9話 最優
◇1ターン◇
どこまでも続く銀世界。
ここ数時間見慣れた雪原に、悠馬は一人で立っていた。
空を覆うのは曇天の雲。
遥か遠方の対戦盤上にはラズの姿が見える。
この光景はあいつの心象が写し出されたものなのだろう。
生き物がまったくいないその世界は静謐で、そして寂しい。
どこまでも孤独なその心。
それこそがラズの原風景、力の原動力なのか。
この琺輪世界におけるデュエルは望む望まない限らず、いつも相手の心を覗き見せられる。
それは当人が隠したい、葬りたい過去との対峙。
決して自らが望んでいる訳ではないのに。
感傷的な気持ちを振り切る悠馬。
今はそんな事に想いを馳せる時ではない。
この場に立つ、その意味は理解している。
これから行うのは命を懸けた戦い。
召喚術師たる自分達の死闘となるのだから。
「迸り渦巻け灼熱の大地」
デッキより現れ周囲を漂うのは魔導書の象徴である力の欠片(符)。
絶大な力を秘めたそれを悠馬は手にし、大地へ注ぐ。
その瞬間、雪原を割り吹き出す溶岩。
たちまち周囲を溶融し、水蒸気を上げ始める。
「ふん、やはり紅のデッキか。
このボクに同系で挑むなど愚行の極み。
先程も言ったが、お前に格の違いってやつを知らしめてやるよ。
冠雪の大地<ツンドラ>よ、我が意に応じよ。
眠りを告げる種子を呼び覚ませ!」
デュアル属性。
それは二つの属性を持つ魔導書所持者の証。
温度を司る紅と生き物を司る翠の力を秘めた大地の恩寵を受け、召喚陣が起動。
戦場を覆うように無数の茨が多い茂る。
これこそラズが得意とする包囲殲滅陣への布石。
順調な回りを見せる自分のデッキに喜ぶラズ。
一方の悠馬は足元を溶岩地帯に変えただけでこのターンを終えた。
先手 ユーマ 手札 7⇒6
後手 ラズ 手札 8⇒6
◇2ターン◇
「我は重ねる灼熱の大地。
黄金三角錐よ、我に力を示せ」
再び溶岩地帯をセット。
マナを増強する魔導器の召喚。
ただしこのターンは使えない。
効果を発揮するのは次のターンからだ。
魔導器の召喚、ただそれだけでターンを譲る悠馬にラズは嘲笑を浮かべる。
「どうしたどうした?
口ばっかりでその程度か、お前。
はっ、まあいい。
そこで指を加えて見ているがいい。
無様に貫かれる自分の姿をな!
疾く速けき季節の節、踊り回りて我が内に宿れ。
不可視の障壁を犠牲とし礎と成せ。
盲目なる茨の園<ブラインドガーデン>よ、我が敵を戒めよ」
ラズは声高らかに魔導書を掲げる。
砕け散るラズのシールド。
それはシールドを犠牲にした高等術式の布石。
中空に出現した符は<ツンドラ>に着地。
次の瞬間、茨は剣のごとき大きさと鋭さへ変貌。
うねりを上げて悠馬に向かい、牙を剥く。
無防備のまま砕け散るシールド。
残り枚数2枚。
「……くっ」
「あははは、何って無様なんだ!
マナを伸ばしたところで使い道がないのか?
ならば止めだ。
我が秘奥の前に敗れ去れ!
凍れる黒き虚ろの槍よ、我が導きに応じその姿を示せ……
出でよ<氷槍の道化>らよ!」
無数の茨に続いて現れたのは禍々しい形状の氷の槍。
それはピエタの兵士達を皆殺しにしたものに違いない。
手練れの召喚術師だろうがこの数をいなすのは並半端な力では足らないだろう。
ラズは語るに相応しいだけのだけの力は間違いなく所持していた。
「こいつを次のターン、お前にぶつける。
生き残れると思うなよ?
