5話 独白
新規お気に入り登録、本当にありがとうございます。
お陰様でこの小説も10万PV間近。
これからも応援よろしくお願いします。
「ん?
人里っぽい所が見えてきたんだけど……」
グリフォンの背から目を凝らす悠馬。
ドレスアップの効果もあり、その視力は常人の数倍を誇る。
悠馬の呟き通り、遥か彼方に城壁に囲まれた街っぽい集落が見えた。
耐寒仕様だが平均的な大きさの建物が連なっている。
昨夜の猛吹雪にも負けない造りは実に堅牢だ。
人口は500人前後、といった所か。
この規模なら旅の途中幾度も見掛けている。
ただ――平凡なその佇まいに何か違和感を感じた。
「どうされましたか、ユーマ様?」
悠馬を見上げ問い掛けるアイレス。
愛おしげに胸元へぴたりと寄り添うその姿。
密着具合が何というか危険がデンジャラスな感じである。
直に伝わる豊かな感触。
極上の果実を意識しない様にしつつ、悠馬はアイレスに答える。
「前方に街らしい集落を発見したんですよ。
けど、何かおかしい……何だろう?」
「煙……」
「え?」
「煙が出ていません。
丁度昼食になろうかという今の時間帯。
本来なら煙が沢山立ち昇ってなくてはおかしい筈です」
「あっ」
地球育ちの現代っ子である悠馬が気付きにくい事。
魔導具の普及により幾分か文明が進んだとはいえ、この琺輪世界ではまだまだ竈による煮炊きが一般的である。
ガスや電化製品などはないのだ。
旅路で見てきた建物は、ご飯時にいつも賑やかな煙が立ち昇っていた。
こういった煙は黒ずんだ灰を伴う為、遠方からでもかなり目立つ。
なのに――何故か、それが見られない。
それこそ悠馬が感じた違和感の正体だったのだ。
悠馬は推測する。
あの規模の街で、煮炊きのみならず冶金の煙すら立ち昇らない事態。
様々な要因が考えられた。
しかしそのいずれにも該当する共通事項。
即ち――
「多分、緊急事態です。
急いで駆け付けたいと思うんで、しっかり掴まって下さい」
「はい」
お人好しなんですから、もう……
という言葉は、急加速により掛かるGの前に立ち消えた。
いや、思うだけで最初から口にする気はなかった。
だって、そうじゃなければ彼じゃない。
どこかの誰かの笑顔の為に全力を尽くせる。
それこそ彼女が恋焦がれ……主人に申し訳ないと思いつつも惹かれてしまった、偽りなき彼の本質なのだから。
(だから好きなんです。
たとえ――わたくしが貴方の一番にはなれなくとも……)
毅然とした悠馬の言葉に、アイレスは魔導衣を掴み応じる。
胸の内に宿る想いを、手の平に精一杯込めながら。