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3話 抗議

「それじゃ、行ってくる」


 城塞唯一の出入り口である大門前。

 悠馬とアイレスは見送りに来たティナへ別れの挨拶を告げる。

 その背後には嵐にも負けない翼を持つグリフォンが召喚されていた。

 獅子の四肢に翼を持つ巨躯。

 悠馬達二人を乗せて飛ぶのは容易い仕事だろう。

 しかし無表情な筈の鷲頭だが、待機命令を遵守するその貌はどこか愛嬌が見受けられる。

 同名カードでも召喚されるガーダーには個体差が出る。

 召喚者の腕前・思想・性格などに影響され実に様々だ。

 そういった意味で悠馬の腕は確かだし、性格も明るいのだろう。

 事の経緯は悠馬にあった。

 朝食後、レミットの為に本格的な周囲の探索に向けて動きたいと二人に相談した悠馬。

 懸念事項は幾つか出たものの概ね賛同を得た。

 問題は同行者だ。

 二人が二人とも同行を申し出たのである。

 悠馬的には自分一人でも十分だと思ったがここは未開の地。

 どのような不測の事態が起きるか分からないと反対された。

 確かにバックアップする者がいると、悠馬も思い切った行動が取りやすいのだが……困った。

 まさか二人とも連れて行く訳にはいくまい。

 いくらこの城塞が多くのガーダーに守られているとはいえ、上記のした通り不測の事態というのは待ったなしで起り得るからだ。

 そういう事を鑑みた場合、やはり残るのは鉄壁の守護術を誇るティナが望ましいだろうという結論になった。

 レミットを看病する際にある程度の医療知識があるし、何より緊急時には召喚術という切り札がある。

 本人は泣く程悔しがったが、そこは巫女。

 病める者を捨て置けないと納得した。 

 よって冒頭に繋がる。


「ん。気を付けて行ってらっしゃい」

「ああ、すぐに薬か医者を見付けてくるさ」

「レミット様を宜しくお願いしますね、ティナ様」

「うん。大舟に乗った気で任せてほしい」

「ああ」

「と、笑顔で言いたいけど一ついい?」

「? 何だ?」

「何でしょう?」

「そのさり気なく組まれた腕は、何?」

「へっ?」


 冷たい声色のティナの指摘に自分の腕を確認する悠馬。

 ドレスアップにより魔導衣を纏うその左腕は、絡まれたアイレスの腕によってガッチリとホールドされていた。

 

(い、一体いつの間に!?)


 鋭敏感覚を得ている自分が気付けない動き。

 無意識の虚を突く様なその洗練された挙動に、驚愕を隠せない。

 これが暗殺者ならば刺されるまで気付かなかっただろう。

 心底戦慄する悠馬に対し、アイレスは他愛のない悪戯を咎められた幼児の様に小首を傾げる。


「あらあら。

 これはどうしたのでしょう?」

「……やはり油断がならない。

 第二夫人の座を賭けてアイレスとはじっくり話し合いたい」

「うふふ。

 第一夫人はレミット様にお譲りしましたが、わたくしも側室としてユーマ様に可愛がって頂ければ幸いなんですけれど」

「……むう。

 アイレスは黒い」

「あら?

 恋する女はすべからく狡猾なんですよ?

 黙って待つだけでは素敵な殿方は振り向いてくれませんし」

「なるほど。

 手を汚さない者が何かを得る事は無い、と」

「よくお分かりですわ、ティナ様。

 わたくし達、もっと理解し合えそうですわね」

「ん。同意。

 さすがは我が恋敵と書いてライバル。

 含蓄深い事を言う。ナイス」

「ふふ、ありがとうございます。

 騙して。

 欺いて。

 共に堕散る。

 鮮やかに咲いている花を折って自分の物にするような。

 ああ、恋愛とは何て罪深いものなのでしょう」

「いやいや。

 その発想はおかしい。

 怖いですって、アイレスさん」

「ん。一理ある」

「ねえよ!」


 盛り上がる女性陣にツッコミ抗議する悠馬の声。

 それは再度吹き荒れてきた風に掻き消され、残念ながら届かない……

 のでなく、そういった理由という事にされ無視されている様であった。

 






 多めのアクセス、お気に入り登録、ありがとうございます。

 本当は怖い、女性陣の裏面的な話でした。

 次回からはあらすじ通り、辺境を舞台とした群雄割拠チックな話になります。

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