間違いなくシールドを全損させる筈だ。
あとこいつらは速攻能力を持ったガーダーだろうが何だろうが塞き止める。
更には火力に対する障壁ともなる。
こいつらを壊滅しない限りお前に勝機はないのさ」
舌なめずりをし喜々として解説するラズに悠馬は無表情に肩を竦め応じると、デッキに手を伸ばし次ターンを迎えるのだった。
>各ターンの開始時にデッキより1枚ドロー
ユーマ 手札 7⇒6 シールド1枚破損(マナの増強に使用)
ラズ 手札 7⇒5 シールド2枚生贄(術式の補助に使用)
◇3ターン◇
「黄金三角錐の導きにより……
輝く多面体<トラペゾヘドロン>よ、我に力を」
悠馬が召喚したのは好きな色のマナを生み出す伝説の神器である。
更に場に出た時に好きなマナを1つ自動的に発生させてくれる。
「おやおや……もしかしてお前もデュアル属性だったのか?
けど残念だったな。そんな状況から逆転する術など……」
嘲りの言葉を浮かべたラズの顔が凍る。
悠馬の契約したマナを見て。
今しがた悠馬が契約したのは<湖上城塞の地下墳墓>。
それは黒と……そして蒼のマナを生み出す。
「ま、まさか!
そんな馬鹿な!
二重属性だけでなくお前はまさか……」
「そう――お察しの通りだ」
「う、嘘だ!
そんなの有り得る訳がない!」
「何故、そう思う?
何故、信じられない?」
「ボ、ボクですら女王様に頂いた属性を使いこなすのがやっと。
それなのにお前はまさか――」
「ならば見せてやるよ――
三属性……<トリニティ>デッキの真の力を!
輝ける<トラペゾヘドロン>にて、廻せ運命の輪。
紅・黒・蒼。
三色の退廃をもって結実とし、今ここに我は願う――」
輝く多面体<トラペゾヘドロン>による儀礼術式。
それはデッキを象徴するヴィタルガーダーを招く為のものに他ならない。
即ち――<ガーディアン>の召喚である。
「我が呼び掛けに応えよ……
来たれ<腐嵐王ファイレクシオン>!」
「呼んだな、妾を!」
戦場全域を覆う暴風。
更に中心部にある輝く召喚円から放たれる圧倒的な威圧感。
悠馬の呼び掛けに応じた存在。
かつて刃を交え、後に悠馬に従った腐敗と嵐の暴君。
荒廃の主、腐嵐王ファイレクシオン。
おぞましくも勇壮であったかつての姿は喪われ、幾分か弱体化している。
それでも超自然現象に『名』と『形』を与え具現化したその強さは顕在で、凡百な召喚術師では扱い切れぬ力を持つハイクラスのガーディアンであった。
「ふう~ようやく出て来れたわ」
「待たせてすまなかったな」
「まったくじゃ。
本来ならあと1章は早く出番だったものを」
「そっちかよ!」
「そうじゃ。
何か問題でも?」
「そういうメタ的な発言はやめろ!」
「だって事実じゃろ。
力とレミットを失って絶望するお前様。
そんなお前様に寄り添い、
力とは何かと諭し、
契約でなくお前様の心情に惹かれた妾が献身的に尽くして読者の好感度を稼ぐという展開はどこへいったじゃ!?」
「何で逆にキレ気味なんだよ!」
「だって出番がないのじゃぞ?」
「残念だけどさ、そういう鬱展開じゃアクセスを稼げないんだよ。
だからそのルートはボツ。
あと……レミットが心を開いてくれたし」
「けっ!(ぺっ)
アレだって本当はもっと先の予定だったんじゃ。
それをあの小娘が……
お前様の心を射止める為にカマトトぶりおって。
あざとい、実にあざとい!」
「いや……違う。
あいつは素直に心を開いてくれただけだなんだ」
「のろけを吐くなら便所ででもやっておれ(はん)!
まったくリア充共が……
馬に蹴られてしまえばいいのに(ボソッと)」
「あの~ファイレクシオン?」
「シオンで良いと言ったであろう」
「じゃあ――シオン?」
「なんじゃ?」
「何ていうかさ……
ガーディアンとして呼んでおいて何だけど……
性格、随分と違くない――?」
「お前様の所為じゃ」
「――え?」
「ガーディアンに限らずガーダーは全て召喚した召喚術師の影響を色濃く受ける。
まして妾は魔導書に封印されっぱなしだったのじゃぞ?
