶予で切り抜けられそうである。
九死に一生、何とか首の皮一枚で男の尊厳を守り通した悠馬。
そんな悠馬の前、皺にならないよう丁寧にメイド服のスカートを畳んでしゃがみ込んだアイレスが覗き込んでくる。
「な、何でしょうかアイレスさん?」
「コホン。
これだけは言っておきます、ユーマ様」
「あ、はい!」
「ユーマ様も男性ですし……
その、猛るお気持ちは充分理解致しますわ。
でも何事にも慎み深さが必要だと、わたくしは思いますの」
「え? あ、はあ……」
「ですから……先程の様な事は、人気のないところでお願いしますわね?
わたくしもその、色々と準備をしなくてはならないので」
「いっ!?」
「ちょ、ちょっとアイレス!
アナタさっきから何を言って……!!(涙)」
涙目になったレミットが思わず割って入ろうとした時――
ひゅう~~~~~
絶妙のタイミングで吹く一陣の風。
それは本当にどうなってるのか。
何故かレミットのスカートの前部分のみを捲し上げる。
確率論やカオス理論やバタフライ効果がどうのとか、色々と論議すべきなのだろうが……何故か悠馬の周囲ではこういうことが頻回に起きる。
本当にどうなってるのだろう?
露骨なアクセス稼ぎではないだろうが……まあ何はともあれ、神風により捲り上がるスカート。
その前には土下座したままの悠馬がいた訳で……
バッ、とスカートを咄嗟に抑え込むレミット。
涙の浮かんだ上目使いで、悠馬を睨みながら尋ねる。
「み、見た?」
「いや、全然!」
「嘘……見たでしょう!?」
「急な突風だったし、ホントに見てないって!」
「あのね、ユーマ。
こういう時は素直に言ってくれた方が……
案外傷付かないものなのだけど?」
「そ、そうか?
うん、そういうものなのかな?
ならば……レミット!」
「な、何よ?」
「その……さ」
「うん」
「黒のガーターは……
まだ早いんじゃないかな?(あは)」
「!!」
正直過ぎる。
っていうか、アホ過ぎる悠馬の一言。
レミットのリミットゲージが一気に満タンとなる。
あ、地雷ですわ。
のほほんと呟くアイレスの呟きを待たず、
「ユーマの……エッチ!!」
バチン!!
本日最強。
体重の乗った最高の一撃が悠馬を瞬時に地面へ沈めるのだった。
ホントにどうなってるんでしょうね?(溜息)
あ、今の悠馬はドレスアップもフォースフィールドも解除した状態です。
ただそうじゃなくてもレミットの突っ込みは効果があります(一応伏線)。