7話 火蓋
「あれは……」
街の上空に差し掛かったグリフォンから悠馬は下を見下ろす。
徐々に町へ近付くにつれ、気になっていたもの。
それは頭頂から股間まで氷の槍によって貫かれた兵士達の死体だった。
中には巻き添えになったとおぼしき民間人の姿も見える。
生きている内に悪魔の所業が行われたのか、その顔は全員苦悶に歪んでいた。
そして要所要所で見せつけるみたいに高々と掲げられている。
まるで――己が偉業を誇るかのごとく。
「酷いですわ……」
「何て、惨い真似を」
死に慣れたアイレスですら目を背けたくなる凄惨さ。
殺すことが目的ではない。
人の尊厳を踏み躙る事。
苦しめ、誇示する事が目的なのだ。
無意識に握った拳へ力が入る。
尋常では有り得ない死に方をした数多の死体。
無論それは召喚術によるものに他ならない。
(戦う義務と覚悟がある兵士達はまだいい。
どんな凄惨な死を迎えようと、それが彼等の仕事だ。
しかし一般の人達まで巻き添えにしやがって……)
義憤に駆られる悠馬だったが、その耳に少女の悲鳴が響き渡る。
慌てて目を向ければ、通りの裏手。
人目があるというのに、押し倒され暴行されようとしている少女がいた。
驚いた事に街の人々は救いの声を無視している。
(何でだよ!
それともここじゃそれが普通なのか!?)
視界が真っ赤になるほど激昂する悠馬。
だが暴行者の姿を見た瞬間、沸騰し掛けた頭がスーっと冷えていく。
紅の魔導衣を纏ったドレスアップ。
召喚術師。
それはまさしくこの悲劇を生みだしたであろう、
当事者の一人である事を如実に示す証。
「アイレスさん」
「はい」
「バックアップを……頼んでもいいですか?」
召喚術師の周辺を見渡す悠馬。
街の各所には、串刺しの者達とは違う格好の兵が媚びへつらう様に成り行きを見ている。
そいつらの口元に卑しい笑みが浮かんでいるのを見て、悠馬の心はますます冷たく研ぎ澄まされていく。
こいつらも同罪。
それなりの報いを受けてもらおう。
ただ自分が介入した際、無秩序に動かれるのは困る。
無辜の民を人質に取られでもしたら事だ。
だからこそ悠馬はアイレスに協力を仰ぐ。
道中本人が話してくれたアイレスの絶技があれば――
「駄目ですよ、ユーマ様」
「え?」
「選択肢があるようでないのは――
確認になりませんわ。
だってわたくしがお止めしても……
ユーマ様は助けに向かわれるのでしょう?」
「そりゃあ、まあ……」
「フフ……
ならば心の赴くまま、どうぞ御随意に向かって下さい。
それに今回ばかりはわたくしもお止め致しません。
戦うべきではない人達にまで手を掛ける輩達です。
そんな奴等に情けは無用。
微力ながらわたくしもお手伝い致します」
「……ありがとう。
アイレスさんならそう言ってくれると思いました。
正直助かります。
なら俺の力で飛び降りても大丈夫なようにしておきますから、アイレスさんのスキルで見え隠れする兵士達を無力化してもらっていいですか?」
「はい、了解です」
「ならば行きましょう。
あの娘を助けに。
そして……あいつらに因果応報の裁きを。
自らの行いに対する報いを受けてもらう為に」
「ええ」
グリフォンから身を躍らす二人。
ローブとロングスカートが魔鳥の様に羽搏く。
激戦の火蓋が切って落とされ様としていた。
更新お待たせしました。
次回よりデュエル開始です。