嫌でも影響を受けるわ」
「つまり――俺の所為?」
「そうじゃ」
「その幼女の姿も?」
「そうじゃ」
無い胸を張るシオン。
風にたなびく豪奢な金髪。
全てを吸い込む珠玉の宝石のごとき碧眼。
天工が身命を注いだ様な輝く美貌の鎧姿。
本来であれば誰もが畏怖すべき神秘が顕現したであろう姿。
しかし悠馬の前に現れたその姿はどう見ても5歳前後の幼女であった。
「妾としてもこの姿は不本意なのじゃ。
だが仕方あるまい。
幸い力の方は少し衰えているも問題なさそうじゃし」
「大丈夫……なのか?」
「――うむ。
老獪な喋りをする金髪ロリ美幼女は需要があるからのう。
過酷なヒロイン戦線でも生き抜いていけるじゃろう」
「そっちじゃねえよ!」
「ん? なんじゃ……色気が足らんか?
まあ許せ。
妾も長い年月を封印されておったが、精神年齢は本当に5歳くらいじゃ。
だからこの姿が歳相応なのじゃろう。
しかし実年齢は100を超えておる故、交際しても大丈夫。
それどころか肉体関係はおろか結婚もイケる。
いわば合法ロリじゃな!」
「誰もそんな事は心配してねえ!」
「――うえ?
ち、違うのか……?
世の中の男はすべからくロリコン。
だが未成年者との交際は犯罪だから出来ない。
故に合法ロリである妾は最強だと思ったのだが……
ティナに聞いておった話と随分違うのう」
「いったいティナから何を聞いていたんだよ!
っていうか、いつ話していた!?
ずっと魔導書に入っていただろが!」
「いや……
共に封印されていた間、暇だったからな。
ずっとガールズトークしておったんじゃ」
「そんなに緩い間柄だったのかよ、お前ら!
全てを無に帰すとか何とか、如何にも悪役な口上を述べていたくせに!」
「あれは……封印が解けてテンションが上がり過ぎてただけじゃ。
誰しもが辿る通過儀礼(厨二病)じゃな。忘れよ」
「忘れられるかよ!
っていうか、設定が滅茶苦茶過ぎるだろうが!」
絶叫し地に伏せ、頭を抱える悠馬。
気持ちは分かる。
そんな悠馬の頭をポンポンと叩くシオン。
「お前様よ――」
「何だよ……」
「人の夢と書いて、儚いじゃ」
「そのネタはもうティナの時にやった。
まったく……本当は姉妹とかじゃないだろうな、お前等?」
「それはない、流石にな」
「どうだか。もう何が起きても驚かないわ。
――まあいい。
お前が降臨した時点で決着はついたしな」
「そうじゃのう」
対戦相手であるラズがいる対局盤を見据える悠馬。
そこにはエナジードレインに近い攻撃を喰らい白髪となったラズがボロ雑巾みたいに燃え尽きていた。
戦場に蔓延っていた茨も氷も全て灰塵と化し消え去っている。
悠馬とシオンはデュエルを放棄して漫才を繰り広げていたわけではない。
既に勝敗が決していたからこそ談笑する余裕があったのである。
ガーディアンであるシオンのガーダー能力。
それは戦場全域と対戦相手を含む直接火力であった。
彼女が戦場に出た時に誘発される能力。
ただそれだけで戦場は荒廃の地と化す。
まあ自軍も巻き込むので使用の際には細心の注意が必要だが。
しかしデメリットを差し引いても得られる恩恵があり過ぎる。
このサガに最強のカードは無い。
が、まさに最優のカードの一つであった。
「格の違いを分からせてやると何とか、随分と大口を叩いていたよな」
「うむ」
「けど、残念ながら俺達の相手をするには――」
「――百年ほど早過ぎたようじゃな」
「ああ、違いない」
崩壊していく戦場結界の中、手を打ち合わせ笑う悠馬とシオン。
長く戦場を共にする、新しいコンビの発足であった。
>勝者 久遠悠馬!
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